KATZLIN'S blog

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みちのくの仏像2015-03-01 20:43

昨年春に会津を旅行した際、勝常寺の住職が、「今度の冬に上野の博物館に薬師像を貸し出す」と言うのを聞いて以来、ずーーーっと楽しみにしてきた展覧会。しかも相棒がチケットをタダでゲットしてきて、もうテンション上がりまくりの日々であった。
気になるのは、会場が本館特別5室ということで、かなり狭いということだ。それはつまり展示数が少ないと言うことでもある。リストを見るとたったの19点。BS日テレ『ぶら美』で「仏像スペシャル」と銘打って法隆寺館とか東洋館に行っていたのは、1時間の放送枠を満足できなかったらに違いない。
みちのくの仏像展


どうせ人気なくて空いてるだろうと思ったが、念のため開館一番に行くことにした。9時半に着くと、案の定、人はさほど多くはなかった。ま、こんなもんだろうと思ったところ、特別5室の入り口はかなりの混雑。そう、人は少なくても、それ以上に、会場が狭いのだ。アブネー、早めに来てよかった。

聖観音菩薩立像(岩手 天台寺・重文)
No.1。美しい鉈彫りの仏が入り口で出迎えてくれた。正面から見るとスマートに見えるが、少し角度を変えると、意外なほどに腹部がぽってりしている。それもまた美しい。土偶もそうだが、東北って、独特の美意識というか文化が面白い。
薬師如来坐像(宮城 双林寺・重文)
No.6。優しい顔立ちの薬師像。一木なのにほとんどひび割れがないという稀有の仏像だ。
薬師如来坐像および両脇侍立像(福島 勝常寺・国宝)
No.8。博物館の照明のもとでじっくり鑑賞できた。防火と文化財保護の点から寺では宝物館に安置され本尊と離ればなれになっている脇侍がちゃんと脇に揃い、本来の三尊で拝めるのがいいところ。
薬師如来坐像(岩手 黒石寺・重文)
No.9。対面の双林寺の薬師と違って、目が吊り上がって一見怒っているように見える仏像。下から見上げると優しくなるに違いないと予想して屈んでいろんな角度で見てみたけど、そのままだった。
十二神将立像(丑神・寅神・卯神・酉神)(山形 本山慈恩寺・重文)
No.15。鎌倉期のリアル系仏像。卯神の頭のウサギがあまりにも可愛すぎて、怒れる神の形相とのギャップがおもしろい。
十一面観音菩薩立像(宮城 給分浜観音堂・重文)
No.16。頭に塔がにょきっと生えてるという、いっぷう変わった仏像。背の高さでは会場イチの巨像だ。ぱっと見で違和感を覚えるのは、体のバランスがひどいからだろう。しかしよくよく考えてみれば、法隆寺館に沢山おわします飛鳥時代の金銅仏なんかはみんなこんなバランスのような。岬の高台に安置されているということだが、これこそ、海から見上げるとちょうどよい姿になるのかも知れない。

あっという間に見終わった。人の動線がぐちゃぐちゃなうえに、みんな仏像を見上げながら移動するから、あちこちで人とぶつかりそうになった。再入場可能というので一度外に出て、本館を見学した。特集展示の水滴が面白かった。江戸時代の工芸はホントに奥が深い。
水滴
そのあとは法隆寺館に行き、1階のオークラでコエドビールを呑みながらまったりと昼食をとった。庭では冬鳥のシロハラも食餌をしていた。
食後に法隆寺館と東洋館を見学し、最後にまたみちのくの会場をぐるりと周り、絵ハガキを数枚と別冊太陽の東北仏像特集を買って帰った。
(東京国立博物館・2015年2月7日観覧)

特別展 東日本大震災復興祈念「みちのくの観音さま - 人に寄り添うみほとけ -」2015-03-09 23:52

秋田県大仙市にある水神社の線刻千手観音等鏡像は県内唯一の国宝で、年に1度だけ、8月17日の祭礼の日に公開される。そのレアな国宝が、宮城県多賀城市にある東北歴史博物館の展覧会に出品されるという。これは大チャンス。

ただ、展覧会だけだと時間を持て余してしまうだろう。どっか他にいいとこないかな、と別冊太陽「みちのくの仏像」を眺めると、同じ宮城県の角田市にある高蔵寺阿弥陀堂(重文)が目についた。なになに、東北三大阿弥陀堂とされ、東北地方に3つだけ残る平安時代の建物のひとつとな(他は中尊寺金色堂と白水阿弥陀堂でいずれも国宝)。堂内の阿弥陀像(重文)もなかなか良さそげ。よし、行ってみよう。

高蔵寺の内部拝観は事前予約が必要とのことなので、前日に電話して10時にお願いした。博物館はそのあとのんびり行くことにした。折角だから1泊して他も見ようと思ったが、翌日が雨でしかも寒いという予報だったので、結局日帰りすることにした。


早朝の新幹線に乗り、白石蔵王で下車、タクシーで高蔵寺に向かうが、9時半に着いてしまった。駅から20分弱で3,000円でおつりがきた。それにしても、いくらなんでも早過ぎる。寺の境内は自由なので、阿弥陀堂を外から眺めたり、すぐ近くに移築保存されている旧佐藤家住宅(重文)を見学したりして時間を潰した。

阿弥陀堂は方三間の簡素な建物で、かやの林に囲まれていた。榧の木と言えば一木造の仏像に多く用いられるが、日本固有の木で、屋久島から東北南部にかけて分布しており、つまりこの付近は北限にあたるという。榧の実を好むヤマガラやシジュウカラなどの小鳥たちが忙しく飛び交っていた。
高蔵寺阿弥陀堂

