10何年ぶりだかで開催の日本国宝展。開催を知ってから楽しみにしていた。にもかかわらず、目玉が土偶とはイマイチだなあと半ばがっかりしていたら、開催の2ヶ月くらい前になって正倉院宝物が特別出品されるとのアナウンス。開催の10日くらい前になってようやくアップロードされた出展リストを検討し、前期と後期に1回ずつ行くことにした。
前期のお目当ては正倉院宝物(国宝じゃないけど)と、源氏物語絵巻だ。土偶が5体揃うのは実は後期になってからなのだった。

博物館に着いたのは開場約10分前。かなりの行列になっていた。9:30になって門が開き、粛々と中庭を進む。平成館の前で待たされて、実際に展示室に入れたのは9:40くらいだった。
入ってすぐの仏足石と、居並ぶ挨拶板(そんなもの読んでないで早く展示を見ればいいのに)、それに玉虫厨子に群がる人が多くて早くも大混雑の様相だった。正倉院宝物はその同じ部屋に展示されていた。
- 鳥毛立女屏風(正倉院宝物)
- No.S02。高校時代に志賀直哉の『暗夜行路』を読んでこの絵の存在を知り、いつか実物を見てみたいものだと思っていたが、それがようやく叶った。思っていたよりずいぶん色が薄かった。鳥の羽はほとんど欠落しているという。ほとんど、ってことはどっかに残ってるんだろうと思って探したが、とうとう分からなかった。
- 楓蘇芳染螺鈿槽琵琶(正倉院宝物)
- No.S04。超有名なお宝。正倉院宝物と言えばコレという人も多いのだろう、みな口々に「あっ、教科書のやつだ!!」と言っていた。それにしてもこの螺鈿の細工は凄すぎる。でかい花の真ん中のこの飴みたいな固まりは、瑪瑙かなんかですか。で、有名なこの螺鈿は琵琶の裏側であり、表側には数人の人が楽器を演奏している絵が描かれている。で、やはりみな口々に「えー反対側ってこんなだったんだ!!」と言っていた。この表側の人が変な踊りを踊っているように見えるのが笑えた。
- 緑地彩絵箱(正倉院宝物)
- No.S06。緑のあざやかなきれいな小箱。残念ながら、人の波が凄くて近寄るのを断念し、人垣の隙間から望遠鏡で見た。
- 一字蓮台法華経(大和文華館)
- No.26。料紙が絢爛豪華。実に美しい。
- 当麻曼荼羅縁起絵巻(光明寺)
- No.33。井戸掘りの場面で当時の大工仕事のようすが分かるとか。石仏を彫っているシーンもなかなか面白い。
- 土偶 縄文のビーナス(茅野市・尖石縄文考古館)
- No.45。この展覧会の目玉のひとつ。頭の上までぐるぐる模様になっているのが帽子みたいでおもしろい。これ、そのまんま着ぐるみにするだけでゆるキャラになれそうだ。
- 土偶 合掌土偶(八戸市埋蔵文化財センター)
- No.49。一目見た瞬間に、訳も分からず、なんとも言えない寂しい気分になった。第一印象は最悪だったのだ。しかし全展示を見終えて再びこいつの前に立ったとき、ふと、「ごめんなさい、許してください」と懇願している仕草のように見えた。そうか、それでマイナスイメージが先行しちゃったんだ。そうして理由が分かると、今度はこいつがとても愛らしくなってきたのだった。
こいつは何か重い罪を犯したのだろうか。合掌しているというのは現代の我々が勝手にそう見ているだけで、実はこれは両手を繋がれている表現なのではないのだろうか、などと勝手に考えたりした。
- 寝覚物語絵巻(大和文華館)
- No.70。美しい料紙の絵巻だが、絵に比べて詞がずいぶん多いように感じた。
- 信貴山縁起絵巻(朝護孫子寺)
- No.69。展示は尼公巻。大仏の前で尼公が寝たり祈ったりする有名な異時同図は、展示の上のパネルでよく分かるようになっていた。
- 源氏物語絵巻(徳川美術館)
- No.67。前週に紫式部日記絵巻を見たばかりだが、それに優るとも劣らない精緻で優美な素晴らしい絵巻。この下膨れた顔の輪郭の曲線と、メーテルや森雪も顔負けの長い目の組み合わせはまったく官能的だ。詞の方の料紙も燦びやかなうえに字も美しく、まさに日本美術の極上のものを見た、という満足感でいっぱいになった。
展示ケースの位置が単独だったので(他作品と並んでいなかった)、いったん人だかりが出来るとそれがなかなか解消せず、正面の位置に入るのに苦労した。さらに、見終えて移動しようとすると人をかきわけねばならず、押し合い圧し合いでたいへんだった。
- 金銅能作生塔(長福寺)
- No.93。細かい金工芸に感心。塔頂部が人の歩みでゆらゆら揺れていて、大丈夫かなとちょっと心配になった。
- 法然上人伝絵巻(知恩院)
- No.95。前期の展示は巻第七。空から仏が下りてくるのを見るシーンでは、鳳凰のような架空の鳥と、オシドリのような実在の鳥が、まったく違和感なく混在しているのが面白かった。
- 琉球国王尚家関係資料(那覇市歴史博物館)
- No.100。(6)の黒漆雲竜螺鈿東道盆が凄かった。螺鈿というとベージュをイメージするが、この螺鈿は虹色なのだ。照明の加減なのか何なのか青味が強く輝いて、実に美しかった。
この琉球王家資料や土偶なんかは、これまで国宝のなかった地域のものだから無理矢理指定したんだろうな、と高をくくっていたのだが、ところがどっこい、やはりそれ相応のものだったのだ。
- 玳玻天目(相国寺)
- No.109。美しい玳玻天目。5つある国宝の天目茶碗でも、玳玻はこれだけだ。単眼鏡を使ってどアップで見るとキラキラと輝くさまが見事だ。
- 薬師如来坐像(奈良国立博物館)
- No.114。小さな像だが、なかなかの優品。一木造で、いかにも平安時代な大らかなところがイイ。
以前見たことのあるものとか東博所蔵のものとかはすっ飛ばして見たのだが、それでも1時間くらいかかった。でも1時間かかったとは思えないくらい、あっという間に感じた。それだけ充実した展示ということなのだろうと思った。
そのあとは、後期にはもう見られなくなってしまうものを中心に、もう1回まわった。
お土産コーナーには「国宝店」とかいう名前が付いていた。家に週刊朝日百科「日本の国宝」があるので、図録は買わなかった。その替わり絵ハガキをたくさん買おうと思ったら、なんとも残念なセレクションで、チケットやチラシにもあしらわれている新国宝・安倍文殊院のポロンちゃんと、今日見た2体の土偶の合計3枚だけ買った。レジはロープで制限するほどの混雑ぶりだった。レジ待ちのとき、自分の前にいた20代くらいの3人組の女性が、3人とも揃って縄文のビーナスのぬいぐるみを持って並んでいる光景はなんだかシュールな感じがした。
あと、土偶のガチャガチャをやった。3回やったら、うち2個が「ごめんなさいもうしません」土偶だった。

平成館を出たら、入場待ちの列がひどいことになってるだろうと思っていたら、誰もいなくてすんなり入れる状態だった(それでも展示室は混んでいたけど)。11:30だったので、東洋館のオークラで昼食をとった。少しだけ待たされたが、こちらはまだ大した混雑ではなかった。食後は、国宝展のためにほとんど国宝がない本館をひとまわりしてから、次の目的地である三井記念美術館へと向かった。
(東京国立博物館・2014年10月18日観覧)