KATZLIN'S blog

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お伽草子 この国は物語にあふれている2012-11-11 23:25

もうここんとこ、美術展情報は『ぶらぶら美術・博物館』にすっかり頼り切っているわけで、これも番組で知った展覧会。


ちょっと寝坊したりして、ミッドタウンに着いたのは10時半近くになっていた。凄いギョーレツだったらどうしよう、と思ったが、やはりテーマが一般受けしにくいのだろうか、会場へ向かうエレベータもチケット売り場も閑散としていた。
しかし入り口に看板が出ており、見ると「10:30から11:10まで団体の入場があります」とのこと。係員に聞くと、中学生の見学が入っているという。え゛ーそりゃ運が悪い、と思ったら彼等は静かで逆に驚いた。周りがあまりにも静かすぎて釣られたのか、それとも元々が品行方正な子たちなのか。つうか、他のジジババの方がよっぽどうるさくて、結局 iPod で耳栓をするはめとなった。

ひょっとして、物語の筋が分からず音声ガイドのお世話になるのでは、とも思ったが、TV での予習の甲斐もあり、まあ理解はできた。

大江山絵詞(重文)
No.8。酒呑童子の話なわけだが、周りの会話を聞くとはなしに聞いていると、「あ、この『しゅてんどうじ』って方が鬼なんだあ」とか言う人が結構多かった。こういう展覧会に来るくらいだから数寄者なのかと思ったら、意外にそうでもないような。
掃墨はいずみ物語絵巻(重文)
No.4。ある女が、白粉と眉墨を間違えて化粧しちゃって、そのことにあとで気がついてビックリ。(白粉と眉墨なんて間違えないでしょ、フツー。とかいうツッコミをしてはいけない。)と、まあここまではともかく、次はそれがきっかけでなんと出家しちゃって、今度は我々がビックリ。化粧に失敗して出家とか、現代に生きる我々にはちょっとピンと来ない。
娘の黒い顔にビックリしているシーンの、母親の顔がなんともユーモラスなのがよかった。これにしたって、娘が鬼に食べられたと勘違いしたってんだから、面白すぎる。色が黒いだけでどう見てもアンタの娘でしょ、とかいうツッコミをしてはいけない。
福富草紙(重文)
No.5。福富の放屁芸を羨んだ隣人の物語。羨んで福富に芸を教わった隣人が、この薬を飲むようにと言われて臨んだが、それはなんと下剤で、晴れの舞台で実を出してしまった隣人は散々な目に遭い、それを恨んだ隣人の妻が福富に復讐するというのが大筋。
別系統の本では騙される方の人物名が福富となっていて、その2系統が並んで展示されているのでちょっと混乱した。
鶴の草紙
No.18。鶴の恩返しの元ネタなのだろうか。鶴を助けた心優しき主人公はその後結婚。それを羨んだ地頭に「わざはひ」という獣を連れてこいと無理難題を仰せつかり、困って妻に相談すると、妻の実家の援助で「わざはひ」を入手。「わざはひ」は地頭邸でさんざん暴れ、困った地頭は主人公に褒美を与えた。実は妻はかつて助けたあの鶴で、身の上を明かして東の空に飛び去って行った・・・
「わざはひ」って名前見りゃどうなるかわかるでしょ、とか、せっかくうまくいったんだから夫婦でそのまま暮らしてりゃいいじゃん、とかいうツッコミをしてはいけないのだろう。鶴の恩返しは「見るなよ、見るなよ」というフリに応じて見るなという言いつけを破って姿を見てしまったために鶴の妻は去っていくのだが、これは別に禁を破ったりしたわけじゃないのに逃げられちゃうのがチト悲しい。
鼠草子絵巻・鼠の草子
No.41・74。いつだか思い出せないが、前に東博で見たことがある絵巻。ただ東博のものとは別の様々な伝本があるようだ。この日の展示巻は主人公の鼠の名前が『そほん』となっていた。会場の解説や東博でも見た『こんのかみ』とは違う。あれ、でもこの日展示されていたのは東博本だ。
物語は、清水寺の導きで人間の姫様と結婚した鼠が、鼠であることがバレて姫に逃げられ悲しみ、(これもまたまた)出家するという話。
どう見ても顔が鼠じゃん気付くでしょ、とかいうツッコミをしてはいけない。東博で見たやつなんかは、従者も『ちゅう太郎』な感じの名前だった気が。
雀の発心草子絵巻
No.72。出家シーンが展示されていた。雀の剃髪なんて、そうそうお目にかかれるもんじゃない。
付喪神絵巻
No.77と78。掃除で捨てられた古道具類が、化けて人間に恨みを晴らそうとするも、護法童子に降伏させられ反省して(これまた)出家するという話。No.78の数珠の一連上人が最高のキャラ。これを絵ハガキとかフィギュアにしてほしかった。

ほかに『地蔵堂草紙絵巻』(やらかしちゃった僧の話)や『小おとこのそうし』、『藤袋草子絵巻』なんかも面白かった。
詞書を読んでやろうと思ったが、大江山縁起だけで疲れてしまった。こういう展覧会だから、読み下し文が作品の近くに書いてあるといいのになあと思った。酒呑童子の手足の色とかちゃんと書いてあるのに、知らずに通り過ぎた人がほとんどだろう。鼠草子だって、猫僧正に出くわしてパニクってすっころんだ、という場面だったが、絵だけ見てると、あまりにユーモラスなんで、道で普通にすれ違ったように見えちゃう。もしかしたら音声ガイドで解説してるのか? ま、いずれにしても「なんて書いてあるかわかんないね」なんて言いながら見ている人は少なくなかった。

