自分は、展覧会の図録以外では、画集は4冊しか持っていない。そのうちの2冊はブリューゲルとマグリット。その両者が揃ってやってくるというので、楽しみにしていた展覧会だ。
朝9:10に会場の西洋美術館に到着するとすでに10数人が並んでいた。開場する頃には50人くらいは並んでいたのではないだろうか。前売券を持っていたのでスムーズに入場できた。
- 婚礼の踊り(ブリューゲル[子])
- 修復したばかりなのか、いやにピカピカできれいなのに驚いた。
アメリカ・デトロイトにある父の描いた絵と、手前の人物が左右逆だったりするけどそっくりだ。子の方のブリューゲルは父の作品を多く模写したというが、これは模写というにはちょっと違いすぎるような。
- イカロスの墜落(ブリューゲル[父])
- この展覧会の呼び物のひとつで、日本初公開。とはいえ、画集やらなにやらで見過ぎているので初めての気がしない。これまた表面がきれいで驚いた。
みんな右下の犬神佐清状態のイカロスばかり見ていて、左の林の中には死体らしきものが転がっているのに気づかない。こういう突拍子もないものが満載されているところがブリューゲルの絵の面白いところだと思うのだが、会場の説明板も、図録の解説も、そのことには一言も触れていないようだった。自宅の画集にはその説明があり、これは "No plough stops because a man dies"(『人が死んでも鍬は止まらない』と訳すらしい)というフランドルの諺を表しているという。この画集は1971年初版の洋書なのだが、日本では(あるいは現在では)認められていない説なのだろうか。
- 地獄のアイネイアス(ファン・スワーネンブルフ)
- 知らない画家だったが、これが本日一番のヒット。羽の生えた犬が人をさらってぱたぱた飛んだりしている。ブリューゲルが描きそうな絵だ(が、彼だったらもっとグロく描きそう)。などと考えていたら、なんとこの人、レンブラントの師匠ということだった。
- オウムのいる静物(ファン・ユトレヒト)
- 金色の質感も見事だが、写真でいう被写界深度を大きくしたような、背景のぼかし方が素敵だった。そもそも静物画で背景を描き込んでいるのが珍しいような。
- アンソール
- やはりおもしろい絵を描く人だ。『怪物の夢を見る叔母』の、子どもの落書きちっくな怪物が気に入った。『燻製ニシンを奪い合う骸骨たち』は、主題となる骸骨たちの不気味さとは対照的なピンク色のバックがほのぼのとして美しかった。
- クノップフ
- お気に入りの画家だが、油彩2点はいずれも自分が持っているクノップフのイメージとは違うように思った。写真に彩色したという『遠い昔』の左上に女性の顔がかすかに見えるが、そののっぺりとした頬のラインを見て初めて「らしい」と思った。で、その後に見た『白・黒・金』でほっとした。
- 情念の輪(デルヴィル)
- 水にあおむけに浮いている人。昨年の『ベルギー象徴派展』で観た『死せるオルフェウス』『栄光の天使』を思わせるようなポーズだ。
- 孔雀(ド・ヌンク)
- 深い色が印象的な画家だが、この『孔雀』も同様に緑が深くて暗くて、すっかり引き込まれてしまった。
- デルヴォー
- これまたお気に入りの画家。『夜汽車』のような、線路などの線が交差しまくる絵は観ていて飽きない。
- マグリット
- これまたお気に入りの画家。『光の帝国』は全部で22バージョンあるというが、今回観たのはその中でも最高の出来栄えのものではないだろうか。明暗のコントラストの具合もいいし、構図が落ち着いて見えるように思う。
『血の声』は2002年のマグリット展にも出展されていたが、図録を見ると個人蔵になっている。ということはその後王立美術館が買い足したものだろうか。青がきれいで好きな作品だ。
当初の期待どおり楽しめた展覧会だったが、図録は買わなかった。代わりに絵はがきを7枚買った。スワーネンブルフの怪物の絵はがきがあったのが嬉しくて思わず買ってしまったが、はがきサイズだと細部がなんだかよくわからないのは残念(泣)。
イカロスは、全体はもちろんあったが、佐清のアップが単体で売られていた。また、ベルギーつながりということで、ビール関連の商品(グラスやコースター)とチョコレートまでもが売られていた。
常設展をちらっと見てから、池ノ端にほど近い洋食の有名店「黒船亭」で食事をした。11:30開店なのだが、35分頃に行ったら空いていたテーブルはもう最後のひとつだった。自分は詰物をした豚肉の煮込み、相棒はシチューを食べた。まさに洋食の王道といった味だった。
食後、3つ揃い踏みの「風神雷神図屏風」でも見に行こうかと出光美術館に行ったらなんと帝劇前の道路にまで溢れる行列。あきらめて帰宅したのだった。(国立西洋美術館・2006年9月24日)