10時ちょっと前になって寺務所に声をかけ、いよいよ阿弥陀堂の拝観。中に入ると、堂内は真っ暗だった。前面の両脇扉を開放すると、薄く自然光が入った。徐々に目が慣れてくると、思いのほか大きな仏像が、光背が天井に付かんばかりの大きさで鎮座ましましていることが分かった。感嘆して、思わず声をあげてしまった。
住職氏は我々を仏前に招き入れると、並んで共に合掌・一礼したあとは、縁側に出てしまった。おかげでじっくり鑑賞できた。
阿弥陀如来は、いかにも平安仏な大らかな仏像だった。丈六というのがまたイイ。正面より斜めの方が顔立ちがいいが、右前と左前でも少し違った印象だ。
10分ほどしげしげと眺めてから、住職に礼を言い、寺を後にした。すっかり体が冷え切ってしまった。

タクシーで東北本線の大河原駅に出て、電車を仙台で乗り継いで、国府多賀城駅で降りた。目の前に東北歴史博物館があった。
ちょうど昼になったので、博物館1階のレストラン「グリーンゲイブル」で昼食をとった。どういうわけか、店内のオーディオがマニアックだった。腹を満たしたあとで、展覧会場に入った。
東北歴史博物館
入るとすぐに、半円形に並んだ立像群が我々を出迎えてくれた。しかもケースに入っていない。正直なところ、国宝の鏡像以外は全く興味がなかったのだが、これはなかなか面白そうだと直感した。

十一面観音菩薩立像(石巻市 長谷寺)
No.25。入ってすぐ左にのっぺりとした、顔がつるっつるの像があった。薄っぺらい体形が独特の像。
観音菩薩立像(陸前高田市 観音寺)
No.16。17年に一度しか開帳しないという秘仏で、寺外での公開も史上初なんだとか。像の脇に、寺で厨子に収まっている写真が展示してあったが、これは別冊太陽「みちのくの仏像」掲載のものと同じ写真か。その写真では剣と珠を持っているが、観音らしく見せるためなのか、この展示では素手だった。
それにしても、この腕のアンバランスの面白さ。二の腕よりも手首の方が太いくらいで、ダウンのジャンパーとか着るとこういう風になるよなあ、とか思ったりした。
十一面観音菩薩立像(大船渡市 長谷寺)
No.19。よしもと新喜劇の烏川耕一に似ていて笑った。くちびるが、ピューなのだ。相棒はオードリー春日と言っていた。
十一面観音菩薩立像(大船渡市 長谷寺)
No.18。これまた別冊太陽に載っている像で、通称猪川観音というそうな。実物は本の写真よりももっと顔が大きく黒く見えた。そのアンバランスな加減が絶妙にイイ感じ。
十一面観音菩薩立像(大仙市 小沼神社)
No.14。東博の「みちのくの仏像」展に雪ん子化仏の十一面観音が出展されていたが、それと同じ小沼神社の像。雪ん子っぽい化仏もちゃあんと載っていた。
十一面観音菩薩坐像御正躰(天童市 昌林寺・重文)
No.40。よくできた御正躰。というのも、これは木造なのだ。確かに、欠けたところなんかをよくよく見ると木だと分かるが、全体の雰囲気は鋳造されたものに見えてしかたない。
線刻千手観音等鏡像(大仙市 水神社・国宝)
No.28。仏像がずらりと並んだ部屋の隅の壁が切ってあり、薄暗い中に小さく「順路→」という札があった。考えなしにそこに入ったら、順路の途中ではなく行き止まりで、まったくの隠し部屋の様相だった。そして、そこにお目当ての鏡像があった。
これは実に素晴しい。14cmというから男性の掌よりちょっと大きいくらいの鏡だ。その鏡面に、細かい線で観音像などが彫られている。線刻像では最高レベルの出来という。単眼鏡を持ってこなかったことを後悔。江戸時代の新田造営の際に発見したというが、よくぞ見逃さずに拾いあげてくれた。
それにしても、この隠し部屋の入口が分かりにくくて、見逃した人が結構多いんじゃないかと推察した。

明治・大正の絵馬とかのコーナーもあったが、そちらにはまったく興味がわかなかったので、完全にスルーした。
東北の仏像の魅力は、言い方は悪いが、ヘタウマなのだと思う。技術的な点数は決して高いとは言えないし、洗練されているわけでもないし、でもそんな中に不思議な魅力があるし、だからと言って全てが下手くそだと油断していると、正しく「鄙にも稀な」素晴しいものがあったりと(高蔵寺の阿弥陀如来は正にそうだ)、とにかく予想外で面白いのだ。

博物館を出たのは14時過ぎ。帰るにはまだ早い。
そこで、近くにある国宝ということで、ン十年ぶりに瑞巌寺に行ってみた。するとなんと平成の大修理とかで、肝心の国宝本堂が見られなかった。宝物館の展示も本堂の扉以外はなんだかぱっとしない。通常非公開の庫裡(国宝)の内部が公開されていたのが唯一の収穫と言えるか。700円の高額拝観料は、修理代を寄進したと考えるべきだろう。
瑞巌寺庫裡
松島海岸から仙石線で仙台に戻り、駅3階の牛タン通りで食事をしてから20時半の新幹線で帰った。家に着いたのは23時を過ぎていた。
(東北歴史博物館・2015年3月6日観覧)