KATZLIN'S blog

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小林清親展2015-04-12 22:49

NHK日曜美術館で知った画家。明治時代に活躍した、最後の浮世絵師という。明治の洋風建築と浮世絵版画の融合がおもしろく、夜の表現がなかなか良さげ。で、練馬区立美術館で回顧展をやるというので、行ってみることにした。


予報は曇り時々雨。昼に家を出た頃はちょうど止み間だった。しかし池袋から西武線に乗ったあたりで降り始めた。沿線の桜はまだ散らずに残っていた。
中村橋駅に着いたのは13時過ぎで、ちょっと腹が減ってきた。美術館のホールに軽食コーナーがあるので、そこでサンドイッチを食べた。オムレツが具材になっていて一風変わったものだが、なかなか旨かった。
サンドイッチ
館内はさほど混んでいなかったが、それでも思ったよりは人がいた。もっとガラガラだと思っていた。

順路は2階から。展示は第1章が光線画、第2章が風刺画・戦争画、第3章が肉筆画・スケッチという構成で、うち第1章の版画は橋、街、夜、水、空、名所、火事、動植物、風俗というテーマに分類されていた。
また、予想外だったのだが、会期中に展示替えがあるという(このため出品リストはA3紙両面2枚の大作だった)。げげ、あと何回か来ないといけないのか? 公式サイトにもそんな記載はないので面喰らったが、注意深くリストを見ると、別の所蔵先の同じ作品に替えるパターンが多かったので(版画だから同じ作品があちこちにあるわけだ)、相当なマニアでもない限りは再訪しなくて済みそうで、ちょっとほっとした。

海運橋(第一銀行雪中)
No.4。第一銀行のモダンな建物。明治東京の新名所というが、それにしてもごてごてとした建物だ。
東京新大橋雨中図
No.5。チラシや図録の表紙にあしらわれている作品。川面のゆらゆらの表現がよい。「東京」は「とうけい」と読ませるようで、枠に書いてある英語のキャプションも「TO-KEI」となっていた。
駿河町雪
No.32。広重の名所江戸百景で有名な三井越後屋と、洋風建築の三井組為替バンクが同じ画面に並ぶ。この対比がいい。雪の積もる屋根には輪郭が描かれていないので、なんか不思議な感じ。これは1879(明治12)年頃の作だが、その3年前の作である海運橋(No.4)の第一銀行は輪郭がある。
川崎月海
No.53。帆船が大砲を撃っている図、なのだろうか。西洋版画にありがちな題材だし、画面の中には日本的なものはない。何の説明もないと洋版画に思えてしまうが、火花の表現がなんとなく浮世絵的。
大川岸一之橋遠景
No.57。2人の車夫が人力車を曳き、俥には女のシルエット。バックには満月が照っている。情緒的だ。
本町通夜雪
No.60。夜、雪の中を走る馬車。ガス燈のような、光の周辺だけ雪が表現されているのがリアル。NHK日曜美術館では、この作品で多色摺りを解説していた。
新橋ステンション
No.70。この展覧会で一番気にいった。新橋駅の夜の情景。人々が傘をさしていたり、提灯の灯りが地面に反射する様子から、雨が降っているのだと一目で分かる。こないだ見たホイッスラーのノクターンシリーズみたいな印象。
明治十四年一月廿六日出火 浜町より写両国大火
No.106,107。実際の火事を描いた画家は珍しいとか。火の粉が飛び散っているのがなかなかリアル。この火事をスケッチしている最中に自分の家も焼けてしまったんだとか。
明治十四年二月十一日夜大火 久松町ニ而見る出火
No.109。自宅が全焼してしまった1/26のわずか2週間後、2/11の火事も取材に出掛ける清親。懲りない人だ。
明治十四年一月十六日出火 両国焼跡
No.112。焼けぼっくいが印象的な作品。まだ煙が立ちこめているようだ。徘徊する人々のシルエットを見て、『裸足のゲン』を思いだしてしまった。そういえば、この作品の日付は16日になってるけど、上述のNo.106と107は26日になってる。
浅草寺雪中
No.147。これまた雪の屋根に輪郭線がない。構図が明治時代の写真に類似するというが、広重『江戸名所 浅草金龍寺境内の図』を見ても、まんま同じ。
薩た之富士
No.156。水彩画のような写生的な1枚。宝永山まできっちり描いてある。
武蔵百景之内 江戸ばしより日本橋の景
No.161。これに限らず、このシリーズは近景のどアップを大胆に配置する構図で、もろ広重。「百景」といいつつ全部で34枚しかなく、不評のためシリーズ中止になったという話。文明開化の時代には古くさいと見られたのではないかという考察があった。
日本名勝図絵
No.175~。「最後の浮世絵師の最後の揃いもの」というと感慨深いが、やはり明治初期の光線画の方がいいと思った。
相合傘と雷神
No.243。相合傘のカップルを雲の上の雷神が眺めている肉筆画。版画の作品とは雰囲気ががらりと変わって、軽妙洒脱。雷神の顔がだらしなくて、なんだか微笑ましい。
左甚五郎図
No.248。甚五郎が仁王を彫ってたら生命が宿ってしまい、眠りから目覚めた仁王が大欠伸をして甚五郎がびっくりして見上げるという肉筆画。仁王の躍動感と、甚五郎のイナバウアーがいきいきとしていてイイ。
織豊徳三公之図
No.260。「織田が搗き、羽柴がこねし天下餅・・・」という有名な狂歌の魚バージョン。信長が釣って、秀吉が焼いて、家康が笑いながら食っている。この狂歌を魚で表現する例は他にないとか。

2周して1時間半くらいかかった。光線画では静かな画、肉筆は洒落た画といった感じで、いろいろな面も見られてなかなか面白かった。動物画はあまり感心しなかった。風刺画は世相が分からず、なんだかピンと来なかった。
第1章の版画を見ていて、明治の文明開化の雰囲気というか、古いものと新しいものが混在している東京の雰囲気に、ノスタルジーのようなものを感じた。新しいものとして、洋風建築やガス燈がよく描かれているが、ほかに意外なものに電柱があった。今なら多分、電柱や電線が入らないような構図にするんだろうが、清親の画では誇らしげに登場している。

絵ハガキを買おうか図録を買おうかさんざん迷ったが、図録を選択した。これなら見られなかった作品も楽しめるし。
それにしても、美術館の開館30周年記念が小林清親展とは、シブすぎる。今後も、国立や企業系の美術館ではやらないような、シブくてグッとくる企画を期待している次第であります。
練馬区立美術館
(練馬区立美術館・2015年4月5日観覧)

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