KATZLIN'S blog

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チューリヒ美術館展 と 国宝・紫式部日記絵巻2014-10-13 23:46

チューリヒ美術館展 --印象派からシュルレアリスムまで

まあまあ興味のあった展覧会。タダ券が手に入ったので、ならば是非、ということで行ってみることにした。10月中なら同じ国立新美術館で開催中のオルセー美術館展も見られる。ついでだからこっちも見てみることにするか。
チューリヒ美術館展


開場は10時。メトロ乃木坂駅に着いたのは9:50くらいだった。改札を出ると、地下の臨時チケット売り場が大騒ぎ。えっ、そんなに混んでんの、と思ったら、オルセー展のチケットを買う人達だった。

そこらじゅうにオルセー展の案内が溢れていて、あれ、チューリヒ展ってやってんのかな、というくらいな感じだった。チューリヒ展の会場は美術館の1階で、オルセー展が2階。乃木坂駅改札から続く人の波は、美術館に入った最初の角を左に曲がったすぐのエスカレータで分かれ、そのほとんどが2階に上っていくのだった。
到着時は10時ちょっと前だったので、まだ入れないだろうと思っていたら、豈図らんや、すでに開場していた。まだ絵を見る気になっていないうちに流れのままに入場してしまったもんだから、なんだか入りこめずに変な気分のままの鑑賞開始となってしまった。

セガンティーニ
No.01、02。入場してすぐにセガンティーニの絵が2枚、どーんと飾ってある。印象派のように見えなくもないけど、だけどあんなにモヤっとしていない。自分は輪郭のキリっとした絵が好きなので、これは気に入った。F16まで絞って撮影した写真のような、背景の奥の方までカリカリな感じがイイ。
これまで完全に忘れていたのだが、大原美術館にセガンティーニの「アルプスの昼寝」という作品(有名なんだそうな)があって、それをBS日テレ『ぶらぶら美術・博物館』で1年ほど前にとりあげられていたことを、帰宅してから調べて思い出した。
ココシュカ
No.35〜39。wikiによるとクリムト、シーレと並び、近代オーストリアを代表する画家の一人なんだそうな。まったく知らなかったが、この展覧会で一番よかった。
それにしても、この、ものすごく、人を不安にさせる表現はいったいどういうことなんだろう。『恋人と猫』(No.37)なんかは、遠くから見ると、亡霊だか悪霊に襲われている女性の絵かと思った。解説を読むと、第一次大戦の従軍を経て精神を病んだとあった。この絵は1917年の作品だが、1947年の『モンタナの風景』(No.39)は絵のタッチこそ同じだが真逆の明るい作風。
クレー
No.47〜50。クレーは好きな画家だ。相変らずの安定感。どこがいいのか、と聞かれたら全く説明できないのだけど。
コンポジションのようなのもいいけど、抽象のようでいて抽象じゃない、落書きみたいな作品がどういうわけかツボにハマる。で、今回のそれは、『狩人の木のもとで』(No.50)なのだった。
アウグスト・ジャコメッティ『色彩のファンタジー』
No.53。抽象絵画の部屋で目を奪われたのがこの作品。タイトルどおりの色彩感覚もよかったが、なんといっても、色の着いたキクラゲを貼りつけたような画法がおもしろかった。この陰影は、絵ハガキや図録では分からないだろう。
アルベルト・ジャコメッティ
No.69〜74。名前は知っていたけど、(たぶん)実際に作品を見たことのない作家。しかしこれが素晴らしかった。魚のマンボウのように、にょーんと伸びた人物は、それでも正面から見るとちゃんと人間に見えるのが凄い。それになんてったって、おもしろすぎる。
ところでちなみに、上述のアウグストは親戚なんだそうな。

予想以上に楽しい展覧会だった。特にココシュカとジャコメッティは大収穫だった。
クレーのマウスパッドと、絵ハガキを10枚買った。絵ハガキは特典が付いていて、5枚買うと作品をあしらったシール、10枚だとブックマークをもらえる。というわけで、モンドリアンの『赤・青・黄のコンポジション』のブックマークをゲットしたのだった。

この時点で11時。オルセーを見たら昼ぐらいになるだろうか。
と、会場を出ると、たいへんな騒ぎだった。2階のオルセー展の行列が2階だけで収まりきらず、1階にも列ができていたのだ。こりゃもう美術鑑賞どころじゃないや、ということで、とりあえず地下のカフェに避難して早めの昼食をとったのだった。サーモンのサンドイッチが美味しかった。
すっかりあてが外れて時間があまってしまった。近くのサントリー美術館で開催中の高野山展は、前売券を買ってはいたが今日は持ってきていない。いろいろ考えた末、五島美術館でちょうど国宝の紫式部日記絵巻が展示されていることを思い出し、六本木から上野毛に行くことにした。


