KATZLIN'S blog

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エミリー・ウングワレー展2008-06-23 21:03

エミリー・ウングワレー展チラシ
自分はテレビ東京の番組「美の巨人たち」を毎週観ているのだが、それでこのエミリー・ウングワレーという人を知った。とてつもなく興味を持った。いつもは小芝居がやたらと入る番組が、その回はなぜか控えめで、それでなおさら印象が良くなったのかもしれない。
で、この人の展覧会が六本木の国立新美術館で開催中ということなので、でかけることにした。初めて足を踏み入れる新美術館見物も楽しみだ。


会場には、開場時間の10時をちょっと過ぎた頃に到着。行列なんかはなく、ゆるやかな混み具合。印象派絵画展になるとなぜか大挙して現れる、絵の前で絵もロクに見ずに世間話に余念がないペチャクチャオバタリアンはこのテの展覧会にはまずいないので、まあこんなもんだろう。
かといって、BUNKAMURA あたりでたまにやるちょっとツウっぽい展覧会に現れる、黒系ファッションでキメた美術系学生みたいなのもいなくて、50〜60代くらいの年配の人が多いように見受けられた。そして女性がやたらと多かった。なんだか不思議な客層だった。

会場に入ってすぐに、よい展覧会(=自分のツボにきた展覧会)だと確信した。会場に入るまでは、フリー・ジャズでも B.G.M. にして観たら似合いそうだな、とか考えていたのだが、すぐに iPod の電源を落とした。なるべく余計な情報を入れずに純粋に鑑賞したくなったからだ。

エミリー・ウングワレーの絵を一言で言ってしまえば抽象画ということになるのだろう。が、自分の受ける印象は抽象画とはちょっと違う。私自分に限った話かもしれないが、抽象画を見たときに感じる無機質で空虚な感覚が、彼女の絵にはない。逆に、そういった抽象画からは感じられない心地よさがある。そういった感覚からすると具象画を見た印象に近い。
まあエミリー本人は西洋画の知識はまったくなかった人だそうだから、抽象も具象も関係ないのだろう。「美の巨人たち」でも、絵を描けば売れる、その金をみんなで分けるのだ、みたいな発言が紹介されていた。周りの人たちの思惑なんか関係なく、ただひたすら描いた人なんだろう。これは何を表現しているのだとかいう解釈は、評論家のセンセイ方が勝手にくっつけたものなのだ。エミリーの絵の前に立つと、そんな「解説」が胡散臭く思えてしかたない。彼女はそんな思惑なんか超越しているのだ。

展示はだいたい年代順になっている。この人は創作の期間がとても短いわりに、作風が劇的に変わっていくのでおもしろい。自分は点描と、ヤムイモなんかの線の作品が好きだ。逆に「色彩主義」の部屋はあまり好きでなかった。これは、自分が輪郭がぼやっとした絵が好きでないのが理由だ。そんなわけで、パンフレットにも使われている「大地の創造」(C-9)は感心しなかった。
点描のなかでは、チケットにも使われている「カーメ --夏のアウェリェI」(D-20)がよかった。さまざまな点が重ねられていて、その点も色の濃いものや透けているものがあって、平面なのに 3D 的な感じがしておもしろい。本人はきっと意識して使ってないんだろうけど、グラッシ効果になっているのだ。じっと見ていると、ふわふわと浮いているような、吸い込まれるような、不思議な感覚を覚えた。
大作「ビッグ・ヤム・ドリーミング」(Y-11)にも圧倒された。黒地に白のハイコントラストで目がちかちかするのも一役買っているのかもしれない。
初期の点描なんかでは、キャンバスの木枠の横にまで模様が描いてあるものが多かった。本をキャンバスに見立てるとすると背表紙の部分で、額に入れたときに隠れてしまうところだ(だから額入りの絵がほとんどないのだろうか)。額なんて知らなくて、だから脇にも飾り付けをしました、という感じだ。彼女は絵に上下の指定をしなかったというので四周にそれが付いている。

会場を楽しく2周して11:30頃に出た。絵はがき4枚と、図録を買った。久しぶりに、図録が欲しいと思えるようなよい展覧会だった。

昼食は3階のポール・ボキューズへ。エミリー展限定特別メニューを食べた(展覧会チケットを見せないと注文できない!!)。
内容は、「香草風味のゼリーに包まれたタスマニアサーモンのマリネ サラダ添え」「オーストラリア産 仔羊のポワレ タイム風味のジュソースで」「ココナッツのブランマンジェ エキゾティックフルーツと共に」の3品。前菜は、ゼリーに梅のような爽やかな風味があって、脂ののったサーモンとよくマッチした。メインの羊は、肉を生のタイムと一緒に口に含むと香りが引き立てられてよかった。つけあわせやフルーツは小さめにカットされていて、エミリーの描く緑や黄色の点描を思わせた。エミリーと同じオーストラリアの大地から生まれたワインがあればよかったが、グラスで注文できるのはフランスものしかなかったのが残念。全体的に、味付けは我々にとってはしょっぱめだった。
昼だし、美術館内のレストランということではしかたないのかもしれないが、隣の席との距離が近すぎなのには参った。もうほとんど相席状態。隣のおぢさんの株の話がよぅく聞こえた。(こんなとこでそんな話しなくてもいいのに・・・)

国立新美術館内部
黒川紀章晩年の作品でもある新美術館の建物を内と外から眺め回してから帰った。(国立新美術館・2008年6月21日観覧)