KATZLIN'S blog

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ギュスターヴ・モロー展2005-09-06 18:57

'95年の上野の西洋美術館以来のモロー展に行ってきた。日曜の朝一だったが、まあまあの人出だった。
今回の出品はパリのモロー美術館所蔵の品ばかりということで、上野のときとは展示品が違うと思うのだが、試しに10年前に買った絵ハガキを引っ張り出してみたら「洗礼者ヨハネの首を持つサロメ」「ペルセウスとアンドロメダ」「旅人オイディプス」の3枚であった。いずれも今回出展されていないものだが、似たような絵だ。同じ画家なのだから当然といえば当然だが。


自分の今回のお気に入りは「出現」だ。これまでは、生首が打ち上げ花火になっているパロディ絵画くらいに思っていたが、よくよく背景を見ると、線描で描いてある。その線もただの白線ではなく、黒も使うことで陰影ぽく表現しているのが憎いところだ。
背景を見ていると、絵に引き込まれるような、とても不思議な感覚に包まれた。世紀末絵画のそういうところが好きだ。

ほかに印象的だったのは、「ヘラクレスとオンファレ」の天使の翼が青いこと。普通は天使の翼は白く描くと思うが、白だとどうも白鳥の羽根を連想してしまい、あの薄汚れてうらぶれたイメージに包まれてしまうのだが、ブルーは幻想的でいいなあ。なお、翼が青いのはこの絵だけではなかった。
モローの絵には神話が題材の絵が多いからか、翼が描かれているものが多いように思う。だが翼はどれも羽ばたいているのではなく、ぴんと天を指しているものがほとんどだ。動いているはずのシーンでも動きを感じさせないのがおもしろいと思う。

油彩が48点しかないのは少し物足りなく感じたが、それでも大量の習作と一緒に展示されているので、画家がどのあたりに重点をおいているのかがわかるのは興味深かった。いつもは習作なんかすっ飛ばしてろくすっぽ見ないのだが、なぜだか引き付けられた。習作を見ておもしろいと思ったのは初めてだった。
そういえば、やはりいつもは目もくれない、作品の脇の解説を全部読んだのも生まれて初めてだ。

たっぷり1時間半観てから会場を出た。迷ったあげく、結局今回も図録は買わなかった。「出現」と、入場券にもあしらわれている「一角獣」の絵ハガキを買った。後半展示換えがあるが(なんと油彩以外は総とっかえ)、そちらも見に行くかは思案中。

マークシティで昼食にうどんを食べたあと、セルリアンタワーで開催の東急百貨店の特別販売に行った。ホントはブランドものの秋冬新作の販売会のようだが(会場は着飾った人ばっか)、我々のお目当てはワインだ。昼間っから試飲でしこたま飲んで気持ちよく帰宅の途についたのだった。
(Bunkamura ザ・ミュージアム、2005年9月4日)

天平の甍(新潮文庫)2005-09-30 01:12

ここ何ヶ月かは小説ばかり読んでいる。今年の初めに国宝鑑真和上像を見たこともあって、「天平の甍」をチョイスした。
この本を読んだのは3度目だが14年ぶりで、ストーリーは完璧に忘れていた。それでも、鑑真が失明しながらも日本に着くことや、阿倍仲麻呂が日本に帰れないことは史上有名なので、進行をある程度予想しながら読める。本の裏表紙の内容紹介にも普照はただひとり故国の土を踏んだって思いっきり書いてあって、他のみんながどうにかなっちゃうということもわかっちゃうし。


初めて業行が登場してからこの寂しいキャラクターがなんとなく気になったのは、結末のあのなんともいえない喪失感を予感していたのかもしれない。この本の直前に読んだ小説は「平家物語」と「海辺のカフカ」で、いずれもタイプは違うが深い喪失感を覚える作品だった。
生きるということは失うということなのだろうか。人生とはいったい何なんだろう。とかずっと考えていた高校生の頃の気持ちが少しだけ甦ってきたような気がした。

最初取っ付きづらくてなかなか進まなかったが、いよいよ帰国という段になると(ってもう後半じゃん)、かなりのめり込んで読むことができた。読後感はかなり良かった。

(井上靖著、昭和39年)(2005年9月29日読了)