題名と目次を見て即買い。なんと、法隆寺中門の真ん中の柱をはじめとした数々の謎を解くっていうんだから、これは歴史ファンであり古建築ファンであり奈良ファンでもある自分としては堪らないのである。筆者が建築畑の人だということにも興味をそそられた。
いきなり筆者のインドでの体験から始まるので、物語的に話は進むのかと思ったがそれは導入部だけだった。ここでいきなり核心にちょっと触れているので、中門に開口部が2つあるのは入口と出口だと言いたいのだと分かってしまったのが、ちょっと残念といえば残念だ。でもそこまでこじつけ論理付けていく過程もおもしろく読めたのでよかった。歴史書なんかだとこのような帰納的な方法で書かれることが少ないので新鮮な感じがした。
中門を入ったときに視点が定まらないとかなんとかいう話は、人によって感じかたも違うだろうし、実際にその場で見てみないと同感するまでには至らないと思う。ただ、空間に着目するあたりはさすがに建築家の目線だなあと思った。
また、プラダクシナー・パタ(めぐる作法)については、ただ単にインドと似ているというだけでなく、五重塔初層のジオラマと合わせて考えるとなるほどと思う。感覚的な説だけじゃなくて、ちゃんと説得力もあるところに好感を持った。
この本の謎解きの中で一番おもしろかったのが法隆寺「新創建」という考え方だった。
現在の法隆寺は再建された建物なのだが、これは火事で焼けちゃった若草伽藍を建て直したものだ、と考えられているようだ。だがそれでは木材の伐採年などから辻褄が合わず、どうも焼ける前に今の伽藍が建立されているのではないかという説もある。筆者は後者を支持し、これに説明を与えている(だいぶ推測が多いが)。五重塔の心柱は掘建て棒として祀られていたものを流用したのではないかという説も飛び出して実にユニークだ。
最後の方はなんか冗長に感じた。終章は話が広がりすぎて、なかった方がすっきり終われたような気がする。そういえばエンタシスの話も尻切れとんぼだ。
(武澤秀一著、2006年)(2006年9月21日読了)このエントリのトラックバックURL: http://katzlin.asablo.jp/blog/2006/09/22/6652635/tb