BS日テレの『ぶらぶら美術・博物館』で興味を持ってしまった展覧会。山下清展は2005年5月に観ているのだが、そのときは会場がデパートの催事場で、美術展という環境ではなかった。今度はちゃんとした美術館だ。
千葉県立美術館に行くのは初めてだ。東京駅からひっさしぶりに京葉線に乗る。ディズニーランドと同じ路線なので大混雑を覚悟したが、まあそんなことはなくて、ちゃんと東京駅から座ることができた。それでもやはり舞浜駅で大半の人が降りてしまい、美術館最寄り駅の千葉みなとで降りる人はあまり多くはなかった。
駅前に出ても、歩いている人も少なくて、ほどよくローカル感が漂う。美術館への道中には警察署や国交省の建物なんかがあるのだが、その割には官庁街という雰囲気でもない。美術館みたいな施設って、(特に公立の場合は)人の集まるとこに作るもんだと思うのだが、ここはちょっと違和感があった。
とにかく、家から電車を乗り継いで、2時間近くかかって美術館に到着したのは9時半だった。
入口から中を覗くと、天井の高い展示室の中には意外にも大勢の観客がいた。
- 長岡の花火
- No.83。これを見ると右端がちょっと空いているのがいつも気になるのだが、間違いなく代表作だ。
- スイスの町
- No.87。遠くのアルプスの山並みが美しい。ちぎり絵なのに、ちゃんと尾根と谷がわかるのが地味に凄い。
- ロンドンのタワーブリッジ
- No.89。船の乗客に注目せよ、と案内板に書いてあったので見てみると、なんとまあ実に細かい仕事だ。たまたま単眼鏡を持っていたので拡大して見てみると、意外にも味わいがなくなるのが不思議だ。
以前観たときは橋の上の金網の立体感が凄かった記憶があるのだが、この日はさほど凄くは感じなかった。その後に修復を経たからなのだろうか?
- ベニスのゴンドラ風景
- No.102。水彩。街燈が近景に大きく描かれる、『富嶽三十六景』とか『江戸名所百景』みたいな浮世絵的構図。
- ベニスのサンマルコ寺院
- No.101。水彩。なぜか今展で一番のお気に入り。構図が美しい。人間を描くのは下手くそなのが、らしくていい。これにも街燈が中心に描かれているが、こういうものが好きだったのだろうか。
ヨーロッパ旅行での作品は水彩画が多いが、これらはいずれもペンで輪郭や点を描いたあと、水絵の具で彩色しているもの(本来なら作品リストにも「ペン・水彩」とか表記すべきところだろう)。水彩ということもあろうが、色の濃淡は絵の具のグラデーションではなくて、ペンの点描で表現されている。これが独特の味わいがあってイイ。
- 群鶏
- No.160。有名な伊藤若冲の模写。この油彩が実に素晴らしい。油絵具は乾くのに時間がかかって塗り重ねられないため清は嫌ったという話だが、実にもったいないと思った。この作品を見たら、たいていの人は清が「東洋のゴッホ」と言われることに納得してしまうだろう。わたし自分は、ゴッホなんかよりずっといいと思うのだけど。
- 東海道五十三次
- No.104~158。展示されていたのは、ペン画を元にした版画だった。どれも構図が美しく、それは離れたところから見るとよく分かる。(人間以外は)描写もピカイチで、風景の切り取り方も面白い。
また、それぞれの町に関する清のコメントが面白い。「○○は△△なんだな」という、あの独特の口調のコメントをずっと読んでいると、思わず伝染りそうになってしまう。
何しろ家から遠いので、そんだけ遠出して面白くなかったらガッカリ度が高いという心配があったのだが、そんなのはまったくの杞憂で、なかなか味わい深い展覧会だった。ボイスなんちゃらがないので人が滞留しないし、展示室も広く開放的で気分がいい。というわけで、最初は30分くらいで見終えるつもりだったのが、結局2時間かかってしまった。
客層は、子供連れとお年寄りが多いような気がした。中学生以下と65歳以上が無料だからだろうか。そのせいか会場はざわざわした感じはあったが、自分には許容範囲だった。
会場から出ようという頃にはかなりの人出になっていた。図録は迷ったけど、買わなかった。やっぱり貼絵は 3D がいいと思ったからだ。そのかわり、ペン画作品を中心に絵はがきを7枚買った。会期末に近いせいか、チラシがなかったのは残念だった。
千葉みなとの一帯にはあまり興味をひく食事処はなかったので、新宿まで行ってから昼食をとり、帰った。
(千葉県立美術館・2011年6月26日観覧)