秋の優品展 絵画・書跡と陶芸

六本木からは乗り換えだなんだで1時間近くかかった。それでもまだ時間は14時過ぎだった。
五島美術館の国宝・紫式部日記絵巻の展示期間は10/11-19のわずか9日間。どうせゲロ混みだろうが、オルセーに比べりゃたかが知れてるだろう。この機会を逃がしてたまるか、くらいついてでも見てやる、と思って行ったら、そんなことはなくて、ゆっくりとかぶりつきで鑑賞できた。

この絵巻は実に素晴らしかった。第三段の貴人たちの衣装は、2種類の黒を使い分けていて、黒の中に黒で模様が描いてある。女房の服も、蝶やらの紋様が艶やかだ。貴人が女房をつかまえて扇子でうりうりしているのが、テレビ時代劇の悪代官が女中をからかっているのとダブって見えて、笑えた。
他には第一段での高欄の釘隠しの描写がよかったし、第二段では赤ん坊(のちの後一条天皇)がどう見ても眠っている坊さんにしか見えなかったりとかいう笑い要素もあった。同じ部屋には江戸時代に描かれた大江山絵巻も展示されていたが、それと比べると紫式部の精緻さがより感じられた。

紫式部の3枚組絵ハガキセットを買ってから、またまた電車で今度は新宿に行き、伊勢丹をぶらぶらしたあと食事をして帰った。
(国立新美術館と五島美術館・2014年10月12日観覧)

日本国宝展2014-10-19 17:03

10何年ぶりだかで開催の日本国宝展。開催を知ってから楽しみにしていた。にもかかわらず、目玉が土偶とはイマイチだなあと半ばがっかりしていたら、開催の2ヶ月くらい前になって正倉院宝物が特別出品されるとのアナウンス。開催の10日くらい前になってようやくアップロードされた出展リストを検討し、前期と後期に1回ずつ行くことにした。
前期のお目当ては正倉院宝物(国宝じゃないけど)と、源氏物語絵巻だ。土偶が5体揃うのは実は後期になってからなのだった。
日本国宝展


博物館に着いたのは開場約10分前。かなりの行列になっていた。9:30になって門が開き、粛々と中庭を進む。平成館の前で待たされて、実際に展示室に入れたのは9:40くらいだった。
入ってすぐの仏足石と、居並ぶ挨拶板(そんなもの読んでないで早く展示を見ればいいのに)、それに玉虫厨子に群がる人が多くて早くも大混雑の様相だった。正倉院宝物はその同じ部屋に展示されていた。

