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富士山頂(文春文庫)2007-10-27 16:57

『劔岳 点の記』が映画化されるという話にちょっと興味をもって、原作を読もうと本屋に行くと売り切れだった。で、同じ新田次郎のこの本を代わりに買ってしまったのだった。

どうして剱岳が富士山になってしまったのかというと、NHKのプロジェクトXで見覚えがあったからというただそれだけのことだった。
新田次郎といえば映画『八甲田山』の原作者、という程度の貧困な知識しか持っていなかった。その後プロジェクトXの富士山レーダー建設の話を見て、その総責任者が新田次郎だったということを知り、知識が2倍に増えた(恥)。で、偶然本屋で見かけたこの本は、その富士山レーダー建設の話だったのだ。


気軽に読み始めたが、わりと最初の方から引き込まれて一気に読んでしまった。特にクライマックスのひとつであるヘリコプターによるドームの運搬シーンは興奮もので、通勤電車で読んでいたのだがちょうどいいところで乗換駅が近づいてきてしまい、電車が故障したらいいのにと本気で思ってしまった。

題材は山だが、純粋な山岳小説とは言えない感じだ。作者自身の体験をもとにしていると言っても、私小説とも違う。尾崎秀樹による巻末の解説には企業小説的なおもしろみをもっている(235頁)とあるが、それが一番近いように思った。

読後にビデオでプロジェクトXを見直してみたら、食い違いがあったりしておもしろかった。建設中のホテルがレーダーを操作する電波の障害になるかもしれないというエピソードは、プロジェクトXでは現場に藤原課長(新田次郎)が「怒鳴り込んできた」と言っていたが、小説の葛木課長は足が慄えるほど衝撃を受け、「暗い気持ちで」おそるおそる現場に向かっていた。小説だから脚色があって当たり前で、ストーリー上もこの方がよいのだが、あまりにも真逆なので可笑しかった。

(新田次郎著・1974年)(2007年10月11日読了)

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