KATZLIN'S blog

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御法に守られし 醍醐寺2014-11-07 23:38

醍醐寺展看板
東急東横店でイタリアフェアが開かれるということで、ワインなど食材の買い出しに出掛けることにした。折角渋谷まで行くのに買物だけではもったいないので、何か展覧会と組み合わせようということになり、調べてみると松濤美術館で醍醐寺の絵因果経が全場面展示中というので、ついでに行ってみることにした。
ついでのつもりだったのだけど、(そのせいもあってか)予想外に満足の展覧会だった。


どうせ空いているだろうと遅めに家を出た。井の頭線を神泉駅で降りて徒歩数分の松濤美術館に着いたときはすでに午後になっていた。
果たして、予想どおり、美術館は入口からしてひっそりとしていた。購入したチケットの番号は1295と1296だった。地下の第一会場に入ると、いかにも絵巻らしい横長なケースに人々が一列に並んでいるのが見えた。

閻魔天像(国宝)
No.8。一目見たとき、すぐに「さてはキャプション間違えたな」と思った。いや、だって、これ、どう見ても閻魔じゃなくて、観音像に見えるんだもの。この人が嘘つきの舌を引っこ抜くあのおっかない大王とは思えない。
と、思いつつその解説をよくよく読むと、どうやら現在我々がイメージする怖い閻魔が確立する前の、たいそう古い、空海が請来した曼荼羅の絵像に通じるものとのこと。へえええ、これはちょっとびっくりした。単独像として「最古かつ最良の優品」だそうな。
いやいやこれは、非常に純粋に、大層驚いた。少なくとも図鑑で見て知っているはずなんだけど、やっぱりそういう本の解説なんかと違って、実際に見るとインパクトがでかい。この体験だけで、来た甲斐があったと思った。
過去現在絵因果経(国宝)
No.1。奈良時代のもので、日本最古の絵巻ともいう。既視感があるのは、割と最近、芸大所蔵のもの(国宝)を見たばかりだからだろう。あと、奈良国立博物館の入場半券がコレなのが印象深い。解説を読むと、絵因果経じたいは8巻仕立てなのだそう。
しかしなにより、全場面展示がよかった。通常このテの絵巻は長い巻物の一部分の展示となるのだが、この日は全場面を見ることができたのだ。やはりストーリーがよく分かる。
「骨と皮になった悉達太子を見て元家来が悶絶」「菩薩になった太子が歩くと500羽の青雀が太子の周りを飛びまわる」「魔王が太子を矢で射ようとするも、矢は空中で蓮華に変わってしまう」などの迷シーン、もとい、名シーンが続き、クライマックスは魔王の軍勢が太子の瞑想を妨害する場面だ(チケットやチラシにもあしらわれている)。この化け物の軍勢の素朴な描写が現代の我々にはユーモラス。この絵巻は奈良時代の作だが、同じ頃の仏像が「大らか」と評されるのと同じような、生き生きとした雰囲気が感じられた。なにしろもう、オモロすぎる。
最初はこんなに拙かった絵巻が、300年後に源氏物語絵巻や紫式部日記絵巻のように昇華していくことを思うと、文化の変遷とは非常に面白いものだと改めて思ったのだった。
信長、秀吉、家康の書状(国宝)
No.42〜44。2013年に新たに国宝に指定された『醍醐寺文書聖教』の一部。天下人3人の自筆文書が並んでいるさまは、歴史ファンは萌えるかもしれない。以前京都の豊国神社で見た秀吉の書状はえらく字がヘタクソだった印象だったが、この文書はサマになっていた。

2周した。冷静に展示数から考えれば、入場料1,000円は高いと思う。しかし、絵因果経が見られるんだ、くらいの軽いノリで行ったところにあの閻魔天像が見られて、しかも静かな環境で、すっかりトクした気分になったのだった。
区立美術館の企画だからか、展覧会オリジナルのグッズは図録のみと寂しかった。いや、というより、図録を作るほど気合が入っているという見方の方が正しいだろう。値段も1,200円と安いから買っちゃおうかな、とも思ったが、結局やめた。今はやや後悔している。

ワイン
美術館を出てからは予定どおりに東急東横店に行った。会場の半分は立ち飲みバルになっていて、ワインを飲んだり、ラザニアを食べたりしてから帰った。東横店ではイタリア展は初開催らしいが、見かけたことのないワインもたくさんあって、これまた予想以上に楽しかった。
(渋谷区立松濤美術館・2014年11月2日観覧)

再び日本国宝展2014-11-24 21:50

前期は10月19日に行っており、後期はいつにしようかというのが思案のしどころだった。いよいよ金印がやってくるので混雑は必至だ。
加えてテレビ番組の宣伝攻勢も強まってきており、すでに放送ずみの『日曜美術館』『ぶらぶら美術・博物館』(←見逃した!!)に続き、『美の巨人たち』でも善財童子がとりあげられる。一風かわったところでは、なんと『もしもツアーズ』でも放送とのこと。
そこまで一般人の間でも知られてしまっては、もう土日なんかに入ったら大変なことになるに相違ない。ということで、仕事のやりくりをつけて、金曜午後に突入することにしたのだった。


相棒と上野駅でおちあい、エキナカで軽く昼食をとった。この間、公式サイトの混雑状況を確認すると、12時過ぎに入場規制が始まって、入場待ち時間が40分とのこと。陽気もいいし、それくらいなら待ってもいいだろうと予定どおり突入することにした。
正門付近は閑散としていて「ホントに混んでんのかな」とも思ったが、平成館まで行くと確かに行列が出来ていた。入口から噴水を半周したあたりが最後尾。これで40分か、ふむふむ。
我々が並びはじめたのが13:55で、入場は14:20過ぎ。実際に待ったのは、だいたい30分くらいだった。後期になって展示されたものを中心に見てまわった。

