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山の自然学(岩波新書)2007-08-05 11:51

山歩きの楽しさ・感動を倍増させてくれた本。通読したのは3度めだが、山行き前にはこれから行く山の項だけ読みかえしたりしていた。
で、どう倍増したのかというと、最後の「あとがきにかえて」にあるとおり。

山はみごとな風景を楽しみ、高山植物の美しさを愛でるだけでも十分に楽しい。それだけでいいという人もいるにちがいない。だから、「なぜ」などと考えるのは、めんどうくさくてかなわないという人も少なくないことだろう。これはもう趣味の問題だから、その人なりの楽しみ方でもちろんいいのだが、本書で紹介したような知的な登山のおもしろさもぜひ味わっていただきたいとわたしは思う。

たとえば観光旅行するにしても、名所旧跡をただ見てくるだけよりも、その来歴を事前に知ったりしていると見方がまったく違ったり、感動が増したりすることがある、そういう感じだ。とくに難しいことは書いていないし、山のガイドブックとしても良い本だと思う。ほかに『山の自然学入門』という本が古今書院から出ているが、この方が難しい。


「まえがき」にはこうある。

たとえば、北アルプスの白馬岳でコマクサを見たとします。そのとき、「あっ、コマクサだ。きれいだなあ。写真を撮ろう」で終わるのではなく、「どうしてここにコマクサがあるのだろう?」と考えると、<山の自然学>がはじまります。

キツい登りだったりすると「なぜ」とか「どうして」とか、なかなかそんなふうには頭が回らない。それに、砂を見て「この山は○○岩からできてるな」なんて素人にはなかなか判断できない。だからこの本で予備知識をつけていく。そうやって山行を繰り返していくうちに、岩を見ながら「今、モレーンを越えてるんだ」とか、「二重山稜に入ってきた」とかいう実感が湧いてきて感動したりもできちゃう。ただの岩くずにしか見えず、だれも見向きもしないソリフラクション・ローブを、ふむふむこれは周氷河地形だな、と思えるようになったのはこの本のおかげだ。
ただ見るだけ、撮るだけの登山よりも幅が広がったと思う。

ところで、著者はNHKで現在放送中の『日本の名峰』シリーズで取材協力としてクレジットされている人だ。全回じゃないけどかなり多く見かける。番組中で、なんか聞いたことある解説だと思ったときはこの人が元ネタなのかもしれない。

(小泉武栄著・1998年)(2007年8月2日読了)

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