KATZLIN'S blog

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特別展 ボストン美術館 日本美術の至宝2012-04-23 22:00


「ボストン美術館展」って、なんか前にも行ったことあるなあと思っていたら、西洋画の展覧会だったり、浮世絵の展覧会だったりしたのだった。名古屋にはボストン美術館の分館があって(今回の展覧会も巡回するらしい)、旅行途中に北宋徽宗皇帝の『五色鸚鵡図』を見に寄ったこともあった。
そんなボストン美術館が『日本美術の至宝』っていうんだけど、どんなもんなんだろう。


門前到着は9:20。このテの有名展覧会は混雑しがちで、そうなると時間前に門内に客を入れて中庭で待たせることもあるが、この日はそこまでひどくなかった。まだ会期の前半だからなのかもしれない。
事前のリサーチでは、展示室が混雑すると絵巻物が見にくくなるというので、まずは速攻で2つの絵巻を見に行った。

吉備大臣入唐絵巻
No.26。全4巻を全場面展開しているといのが今展の売り物のひとつだ。そこはかとなくユーモラスな絵。鼻を押さえながらウンコを調べる場面なんかがあったり。傾斜が80度くらいある階段が笑える。こんなの絶対上れない。
大雑把なストーリーが壁面に掲示されているのだが、どこかで聞いたことある話だなと思ったら、12年前の日本国宝展に第3巻が出品されていたのを見たのだった。そういやそのときも、柱の影から唐の役人の様子を窺う吉備真備と阿部仲麻呂の鬼が面白すぎて笑ったのを思い出した。
平治物語絵巻 三条殿夜討巻
No.27。吉備大臣に対して、この平治物語は精緻で見事だ。炎の表現だとか、馬や牛車の疾走感だとかが一々素晴らしい。炎は、赤い絵の具だけでなく黒も散らしてあるのがリアルだ。首を切っている兵士や、縁の下まで覗いて捜索する兵士など、細かい描写に目が釘付けになった。それらの人物の顔は、ヒゲまで細かく描かれていた。
巻物全体の統一的な流れるような動きは、全場面を展開しているからこそ感じとれるのだろう。展覧会でこれだけ感動したのは久しぶりだ。見に行った甲斐があった。

平治物語を食い入るように見ていると、後ろから「会場内混雑してまいりましたので先頭の方は止まらずに少しずつお進みください」と係員の声。ふと気づくと自分の右にすんごい列ができていた。知らず知らずのうちに渋滞を引き起こしていたらしい。まだ9:55でこの人だかりは凄い。おそらくもうこれより後の時間は、立ち止まっての絵巻鑑賞は不可能だろう。

法華堂根本曼荼羅図
No.5。東大寺法華堂とはつまり三月堂のことだが、そこからの伝来品なんだとか。8世紀の曼荼羅図は稀少なんだとか。状態がよい。
四天王像 重命筆
No.16。天理の石上神宮の近くにあるあの内山永久寺の障壁画。劣化具合がかえって厳かな感じでいい。自分はあまり仏画では感心しないのだが、これは顔がとてもよかった。
十一面観音菩薩来迎図
No.17。優美な小品。よぅく見ると装飾は切金っぽい。
太刀 銘 備州長船住兼光
No.79。刀剣類はあまりぱっとしない直刃系のものばかりだった。その中で、これだけが美しい互の目模様だった。刀はバリエーションがないと飽きてしまう。刀剣と仏像は、このあとで寄った本館常設展の方がはるかにおもしろかった。
松島図屏風 尾形光琳筆
No.55。根津の国宝『燕子花図』に通じるような、超デフォルメの非常にデザイン的な絵画。
雲龍図 曽我蕭白筆
No.62。呼び物のひとつ。事前に関連テレビ番組をいくつか見たら、ショーハクが凄いショーハクが凄いの連呼でなんかもううんざりしちゃって生来アマノジャクな自分はショーハクが嫌いになりかけていたのだが、これは大きくてさすがに見応えがあった。でもやっぱりマンガ的すぎて好かない。マンガ的と言えば、『鷹図』の鷹の脚も超マンガだった。
近世で1コーナー設けるんだったら、蕭白なんかよりも浮世絵の方がよかったのに、と思った。

全部見終わってからもう2周した。第1室の絵画と、その次の絵巻はとにかく混んでいた。そこいくと、後半の屏風絵なんかはモノが大きいせいもあるのか、客も適度にばらけていた。
お土産コーナーでは吉備大臣と平治物語の絵葉書を買った。図柄は、吉備は冒頭の楼閣に閉じ込められる部分、平治は牛車が押し合いへし合いしている部分で、平治はともかく、吉備は場面選定がイケてない。
さらに、ミニチュアアートのガチャガチャを3回もやってしまった。1回300円もする。出てきたのは、平治物語絵巻と、等伯の龍虎図と、光琳の松島図だった。こちらの平治は、絵葉書と違ってちゃんと御殿炎上の部分がフィーチャーされていた。


