楽しみにしていた展覧会。ゴヤとかエル・グレコが来るというので、珍しく前売券まで買ってもう観る気満々だった。で、出かける前夜、何気なく自宅の本棚を見ていると驚愕の事実が。
なんと、プラド美術館展の図録がある・・・
そう、2002年に国立西洋美術館でも同名の展覧会をやっていて、ちゃんと見に行っていたのだ。図録まで買っときながら、今のいままですっかり忘れていた(ぉぃぉぃ)。そういやそのときはゴヤの「巨人」とかが呼び物だったっけ。エル・グレコやベラスケスも良かった。貴族が気取ったポーズをとっている肖像画もおもしろかった。せっかくだから復習しようかとも思ったが、変な先入観が入るとよくないと考え、あえて見ないで出かけることにした。
東京都美術館は他の国立の建物より一足早く、9時に開場する。我々が上野駅に着いたのは8:56。駅前は、動物園に向かうであろう家族連れや修学旅行の中学生たちでごった返していた。駅から美術館に向かう間には何種類かの看板があって楽しめた。

- エル・グレコ
- 4枚。例によって赤と青の服を着たキリストなど。この人独特の、微妙な陰影が個人的にツボ。顔が縦長の人物画を見ていると、画面比率の設定を間違ったパソコン画面ような気がしてしまう。
- 盲目の彫刻家(触覚の寓意)(リベーラ)
- No.9。皺が美しい。激しい既視感で、2002年展で見たのだろうと思ったが、帰宅して図録を見てみたらそれは「隠修士聖パウロ」だった。そういやぁこの背中に惚れ込んだんだったっけ。あらためて、リベーラという人は皮膚の描き方が上手いのだということを思った。
ちなみに、本展はすべて、2002年展との重複出品はないようだ。4年越しの展示替えという見方もおもしろいかも。
- 道化ディエゴ・デ・アセド、"エル・プリモ"(ベラスケス)
- No.17。これを見て、ベラスケスは道化の人たちの肖像を描いたんだったということを思い出した。2002年展に出品された「セバスティアン・デ・モーラ」はいろんな色が使ってあるが、これは暗いなあ。
- 聖ベネディクトゥスの夕食(リシ)
- No.22。左右のバランスが微妙にずれてておもしろい構図。でもベネディクトゥスが主題の絵なんだからそれでいいんだろう。
と、構図のことばかり考えて鑑賞していたら中央少し上になんだか黒い丸が見えてきた。それが、ちょうど透視の消失点なもんだから気になって気になって。果たして偶然なのだろうか、それとも下図が透けて見えるのか。
- ロシア大使ピョートル・イワノビッチ・ポチョムキン(カレーニョ・デ・ミランダ)
- No.30。本日一番のお気に入り。隣にあった「皇妃マルガリータ・デ・アウストリア」(マルティネス・デル・マーソ)もよかった。ほぼ等身大の肖像画で、堂々とした感じがよくでていると思う。絵の脇にある解説板に、「スペイン肖像画を代表する名作です」みたいなことが書いてあってふむふむと思ったが、にもかかわらずこの作品の絵はがきがなかったのは残念。
- エル・エスコリアルの無原罪の御宿り(ムリーリョ)
- No.32。またまた激しい既視感。やはり2002年展に「無原罪の御宿り」の題で出品あり。しかし題材が同じなだけで絵は違う。2002年展の方が上を向いている分「祈り」っぽくて好み。
- 皇帝カール5世と猟犬(ティツィアーノ)
- No.36。威厳がどうのこうのという解説があったが、白タイツで股間にはぁゃιぃ突起と、まるでコントやってる芸人のようないでたちでもう自分は大笑い。いっそのこと志村けん並みに白鳥にしてほしかった。
- ヒッポダメイアの略奪(ルーベンス)
- No.51。ルーベンスはあまり好きな画家ではないが、これは良かった。左の素っ飛んで追っかけてるヤツの頭と花嫁の身体がそれぞれ黄金比、花婿らしき青年は中央で、彼ら登場人物の頭が上から1:3くらいのラインに横一列に並ぶ。美しく均整の取れた、流れるような構図が実にドラマチックでルーベンスちっく。ずっと眺めていても飽きなかった。ポチョムキンと並んで本日のお気に入りに。
- 大公女マリア・テレサ・デ・アウストリア(メングス)
- No.67。生意気そうな3歳の子ども。頭長すぎでしょう。寿老人と命名。
- ボデゴン:風景のなかの西瓜と林檎(メレンデス)
- No.69。ボデゴンとは静物画のこと。対角線が基本の構図がおもしろい。ざっくり割れたスイカの赤の彩度も見事で目を奪われた。
- ゴヤ
- 展覧会全5章のうち「近代絵画の序章」としてゴヤの7枚が1章に編成されているが、なんだかパッとしなかった。唯一「魔女の飛翔(No.78)」はらしくてよかったけど、サイズが小さかった。よって個人的には不完全燃焼といった感じ。
全部見終えたときはまだ10時すぎ。朝一番で入ったときは空いていたが、この頃は結構な人だかりだった。大きい絵が多いため皆引いた位置から鑑賞するので、場内を移動するのに結構邪魔になったりする。
絵はがきを6枚買ったが、図録は買わなかった。事前に期待しすぎたぶん、ちょっと物足りなさが残った展覧会だった。帰宅後に2002年の図録をぱらぱらめくってみたら、肖像画と静物画とゴヤ、エル・グレコ、ベラスケスが並んでてなんだか似たような印象。規模はほぼ同じだが、質は前回の方が良かったのではないかと思った。ルーベンスのサトゥルヌスとかベラスケスの道化の肖像なんかはかなり強烈な印象だったのだ(って、つい昨日まで忘れてたけど)。
ところで、この展覧会の出品リストはただ作品名を書いているだけでなくて、館内のどの場所に展示してあるかを図示してある。自分はいつも題名をほとんど気にしないで見るので、こういうリストだと「あー、あの辺にあったやつか」と思い出せるのが良い。

会場をもうひとまわりしてから出たがまだ10:30。ロビーで30分時間をつぶしてから2階のレストランに行ってプラド美術館展記念のランチセットを食べた。羊の煮込みは脂身もなく柔らかくて美味しかった。ホタテのトマトソースもスペインらしくてグッド。ワインもスペイン産のものだった。そういえばこのレストランには初めて入ったが、なんとここも東博のレストランと同じ精養軒グループだった。セットメニューの食後の飲み物の目印にプラスチックの棒を置いておくシステムが東博と同じだなあと思っていたら、なるほどそういうことだったのね。
(東京都美術館・2006年5月20日)