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劒岳 点の記(文春文庫)2007-10-27 22:04

『富士山頂』を読んでいる数日間に本屋を何軒かまわってようやく買うことができた。
この『劔岳 点の記』が映画化されるという話に興味をもったのは、ロケがほんとうに剱岳周辺で行われている、ということを知ったからだ(ネットでも目撃情報多数)。また、測量官の柴崎芳太郎という人は、BS-iの番組『剱岳 百年目の真実』(剱の再測量は北岳とともに話題になったっけ)で名前と業績は知っていたし、彼が山頂で発見した平安時代の錫杖が重要文化財に指定されていることから、山好き・地図好きな文化財ヲタクの自分にはまさに神のような存在なのだ。


登頂に関するちゃんとした記録は残っていないだろうし、エピソードの類はだいたい作り話なのだろうと思いつつ読み進んだが、最後の「越中劒岳を見詰めながら」という後書きとも別稿のエッセイともとれる章を読むと、著者は柴崎本人から裏話を聞いたという人に取材しているらしい。ってことは、実際にあったことなのか。そうと知っていればもっと真剣に読んだのに。とは思っても後の祭り。まあ、先入観を持って小説を読むとつまらなくなる、ということだ。
また、ストーリーの流れと地名から、どこが登頂ルートなのかが事前にわかってしまったのがちょっと残念だった。

読み終えてから冷静に考えてみると、『富士山頂』もそうだったが、クライマックスが結構早めにやってきてあとがだらだらと続き、結末になんだか締まりがないように思った。
また、ずっと柴崎芳太郎の目線で進んできた話の最中に突然作者による登頂日の謎解き(314-316頁)があったりするのは小説としてどうなのかなあとも思ったりもした。これをわざわざこのタイミングで挿入する意図がわからない。これこそ、結末とか後書きにすれば最後がきっちり締まるように思えるのだが。

それでも登頂を果たすシーンには感動した。これは自分が山登りをするということも大きい。長い縦走を経てようやくたどり着いた山頂で感じるあのなんとも言えない満ち足りた感動を、この小説を読んだだけで味わうことができた。剱岳には登ったことがないのに。

なお、冒頭に記したテレビ番組『剱岳 百年目の真実』で、柴崎芳太郎が実際に作成した点の記や、山頂で発見された平安時代の錫杖などを見ることができる。

(新田次郎著・2006年新装版)(2007年10月24日読了)

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