世界史と銘打っているので通史的な話なのかと思って買った。が、話はあちこちに飛ぶし、文献・科学の面での掘り下げも乏しく、これはどう読んでも歴史本ではない。作者が紅茶に関係する土地を訪問したときの話が多く、どちらかというと「紅茶に関する歴史紀行」という感じだ。なんというか、題名と内容がまったくかみ合わない。そもそも、「一杯の紅茶」がどの紅茶を指すのかが不明である。
というわけで、最初歴史を読むつもりだったのを途中から頭を切り替えたのだが、すると俄然興味深くなり、紅茶よりはコーヒー党である自分にもとても楽しく読めた。
日本で紅茶というとおそらくインドの印象が強いと思うが、実は発祥は中国だ。その中国で飲まれているのは緑茶が圧倒的に多く、世界三大紅茶のキーマンでも現地の人たちは緑茶を飲んでいるというのが印象的だった。
また、アッサム紅茶やセイロン紅茶の開発史や、トーマス・リプトンの立身話は実におもしろかった。すべてはイギリスを中心に回っているのだと思った。しかしそのイギリスでも近年は消費が落ち込んでいるのだそうだ。
ところで、この本を読んで今までまったく意識しなかった茶の原料を初めて知った。「カメリア・シネンシス」という椿科の木だ。このとき、「茶」とは不思議な飲み物だと思った。「紅茶」「緑茶」はともかく、「ミント茶」「玄米茶」のように、違う植物から出来た飲み物にもやたらと「茶」がつく。その法則でいくと「カメリア・シネンシス茶」か「椿茶」が妥当なところだろうが、そうは呼ばない。「茶」として定着しきっているのだ。そもそも、茶の木の名前なんていったいどれだけの人が知っているのだろう? 試しに「カメリア・シネンシス」で検索をかけてみると558件しかヒットしないのだった。
紅茶のウンチク満載で、なんだかちょっと豊かな気分になれたのだった。
(磯淵猛著、平成17年)(2005年11月17日読了)このエントリのトラックバックURL: http://katzlin.asablo.jp/blog/2005/11/20/6645120/tb