会場を出たのは12時ちょっと前くらいだった。絵ハガキを数点と、図録を買った。絵ハガキは、展示替えで実物は見てないけど「雀の小藤太絵巻」のも買った。清水寺の前で、橋にたたずむ雀のなんとも侘びた風情がイイ。

地下の DEAN & DELUCA で昼食をとり、ワインなど買い物をしてから新宿に出て、夕食を食べて帰った。新宿での夕食は実に10ン年ぶりだった。
(サントリー美術館・2012年10月27日観覧)

ポール・デルヴォー 夢をめぐる旅2012-11-13 23:30

もうここんとこ、美術展情報は『ぶらぶら美術・博物館』にすっかり頼り切っているわけで、これまた番組で知った展覧会。
自分はシュールレアリスム絵画が好きなのだが、そのなかでもデルヴォーはマグリットと並んで好きな画家だ。その展覧会というのだから見に行かなくてはならない。とか言いつつ、デルヴォー展を見るのは1990年の横浜美術館以来だったり。10年前にも回顧展があったというが記憶にない。


京王線は井の頭線と高尾山くらいしか使ったことがなくて、本線沿線なんて未知の領域だ。途中調布駅で乗り換えたが、システマチックなホーム構成には感心した。
美術館へは、東府中駅から歩くことにした。事前に地図をちゃんと調べておかなかったので道順が少し不安だったが、それは杞憂だった。駅前からすぐ、でかい看板だとか道標だとかペナントだとか、とにかくあらゆる手段を講じた道案内が、お前たちを絶対に目的地まで辿り着かせてやるぞ、といわんばかりに絶え間なく続いていたのだ。

ポール・デルヴォー展
美術館に着いたのは10:40くらいだった。
順路はだいたい時系列になっていて、最初の方は自分の作風が確立していなかったころの印象派的なものとかでまるで興味なしですっ飛ばした。

夜明け
No.24。入り口からすぐに、チラシやチケットにあしらわれている作品がある。横を向いた女性。動きがありつつも静謐だ。
訪問IV
No.23。(珍しく)赤い服の女性。TVでは目線があってないとか言われてたが、それより自分は家のドアが内開きなのが気になった。
会話
No.51。裸婦と骸骨の絵。壁に映る影は骸骨のシルエットだ。骸骨はデルヴォー作品によく登場するモチーフ。
行列
No.55。おんなじよーな顔した無表情の女たちがなんだか知らないが大勢で丘を歩いていて、傍らに路面電車が走っている。ひっっじょうにデルヴォー的だ。
トンネル
No.30。横は2.5mくらいありそうな大作。トンネルと駅の風景で、左上の階段にたくさんの人がいる。鏡の中の少女が人形みたいでちょっと怖い。
夜の使者
No.41。今展で一番気に入った作品。遠く海までのびる広い道は、函館あたりの坂道を思わせる。透視図法なのに、平衡感がハチャメチャなのがデルヴォーらしくてイイ。
エペソスの集いII
No.40。エペソスは古代ギリシャの植民地とか。夜、神殿、4人の女。そのうち一人は横たわっている。ソファに横たわった裸婦というのもよく登場するモチーフだが、いつも目をぱっちりと開いている人ばかりな気がする。

上記はいずれも油絵で、これらの作品はいずれもデルヴォーらしくてよかった。他の作品はだいたいはペンなどによる習作だった。最晩年、目が悪くなってからの作品もあったが、もうそうなると見るに耐えない感じだった。そういえば、デルヴォー作品ではお馴染みのリーデンブロック教授が登場する絵がほとんどなかった。

作品数がそう多くないので鑑賞に時間はかからなかった。会場の作りのせいで動線が交錯しているのがちょっとイマイチだったが、もちろんそれは作品の質を貶めるものではない。それよりも、公立の小さな美術館の独自企画展ということで客も多くはなく(宣伝費も限られているのだろう)、またそれらの客もほんとうに美術が好きな人たちに違いなく、そのため都心の大美術展にありがちなざわざわした感じもなくて、静かに落ち着いて鑑賞できたのがよかった。

デルヴォーのあとで常設展を見たが、見るべきものはなかった。しかしそのあとに見た牛島憲之はよかった。メキシコ・ルネサンスのリヴェラのような不安げなトーンと、独特の無機的なデフォルメに感心した。「かま場」なんか素晴らしい。好みだ。

よかったものは全て絵ハガキになっていたので買い込んだ。もちろん、牛島憲之のも買った。この日の収穫は、正直言ってデルヴォーよりも牛島の方だった。

会場を出たのは昼ちょっと過ぎで、東府中駅までの途中で見かけた「アキチ」という店でランチを食べた。醤油ベースなのに洋風の味付けのサワラは、身が厚くておいしかった。でたらめに入った店が美味いとなんだか凄くトクした気分になる。もっと近くにあれば贔屓にしたいところだが、府中なんてこの先また行くことがあるかどうか。そのあとは新宿に出て買い物をしてから帰った。
(府中市美術館・2012年11月3日観覧)