もうここんとこ、美術展情報は『ぶらぶら美術・博物館』にすっかり頼り切っているわけで、これまた番組で知った展覧会。これでこの秋、3回連続でお世話になっている。
実はこの展覧会のことは前から知ってはいたのだけど、ほとんど行く気が起きなかったのだ。が、番組で宮殿風の「バロック・サロン」を見て、これなら行ってみる価値があるかな、と思ったのである。
乃木坂駅着は9:45。改札を出ると、目の前に臨時チケット売り場があったので、そこでチケットを購入。臨時売り場があるなんてどんだけ混んでんだよ、と一抹の不安が胸をよぎる。しかし特段人が多いということもなく、美術館の券売所もがらんとしていた。ちょっとほっとして屋内に入り、最初の角を曲がるとそれなりに行列ができていた。
開場は10時だが、その前から徐々に入場をさせていた。案内の係員は「入り口は混雑していますので、順次ご案内しています。空いているところからご覧ください」云々。で、入ってみると、すぐのところは人だかりも多いうえに、展示品もなんかぱっとしなくてスルー。そしてすぐ次の部屋が噂の「バロック・サロン」だった。
- バロック・サロン
- 侯爵家の夏の離宮のまま、という展示コンセプトになっていて、数々の調度品と絵画が壁面に整然と並べられている。そして天井絵をちゃんと天井に飾るという、ありそうでなかった本邦初の展示法。天井絵はともかく、壁面は解説板もなしで(そのため入り口に解説パンフが置いてある)、展覧会というよりは、まるでヨーロッパのどっかの宮殿を観光しているような気にさせられる。そのためか、全体の雰囲気を楽しむ部屋という感じで、何を展示してあったかという記憶とか印象がとても曖昧だ。だがそれがいい。ちょっと今まで味わったことのない感動を覚えた。
人々が最初の部屋でまごついていて人が少ない時間帯に入れたので、それも好印象につながったのだと思う。天井絵を見るために双眼鏡を持っていったのだが、見たらなんか妙にうねうねと波打っていた。
- 徴税吏たち(クエンティン・マセイス)
- No.021。この唇の具合がなんともいえずよい。
- 狩りの後で休息するディアナとニンフたち(ハンス・フォン・アーヘン)
- No.023。そんな薄着でケモノを担いだら、たぶん肩とかが毛でチクチクして痛いんじゃないだろうかとか余計な心配をしたのだった。
- クララ・セレーナ・ルーベンスの肖像(ペーテル・パウル・ルーベンス)
- No.038。チケットや看板にもあしらわれている展覧会の顔。一等地にソロで展示されていて、スポットもいい感じだった。
- 占いの結果を問うデキウス・ムス(ルーベンス)
- No.042。いかにもルーベンスなドラマチックな大作。自分はルーベンスはあまり好きでないのだが(「フランダースの犬」のせいだ)、これは純粋にイイと思ってしまった。
- 銀装飾の水晶のゴブレット
- No.072。水晶のゴブレットって・・・凄すぎる。
- 豪華なジョッキ(マティアス・ラウフミラー)
- No.078。象牙のジョッキって・・・凄すぎる。
蔦のような細工のくるくる感がすばらしい。三脚の意匠は牙をむいた怪魚で、仏像の四天王に踏まれている邪鬼とか、ブリューゲルの絵画に描かれる怪物を思い起こさせる。
- 貴石象嵌のチェスト
- No.076。大理石だかなんだか、とにかく様々な貴石を象嵌した櫃。象嵌じたいは日本にも螺鈿とかがあるし、ふうん、西洋にもそんな細工があるのか、くらいに思って通りすぎようとしたら、凄かった。嵌め込まれた石の模様がうまく絵柄に活かされていて、絵心満点なのだ。たとえば茶色と白のマーブルは岩山の部分に使われていたりとか。
- 男の肖像(フランス・ハルス)
- No.056。どことなく、そこはかとなく、なんとなく笑顔の男の肖像。歯を出して笑っているわけではないのに、そんな微妙なニュアンスが表現されているのが凄い。
- 虹の女神イリスとしてのカロリーネ・リヒテンシュタイン侯爵夫人(旧姓マンデルシャイト女伯)(エリザベート・ヴィジェ=ルブラン)
- No.064。美しい侯爵夫人が宙に舞い上がる。しかし、裸足であることでクレームがついたとかいう情報は、「ぶらぶら美術・博物館」で知ったものだ。昔は絵のすぐ下に靴を揃えて置いて展示していたとか。ここでもそうしてくれたら面白かったのに。
- 幼き日のオーストリア皇帝フランツ・ヨーゼフ1世、おもちゃの兵隊を従えた歩兵としての肖像(フェルディナント・ゲオルク・ヴァルトミュラー)
- No.065。これはヨーゼフ1世がおもちゃのようだ。
- 復讐の誓い(フランチェスコ・アイエツ)
- No.069。このヴェルヴェット感がたまらない。
- 夢に浸って(フリードリヒ・フォン・アメリング)
- No.066。この黒レース感がたまらない。
意外にあっさりと見終わったので、もう一度最初から見た。なんだかんだと楽しめた1時間半だった。
「ぶらぶら美術・博物館」を見ていてブリューゲルの絵が映っていたので期待していたら、全部模作だった。だから番組でもスルーしたのだろうか。決定的な目玉作品がないので、何を見に行ったかという印象がちっと薄いのが残念といえば残念。でも全体的に質の高いよい展覧会だった。
絵ハガキを数枚買った。象牙のジョッキのものがなかったのが残念。また貴石象嵌のチェストも全体写しだった。これは部分アップならよかったのに。
あと「リヒテンシュタイン物語」のマンガを買った。これはあの「ベルばら」の池田理代子がこの展覧会のために描き下ろしたものだ。自分の場合リヒテンシュタインといえば、切手と、以前NHKスペシャルで見たヒトラーの美術品破壊命令から侯爵家の美術品を救い出す話の印象ぐらいしかないのだが、このマンガはその物語なのである。マンガだけでなく、侯爵家の歴史や展覧会出品作品の写真もあったりするので、図録よりよっぽど面白いと思って買ったのだ。もちろん、ベルばらテイスト満開の絵柄も味わい深い。
昼食は定番のポール・ボキューズでとり、六本木ヒルズやミッドタウンで買い物をして帰った。
(国立新美術館・2012年11月24日観覧)