普賢延命菩薩像(持光寺)
No.40。これまで仏画はスルーしがちだったが、これは目にとまった。4頭の象に乗る菩薩の絵。平安仏画なんだろうけど、インド感満載だ。あとで調べたら、通常非公開で滅多に展示されない超レア物なのであった。
土偶 中空土偶(函館市・縄文文化交流センター)
No.48。北海道唯一の国宝。頭と脇から、中が空洞なのが分かる。どうやって作ったんだろうとか、どうしてわざわざ中空にしたんだろうとか、古代の蝦夷の知恵に感心。
山越阿弥陀図(禅林寺)
No.82。有名な山越阿弥陀。過去に、ここ東博の国宝室で見たことがある。今回見て、ずいぶん綺麗だなと思った。臨終に際して阿弥陀の指と死者の指を糸で結んでおくとかいう話を聞いたことがあるが、糸を通した穴はよく分からなかった。
孔雀明王図(仁和寺)
No.85。これまで仏画はスルーしがちだったが、これまた目にとまった。正面を向いた孔雀の首のうねり具合がなんとも言えず、「降りたった瞬間の動きを表している」と言われると、そんな気になる。「世界一の北宋画」「最高峰」「傑作中の傑作」など、説明板でも大絶賛の一品。仁和寺公式サイトの画像を速攻で保存した。
紅白芙蓉図(東京国立博物館)
No.101。東博が自前の作品で数稼ぎしたな、と思わず邪推したが、これがなかなかイイ。右の白芙蓉から左の紅芙蓉に向かって徐々に紅くなるさまが美しかった。これまた「南宋画の最高峰」と絶賛の説明板なのだった。

入場規制がされていることもあって、場内は混んではいるけどまあ想定の範囲内というところか。金印は過去にじっくり見たので今回は華麗にスルー。だって、間近で見たい人の行列が、もんのすごいことになっているんだもの。

2周してから土偶ガチャガチャをやったら、中空土偶が出てきた。前回、合掌土偶と縄文の女神が出ているから、これで3つになった。縄文のビーナスが出るまでやろうかと思ったが踏みとどまった。国宝店は凄い盛況ぶりだった。
ガチャガチャの土偶
(東京国立博物館・2014年11月21日観覧)

再び東山御物の美2014-11-28 23:24

後期の見所は、なんといっても徽宗皇帝筆の桃鳩図。公開が10年ぶりくらいというレアアイテムだ。で、さらに、公開期間がほんの1週間程度とさらにプレミア感に拍車がかかる。このお宝を拝むには、休日と合わせるとなると勤労感謝の3連休しかチャンスがない。
まあでも、前期に行った感じからするとどうせ空いているだろうと、土曜の午後に悠々と出かけることにした。


相棒と待ち合わせて昼食をとったあと、東京の三井本館に着いたのはもう3時近かった。
7階の美術館に直結するエレベータを降りると、1か月前と変わらない雰囲気。前回の半券を提示してリピーター割引でチケットを購入し、中に入ると、意外にも展示ケースに人が群がる状態で、明らかに前期よりも混んでいた。

徽宗筆 桃鳩図(個人蔵・国宝)
No.1。ケースの前が人だかりになっていた。とは言っても10人ほどが群がる程度で、どこぞの金印みたいな行列を作るとかそういうことではない。その10人とて波があり、うまく乗れれば間近でバッチリ見られるのだ。
かつて、同じ徽宗筆「五色鸚鵡図」を名古屋ボストン美術館で見たことがあるが、まあ暗いし薄いしで見難いことこのうえなかった。その先入観があったのだが、それを完全に吹き飛ばすくっきり度でびっくり。ハトの眼の周りの襞もよく見えた。この気品はどうだろう。前の日に見た東博の国宝展にも宋画のよいものがあったが、これも負けず劣らず素晴らしい。凄くよいものを見た気がしたのだった。
世界史の教科書に登場する徽宗は文人皇帝でどうのこうのと書かれるが、そう言うと下手の横好きみたいに思ってしまうが、実はプロ級の腕前なのだ。
伝徽宗筆 秋景山水・冬景山水図(金地院・国宝)
No.3。小さな猿と小さな鶴をみんな探していた。樹上の猿はすぐわかったが、鶴は難問だった。
牧谿筆 漁村夕照図(根津美術館・国宝)
No.41。漁村夕照図は過去にも見ているが、やはり墨の濃淡でもやっとした景色を表現するのが絶妙で、やっぱり感心。
伝牧谿筆 翡翠・鶺鴒図(MOA美術館)
No.44。そもそも実物が白黒のセキレイはともかく、あのカラフルなカワセミを墨の濃淡だけで表現しちゃっているのが凄い。枝に止まってる脚とか短い尻尾とか、実によく観察していると感心。

馬蝗絆や飛青磁花生や油滴天目は前回同様(当たり前か)、美しかった。
最後にもう1周してから会場を出た。客の単眼鏡使用率が異様に高かった。どこぞの国宝展とは大違いで、それだけマニアが集まったということが言えるだろう。もちろん団体客なんかいる訳がない。美術が本当に好きな人しか来ないのだ。

会場を出るとすでに17時になんなんとしていた。近くのフランス料理店に電話してみると席が空いているというので、三越で時間をつぶしてから行った。思ったより高かったが、思ったよりはるかに良い店だった。いろいろと満足できた一日だった。
(三井記念美術館・2014年11月22日観覧)