「レヴィ=ストロース入門」を読んで神話のなりたちについて興味を持ったところ、たまたまこの本を見つけたので買ってみた。ユングだからもちろん文化人類学ではない。が、世界の神話をタイプ別に分類していて、作業じたいは似ている。分類したうえで心理学的な解釈を加えるのが違うところだ。
大学の講義を本にしたものということで、かみ砕いた説明が非常にわかりやすい。イザナギ・イザナミやスサノオなどの馴染み深い話が出てくるし、西洋絵画を見ているとしょっちゅう出てくるギリシャ神話なんかが比較対象になっていたりする。で、日本神話はかなり特殊な位置付けになるようだ。
心理学はほとんど知らないのだが、作者の論理はちょっと強引かなあと思うところもあった(そういえば「父性の復権」もそうだった)。だがかえってそれがおもしろく、ぐんぐん読み進んでしまった。
レヴィ=ストロースのような、細かく分解して並び替えて「ほーら、同じでしょ」というやり方だと、「だから何なの?」と思ってしまうが、こちらは話のファクターを心理分析して意味付けしていくので、安心感がある。
神話=宗教とは、我々は何者なのか、生まれる前はどうしていたのか、死んだ後はどうなるのか、ということを説明して安心させるものだと思うが、この本じたいがまさしくそんな感じに読めてしまった。
講義ノートのためか脱線もところどころにあって、それも雑学的でおもしろかった。ゴヤの「わが子を喰らうサトゥルヌス」では子どもを食いちぎっているが、神話では食べられた子どもはそのまま出てくるので、呑みこんだのが正解なのではないか、などなど。神話が題材の絵画は今までぼんやりと意味も無く見ていたが、ちょっと見方が変わりそうだ。
(林道義著、平成17年)(2005年11月9日読了)このエントリのトラックバックURL: http://katzlin.asablo.jp/blog/2005/11/20/6645114/tb