まったく観る気はなかったのだが、相棒が是非行きたいと言うのと、チケットが安く入手できたので、行くことにした。横浜美術館は随分ひさしぶりだ。
金曜日、相棒が出張で関内に来るというので、待ち合わせて仕事帰りに行った。台風4号の影響で天気も荒れ模様で、ランドマークタワーは半分より上は霧の中だった。この天気のせいか、週末の夜ではあったが美術館はがらがらだった。観客は20代くらいの女性が圧倒的多数だった。みんな仕事帰りなのかな。
新古典派からロマン派が中心の展覧会で、アングルなんかは上手いので結構好きなのだが、結論から言うと、自分にはおもしろくない展覧会だった。
初めは歴史画の部屋。最初にパンフの裏にも載っているアングルの「泉」が出迎えてくれるが、照明の角度が悪く、反射が激しくて見づらい。もともと乗り気でないうえにこの仕打ちで、すっかり萎えてしまった。
好きなはずのアングル・新古典派だが、なんだかピンとこない。この部屋では有名な「スフィンクスの謎を解くオイディプス」が心に残るくらいだった。やっぱり上手い。他のサロンちっくな絵はほとんど思い出せない。
続いてオリエンタリスムの部屋。ここにこの展覧会の目玉の「トルコ風呂」があった。画集などで見るよりもコントラストが強い。画面全体が薄暗い中で、手前にいる背中を向けている人の頭から肩のあたりが際立って明るく、自然と視点が向く。たしかに、言われてみれば覗き見しているような感じだ。でも、ふうん、まあこんなもんかな、という感想しか残らない。有名ではあるが自分の好みじゃない。
同じく有名な「マラーの死」は手元の中公新書「近代絵画史」ではベルギー王立美術館所蔵となっているので、ルーヴルが買ったのかなと思って調べたら公式サイトにブリュッセル王立美術館にあるオリジナルの工房によるほぼ忠実な摸作
とあった。だから作者名に「(アトリエ)」がついているのか。ふうん。でも題名には「模作」とかはつかないのね。オリジナル工房だから?
時事的絵画、肖像画・・・と、つまらない部屋が続く。このままじゃこの展覧会は0点だ。と思っていたら、風景画の部屋でようやく大ヒット。「聖フルベルトゥスの祝日の鹿狩り、1818年、ムードンの森」だ。すげー数の人と犬と馬が鹿1頭を追いかけている。鹿は沼に逃げ込んでいるが、沼の周囲はすべて狩猟部隊が囲んでおり、狩られるのは時間の問題だろう。対岸には見物している高貴な女性の馬車がある。かと思うと手前には洗濯物を馬に踏んづけられて怒っている近所のおばさん。この対比もいいし、鹿1頭に必死の人々が可笑しすぎる。こういうのは好きだ。
細かく、かつデカくて見応えがある。周囲のバルビゾンちっくな風景画の中で異彩を放っていたように思う。
そんな調子で30分ほどで観終えてしまった。鹿狩り以外はつまらなかったが、まあそれも想定の範囲内だったのでがっかりはしなかった。相棒もさほど面白く感じなかったようで、ちょっぴり残念そうだった。
常設展もつまらなかった。丸い部屋は開館したての頃はシュルレアリスムの殿堂のようになっていてすごく好きな部屋だったが、いつの頃からか中途半端に印象派が中心となった陳腐な部屋と化している。ケッ。
ソファに座ってだべったりして時間を潰してから美術館を出て、予約してあったインターコンチネンタルホテルのフレンチ、アジュールで夕食をとった。ルーヴル展に合わせてフランスフェアと銘打っており、メニューはフランスの有名シェフの特別コースだ。フォアグラのテリーヌはフレッシュフォアグラの旨みがぎゅっと凝縮された感じで、ブイヤベース仕立てのスープはダシがよく出ていた。鯛のグリルの香ばしさは卒倒ものの強烈さで、牛フィレ肉のポワレはモリーユ茸のソースの香りと食感がすばらしかった。だけどデザートが甘すぎて重すぎて、それだけが残念だった。
というわけで、あんまり好きでないジャンルの展覧会に行くとこういうことになるという典型だった。絵はがき・図録とも買わなかった。鹿狩りの絵はがきがあったら買っていたのに。
(横浜美術館、2005年6月10日)
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