この秋、「忠臣蔵」(TV朝日)と「最後の忠臣蔵」(NHK)でふたつの忠臣蔵もののドラマが放送されている。その双方で福本清三が出演していることに気がついた。
福本清三と聞いて、それ誰よ、と思うむきも多いと思う。いわゆる「斬られ役」の役者だ。
ウチは両親が時代劇が好きで、よく付き合いで見ていた。ある時、いつも同じ、眼つきの鋭い浪人があちこちの番組に出演していることに気づいた。「ほら、またあの人が出てるよ!」ということで、我が家ではいつしか『あの人』というコードネームで呼ばれるようになった。そして、ビデオデッキを購入した頃、エンドロールを巻き戻して見たりして、ついに福本清三という名にたどりついたのだった。
『あの人』はその風貌ゆえか浪人の役が多い。下っ端ですぐに斬られてしまうときもあるが、悪代官や山城屋(時には西海屋だったり越後屋だったりするのだが)の雇った用心棒の先生という設定が多かった。
台詞はほとんどなく、どんな声か思い出せない。用心棒であっても、一太刀であっさり斬られてしまうことが多い。地味なのだ。徹底して脇役なのだ。しかし、どういうわけか目に付いてしまう。不思議な存在感。
そんな地味な脇役の彼が、昨年の暮れ頃にちょっと話題になった。映画「ラスト サムライ」に出演し、テレビやら新聞やらにとりあげられたのだ。今回久しぶりに彼を見て、その頃の特集を思い出した。
ひっそり応援していた身として、たいへん嬉しく思った。劇場で映画を観るのは好きではないのだが、この話題につられて行ってみようかなという気にさせられた。トム・クルーズでも渡辺謙でもなく、福本清三を見に。でも結局行かずじまいで、そのまま忘れていたのだった。
さて今回のふたつの忠臣蔵における彼だが、まず、TV朝日の方は赤穂方だった。これからも登場することがあるかも知れないが、果たして47人に入るのだろうか。一方NHKでは吉良方で、第1回放送回ですぐに斬られてしまった。残念。ただ、ひょっとして別のシーンに別の役でちゃっかり登場したりして、と淡く期待している。ストーリーとともに、通行人なども目で追って見なければ。
とか思いつつ、録画しておいた「京都迷宮案内」を観ていたらなんと入院患者役で出演。現代劇は予想外だったのでびっくりした。しかも台詞がたくさんあったので、さらにびっくりした。そう言えばNHKで斬られたときも、台詞つきで大石内蔵助に斬りかかろうとしていた。台詞が多いのは、ハリウッド映画出演が影響しているのだろうか。
というわけで、この1週間で3度もの、台詞つきでの『あの人』の登場であった。だが、見終えた今、やはり声を思い出すことはできない。結局脇役なのだ。今までどおりひっそりと応援しつづけることにしよう。
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