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牧野邦夫―写実の精髄2013-05-23 23:12

テレ東系『美の巨人たち』の放送を見て興味を持った展覧会。牧野邦夫という名はこれまで全く知らなかった。作品は個人蔵が多く、これほどの数が集まることは珍しいというので見逃せないと思った。
さらに、4月に行ったばかりの大神社展のチケットがなんと懸賞で当たってしまったので、その後期展示のチェックと合わせて東京へ出かけることとなった。


混雑は大神社展の方が凄いだろうという予想から、まずは上野へ向かった。上野公園に入ると、西洋美術館のラファエロ展の行列が凄いことになっていた。列は角を曲がってさらに続いていた。数百人はいると思われた。
9:25に東博の門前に着くと、並んでいるのは50人くらいだった。しかもこのうち半分は、国際美術館の日に合わせて無料開放の常設展を見にきた人たちで、列が分かれると大神社展はたかだか30人くらいになってしまった。会期中盤を過ぎて残り2週間でのこの有様からすると、たぶん大コケなのだろう。

後期の展示で見たかったのは北野天満宮所蔵の『北野天神縁起絵巻』と、青森の櫛引八幡宮の鎧である。『北野天神縁起絵巻』といえば、雷神と化した天神様が怒ってる巻五の印象が強いが、展示は巻八で、なんだかとてつもなく地味で、かなりがっかりした。青森の鎧は美しかったが、なんだか訴求してくるものがなかった。例えて言うなら、美人なんだけど、なぜか顔を覚えられないファッションモデルとでもいうか。兜から何から一式揃っているのが最大の価値で、美術的にはそれほどのものでないのかもしれない。

というわけで、10時過ぎには平成館を出た。本館でやっていた『古地図と地誌』の展示を見てから(地図好きにとってはこれはなかなか面白かった)、池の端薮で昼食に蕎麦を食べたあと、山手線・西武線と乗り継いで中村橋の練馬区立美術館に着いたのは12:30を少し過ぎたくらいだった。
館内はさほど混んではいなかったが、かと言ってがらがらでもなく、ほどほどの入りだった。会場は1階と2階に分かれていて、順路としては1階から回るのが正解だったが、(我々はそんなことを知らなかったので)2階から見て回った。
かなりの数の作品に千穂夫人のコメントが寄せられていた。

複製のある部屋
No.24。第9回安井賞候補新人選入選。
男児
No.87。男「児」というよりは青年ぽい男性がたくさん描かれていて、全員がピラミッド状となっている。で、その頂点あたりに画家の自画像があるのだ。
花帽子
No.106。千穂夫人のコメントによると、制作中の花の絵を見た出入りの画商がこれは美しくて売れるだろうと思っていたら、次に見たときに帽子の下に画家の顔が描いてあって、自画像じゃ売れないよなあとがっかりしたとか。
顔も目から上だけ描かれていて、明らかに帽子がメインなのだが、まあ、確かにこれじゃあ大ファン以外でなければ手が出ないよなあ。
画家R氏の肖像
No.224。R氏とはつまり牧野が尊敬したというレンブラントのことだ。しかし顔はどう見ても牧野本人だ。
死んだ雀
No.251。レコードジャケットを台紙にして描かれている。ピアノの前に男性が2人いるというジャケットの絵がそのまま生かされている。ちなみにレコードはリストのピアノコンチェルトで、奏者はジョルジュ・シフラ親子である。
シャンデリアのある部屋
No.347。シャンデリアは絵の具の厚塗りで表現されている。
旅人
No.348。今回一番気に入った作品。狩人のような格好の牧野夫妻が森の中を歩いている。まわりは怪物みたいなのがいっぱいで、自分はすぐに大好きなブリューゲルを連想した。
セロ弾きゴーシェ(宮沢賢治作品より)
No.378。ゴーシュじゃなくてゴーシェなんだとか。チェロの半分が怪物の顔になってて怖い。
不思議な国に住む絵描きとモデル
No.447。最晩年の作品で、リストには未完成とある。主題の絵描きとモデルよりも、左側にいる女に目がいってしまった。悪魔が自分の髪の毛を引っ張って地中から出てくるところなんだとか。なんか怖い。
ここまでは2階の展示会場の作品。
未完成の塔
No.452。『美の巨人たち』でとりあげられていた作品で、1階展示場の入り口にある。つまり展覧会の最初の作品というわけだ。が、自分にはなんだかピンとこなかった。やはり未完成は未完成なのだと思った。
ビー玉の自画像
No.n-25。チケットやちらしに使われている作品。実物は長辺が33.5cmと、さほど大きくはない。これは1963年の作品だが、1階に展示してある初期の作品は総じてタッチが荒く、若々しい印象を受けた。それにまだ署名の花文字が未完成な感じでもある。

TVでは自画像の多い画家という解説だったが、実際にそのとおりだった。しかもそのクオリティが高いのがいい。展覧会じたいのサブタイトルが「写実の精髄」なのだが、フツーの自画像だけならそう言えなくもないが、現実にはあり得ない光景の中の自画像だったりして、そうすると果たして「写実」と言っていいのかどうか、自分にはちと疑問に思えた。

絵ハガキはセレクションがビミョーで、図録代わりの画集は3,300円もしたので、悩んだ挙句に結局どちらも買わなかった。だが観覧料は500円とイマドキにしては安く、その割には充実した展示で、よい展覧会を見たあとの快い気分を味わえた。
池袋のデパートをぶらぶらしてから新宿に出て、「達 菊うら」で食事をして帰った。
(練馬区立美術館・2013年5月18日観覧)

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