鳥毛立女屏風(正倉院宝物)
No.S02。高校時代に志賀直哉の『暗夜行路』を読んでこの絵の存在を知り、いつか実物を見てみたいものだと思っていたが、それがようやく叶った。思っていたよりずいぶん色が薄かった。鳥の羽はほとんど欠落しているという。ほとんど、ってことはどっかに残ってるんだろうと思って探したが、とうとう分からなかった。
楓蘇芳染螺鈿槽琵琶(正倉院宝物)
No.S04。超有名なお宝。正倉院宝物と言えばコレという人も多いのだろう、みな口々に「あっ、教科書のやつだ!!」と言っていた。それにしてもこの螺鈿の細工は凄すぎる。でかい花の真ん中のこの飴みたいな固まりは、瑪瑙かなんかですか。で、有名なこの螺鈿は琵琶の裏側であり、表側には数人の人が楽器を演奏している絵が描かれている。で、やはりみな口々に「えー反対側ってこんなだったんだ!!」と言っていた。この表側の人が変な踊りを踊っているように見えるのが笑えた。
緑地彩絵箱(正倉院宝物)
No.S06。緑のあざやかなきれいな小箱。残念ながら、人の波が凄くて近寄るのを断念し、人垣の隙間から望遠鏡で見た。
一字蓮台法華経(大和文華館)
No.26。料紙が絢爛豪華。実に美しい。
当麻曼荼羅縁起絵巻(光明寺)
No.33。井戸掘りの場面で当時の大工仕事のようすが分かるとか。石仏を彫っているシーンもなかなか面白い。
土偶 縄文のビーナス(茅野市・尖石縄文考古館)
No.45。この展覧会の目玉のひとつ。頭の上までぐるぐる模様になっているのが帽子みたいでおもしろい。これ、そのまんま着ぐるみにするだけでゆるキャラになれそうだ。
土偶 合掌土偶(八戸市埋蔵文化財センター)
No.49。一目見た瞬間に、訳も分からず、なんとも言えない寂しい気分になった。第一印象は最悪だったのだ。しかし全展示を見終えて再びこいつの前に立ったとき、ふと、「ごめんなさい、許してください」と懇願している仕草のように見えた。そうか、それでマイナスイメージが先行しちゃったんだ。そうして理由が分かると、今度はこいつがとても愛らしくなってきたのだった。
こいつは何か重い罪を犯したのだろうか。合掌しているというのは現代の我々が勝手にそう見ているだけで、実はこれは両手を繋がれている表現なのではないのだろうか、などと勝手に考えたりした。
寝覚物語絵巻(大和文華館)
No.70。美しい料紙の絵巻だが、絵に比べて詞がずいぶん多いように感じた。
信貴山縁起絵巻(朝護孫子寺)
No.69。展示は尼公(あまぎみ)巻。大仏の前で尼公が寝たり祈ったりする有名な異時同図は、展示の上のパネルでよく分かるようになっていた。
源氏物語絵巻(徳川美術館)
No.67。前週に紫式部日記絵巻を見たばかりだが、それに優るとも劣らない精緻で優美な素晴らしい絵巻。この下膨れた顔の輪郭の曲線と、メーテルや森雪も顔負けの長い目の組み合わせはまったく官能的だ。詞の方の料紙も燦びやかなうえに字も美しく、まさに日本美術の極上のものを見た、という満足感でいっぱいになった。
展示ケースの位置が単独だったので(他作品と並んでいなかった)、いったん人だかりが出来るとそれがなかなか解消せず、正面の位置に入るのに苦労した。さらに、見終えて移動しようとすると人をかきわけねばならず、押し合い圧し合いでたいへんだった。
金銅能作生塔(長福寺)
No.93。細かい金工芸に感心。塔頂部が人の歩みでゆらゆら揺れていて、大丈夫かなとちょっと心配になった。
法然上人伝絵巻(知恩院)
No.95。前期の展示は巻第七。空から仏が下りてくるのを見るシーンでは、鳳凰のような架空の鳥と、オシドリのような実在の鳥が、まったく違和感なく混在しているのが面白かった。
琉球国王尚家関係資料(那覇市歴史博物館)
No.100。(6)の黒漆雲竜螺鈿東道盆(とぅんだーぶん)が凄かった。螺鈿というとベージュをイメージするが、この螺鈿は虹色なのだ。照明の加減なのか何なのか青味が強く輝いて、実に美しかった。
この琉球王家資料や土偶なんかは、これまで国宝のなかった地域のものだから無理矢理指定したんだろうな、と高をくくっていたのだが、ところがどっこい、やはりそれ相応のものだったのだ。
玳玻天目(相国寺)
No.109。美しい玳玻天目。5つある国宝の天目茶碗でも、玳玻はこれだけだ。単眼鏡を使ってどアップで見るとキラキラと輝くさまが見事だ。
薬師如来坐像(奈良国立博物館)
No.114。小さな像だが、なかなかの優品。一木造で、いかにも平安時代な大らかなところがイイ。

以前見たことのあるものとか東博所蔵のものとかはすっ飛ばして見たのだが、それでも1時間くらいかかった。でも1時間かかったとは思えないくらい、あっという間に感じた。それだけ充実した展示ということなのだろうと思った。
そのあとは、後期にはもう見られなくなってしまうものを中心に、もう1回まわった。

お土産コーナーには「国宝店」とかいう名前が付いていた。家に週刊朝日百科「日本の国宝」があるので、図録は買わなかった。その替わり絵ハガキをたくさん買おうと思ったら、なんとも残念なセレクションで、チケットやチラシにもあしらわれている新国宝・安倍文殊院のポロンちゃんと、今日見た2体の土偶の合計3枚だけ買った。レジはロープで制限するほどの混雑ぶりだった。レジ待ちのとき、自分の前にいた20代くらいの3人組の女性が、3人とも揃って縄文のビーナスのぬいぐるみを持って並んでいる光景はなんだかシュールな感じがした。
あと、土偶のガチャガチャをやった。3回やったら、うち2個が「ごめんなさいもうしません」土偶だった。
土偶