平成館を出たのは11時すぎだった。このあと常設展を見たいが、見終わると昼になってレストランが混んでしまう。そこでちょっと早いが先に昼食をとることにした。東洋館の「ゆりの木」に行った。
ボストン展とタイアップした限定特別メニューの穴子丼とフォアグラ丼を注文し、ボストンビールセットでちびちびやった。料理を待つ間に先ほどのガチャガチャのミニチュアアートを開けてみると、あんまりな品質に泣きたくなった。これを3つも買ってしまったオレは・・・
ボストンビールセット 穴子丼 フォアグラ丼
穴子丼というと、甘くてべちゃべちゃのタレが天ぷらを台無しにしたりする店があるが、これはほのかに甘いくらいで良かった。もうちょっと油切れがよいともっと旨かっただろう。フォアグラ丼のフォアグラは西京漬になっていて、これがよく合う。まわりにはソテーしたズッキーニなどの西洋野菜が添えられていて彩りもよかった。
限定に釣られて注文したが、どっちの料理も結構重くて、食べ終わったら眠くなってしまった。

食後に本館へ向かった。
2階の国宝室には、東博が所蔵している平治物語絵巻『六波羅行幸巻』がボストン展に合わせて出品されている。ボストンの三条殿夜討を見た後では、そもそもそんなに激しいシーンじゃないということもあるのだけど、ちょっと迫力に欠ける。また絵の状態もボストンの方が良さそうに思えた。それでも精密な人物描写はなかなか良い。
六波羅行幸巻
いつもは特別展の会期中でも国宝室なんてがらがらなのに、これはボストン展のついでに寄る人が多いのだろう、なかなかの行列ができていた。

本館をぐるりとまわったあと、今度は1回400円もする東博公式考古学ミニチュアのガチャガチャをついやってしまった。『踊る埴輪』が欲しかったが、出てきたのは『人面付壺形土器』だった。製作はあの海洋堂で、ボストン展のしょぼいミニチュアと違って質感も良く、手にとると重量感がある。同じ Made in China なのに、この違いはなんなんだろう。100円だけの差なら、こっちの方が断然イイ。
あとは法隆寺館へ寄って、仏像の写真を撮りまくってから、博物館を後にした。
おみやげ
(東京国立博物館・2012年4月21日観覧)

東洋絵画の精華 ―名品でたどる美の軌跡―2012-04-30 23:12

静嘉堂文庫が所蔵する平治物語絵巻「信西巻」が公開されている。東博で開催中のボストン美術館展とタイアップしていて、東博展のチケット半券で、入館料も割引となる。この信西巻を見て、現存3巻がようやくコンプとなるのだ。これはもう、見ないわけにはいかないのだ。


二子玉川駅からバスに乗り、静嘉堂文庫バス停で降りた。バス通りは車も多かったが、静嘉堂文庫の敷地に入るととたんに静かになった。
静嘉堂文庫
美術館に着いたのは開館時間の10時をだいぶ過ぎた頃だった。美術館は静嘉堂文庫本館の斜向かいにある。本館は関東大震災直後の1924年に建てられたものだが、美術館は1992年とまだ新しい。

受付で入館料を支払い展示室に入ろうとすると、いきなり目の前にお目当ての平治物語絵巻信西巻があった。人は少なくてかぶり付きで見られた。期間中に2回の巻替えがあり、この日は中間の第二段から第三段が展示されていた。場面は、信西が自害するところから、遺体を掘り起こされて首実検にかけられるまでだ。
この信西巻は重文指定だが、精緻な筆致はボストンの三条殿夜討巻や東博の六波羅行幸巻(国宝)に通ずるものだ。三条殿・六波羅行幸と違うのは山野の景色が多いことだろう。

信西巻をじっくりと鑑賞してから改めて展示室に入ると、重文絵画が目白押しだった。平治物語だけが目的だったのだが、この高品質にはいい意味で予想を裏切られて嬉しかった。仏画では、鎌倉時代の普賢菩薩像が良かった。細かくて繊細な小品だ。
住吉物語絵巻駒競行幸絵巻の2つの絵巻物が展示されていたが、これらを見ると、平治物語絵巻の質の高さがよくわかる。
あと、展覧会の本題は『東洋絵画の精華』なのに、特別出品とかで国宝倭漢朗詠抄太田切が展示してあった。

1周まわったあとでまた信西巻を見た。今度は詞書もじっくり読んだ。そうこうしていると段々と人が増えてきて、11時過ぎには横4mほどの展示ケースの前は人でいっぱいになった。

帰りは二子玉川駅まで歩いて行った。野川沿いは菜の花がとてもきれいだった。
野川
駅に着くとちょうど昼だったので、高島屋の9階にある『金澤の寿司 華爛』という店で昼食をとった。ほたるいかと穴子が出色だった。ほたるいかをこんなに旨いと思ったのは初めてだ。酒は菊姫の『先一杯』というのを勧められるままにいただいたが、これがどんぴしゃだった。旨味があって、軽やかで、昼に飲むにはいい。調子に乗ってそのあと能登飲み比べセット(遊穂・池月・千枚田)とかを飲んだら、すっかりできあがってしまった。
(静嘉堂文庫美術館・2012年4月30日観覧)