平成館を出たら、入場待ちの列がひどいことになってるだろうと思っていたら、誰もいなくてすんなり入れる状態だった(それでも展示室は混んでいたけど)。11:30だったので、東洋館のオークラで昼食をとった。少しだけ待たされたが、こちらはまだ大した混雑ではなかった。食後は、国宝展のためにほとんど国宝がない本館をひとまわりしてから、次の目的地である三井記念美術館へと向かった。
(東京国立博物館・2014年10月18日観覧)

特別展 東山御物の美 --足利将軍家の至宝--2014-10-19 23:12

この秋は国宝の展覧会があちこちで開かれている。もちろん、日本国宝展が最大のものなのだろうが、実は三井のこの展覧会も見逃せない。全部で12もの国宝が見られるのだ(もっとも、展示替えがあるから、全部見るには3回行かないといけないのだけど)。


昼過ぎまで東博で日本国宝展を見たあと、上野から山手線に乗り神田で降りて、三井本館に着いたのは14時半くらい。
混雑具合は、というと、ほどほどだった。テーマもそうだけど、出品作品がシブすぎる。

青磁輪花茶碗 銘馬蝗絆(東京国立博物館・重文)
No.59。青磁の美しさに足が止まった。輪花ということで、縁に小さく6つ切れ目が入り、上から見ると6片の花弁のような意匠になっている。
解説を見ると、義政所有の頃、割れてしまったので替わりを求めたところ、これほどの物はもう作れないということで鎹を打ってそのまま返ってきたという逸話が。また、青磁茶碗でもっとも美しいとあった。実に素晴らしい。
油滴天目(大阪市立東洋陶磁美術館・国宝)
No.55。5つの国宝天目のひとつ。天目茶碗では曜変が最上とされるようだが、この油滴も素晴らしい。静嘉堂の重文の油滴よりも模様が細やか。縁の金が燦びやかなのが印象的だった。
李迪筆 雪中帰牧図(大和文華館・国宝)
No.10。相当前に、奈良の大和文華館で見た記憶があるが、そのときから結構好きな絵。久々の対面なのだが、こんなに暗かったっけ、という印象。ただしそのせいか、木に雪が積もっている様が強調されているような。
伝馬麟筆 梅花小禽図(五島美術館・重文)
No.20。ムムッ。この鳥、コガラだと思っていたら、解説にジョウビタキとある。そう、よくよく見たら、腹のオレンジ色が背景に溶けこんで分かりにくくなっているだけなのだった。いやそれよりも、ジョウビタキはこんな仕草しないだろ、という気がしたのだった。
伝銭選筆 宮女図(個人蔵・国宝)
No.49。公開は5、6年ぶりとかというレア物。唐代には女官の男装が流行ったという話だが、そもそもなんでこの人が女と言えるのかが自分には分からない。このお宝を味わうには、自分はまだまだ研鑽が足りないようだ。
梁楷筆・大川普済賛 布袋図(香雪美術館・重文)
No.24。なんとも愉快な布袋さんの絵。展示室4の一角に梁楷が並んでいて、それがどれも自分のツボにはまった。こういう諧謔趣味な水墨画って、絵心のある坊さんが手なぐさみで徒然に描いたようなイメージを勝手に持っていたが、梁楷は歴とした画家である。
伝梁楷筆 六祖破経図(三井記念美術館)
No.26。六祖(慧能)が経を破って「不立文字」「教化別伝」を説いたというシーン。元々はNo.27の『六祖截竹図』と対なんだとか。筆のかすれ具合とかユーモラスな動きから、鳥獣人物戯画に描かれている、相撲に勝って気を吐いている蛙を連想してしまった。
伝梁楷筆 六祖截竹図(東京国立博物館・重文)
No.27。六祖が竹を切った瞬間に大悟を得たというシーン。この解説を読んで初めて、同室に展示されているNo.23出山釈迦図(国宝・東京国立博物館)が同じ梁楷の絵と気付いた。作風がぜんっぜん違う。それもこの梁楷の懐の深さということのようだ。

2周した。一言で言って、とてもよい展覧会だった。とにかくシブい。これだけの出物があっても東博みたいに混んでないのがまたイイところ。
絵ハガキは、この展覧会のために特別に作られたものではなく、所蔵するあちこちの施設のオリジナルのものを売っているだけなのは残念だったが、それでもジョウビタキと截竹と雪中帰牧図の3枚を買った。

三井を出てからは東京駅の大丸に行き、ちょうど開催されていた「世界の酒とチーズフェスティバル」でワインを楽しんだ。一日中立ちっぱなしで腰が痛くなった。
(三井記念美術館・2014年10月18日観覧)