KATZLIN'S blog

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ベルギー象徴派展2005-06-05 21:48

今は亡き小田急美術館で'97年に「ベルギー象徴主義の巨匠展」を観に行ったことがあって、クノップフやデルヴィルには好印象を持っている。そんなわけでこの展覧会は前から楽しみにしていた。

開場10分前にBunkamuraに到着すると、列は10数人程度だった。ゆっくり見られそうでほっとした。チケットを買って入場すると、会場はしーーーーんと静まり返っていた。いつもはオバサンたちのおしゃべりブロックに活躍するiPodもこれなら出番なし。逆に、この状況で音楽聴いたら音漏れで自分が迷惑かけちゃう。
流れもスムーズだった。空いていたせいもあるが、音声ガイドを使っている人がいなかったことが最大の理由だと思う。このテの展覧会に朝早くから来るような人は、あんなモンは使わないのだ。
観ている人の前を横切ったり横切られたりすることも、引いた場所から見ようとして後ろにいた人に気付かずにぶつかったりぶつかられたりすることも皆無で、実に快適に観覧できた。


クノップフは、色鉛筆やパステルの風景画の、まったく人の気配が感じられない静けさが好きだ。風景画以外は'97年展に比べるとあまり良いものが来ていなかったように思ったが、そんななかで彫刻の「メデューサの首」がよかった。
ところで、この人の絵を見るといつも「エロイカより愛をこめて」の少佐を思い浮かべてしまう。

フレデリックは上手いと思う。今回の作品では「アトリエの内部」が気に入った。最初は自画像かと思ったが、右手前にパレットがあることに気付いた。てことは自分からの視点なのか。
パレットに光があたることで色価が高くなり、目を引くのだろうか。視点はそこから人物を通して左奥へと続き、そこに窓や白シャツを配している構図が美しい。

今回再び見られることを楽しみにしていたデルヴィルの「死せるオルフェウス」。これは弐代目・青い日記帳にあるとおり、まさに青好きの心を捉える。'97年展ではチラシや図録に使われるなど主役だった(題名の邦訳は「オルフェの死」だった)。

ドゥドゥレの「廃位」は化け物みたいな顔した女王だかなんだかが、若い女に玉座から引き摺り下ろされている絵。テーマ、というかアイデアは自分好みなのだが、どうにも絵がマンガちっくなのが残念。化け物女王の顔は「恐怖新聞」みたいだし、若い女の顔も相原コージが描きそうな顔。なんつっても布の質感が×。こういう笑える絵はテクがあってこそ活きると思う。

今回初めて知った画家で良かったのがウィリアム・ドグーヴ・ド・ヌンク。3枚だけだったがどれも気に入った。「夜の効果」の深く沈んだ暗い青、「ただれた森」の深く沈んだ暗い緑、「謎めいた森」の奇妙な光景。人影の見えない神秘的な夜の風景が彼の真骨頂である、と解説板には書いてあった(図録にも同文)。
「爛れた森」は遠くから見ると森に見えるが、近くに寄るとぼーっとしていったい何が書いてあるのかわからなくて戸惑う。この、はっきりとしていてぼーっとした感覚はどこから来るのだろうと思ってよくよく見ると、塗った絵の具を拭き取ってグラシの効果を出しているようだった。白地に緑を塗って拭くのと、緑地に白を塗って拭くのが上手い具合に混在しているのだろうと思った。

全部見終えてからもう1周して会場を後にした。11:30だった。図録を買ったが、例によってハガキには欲しいものがなかった。
観覧後は東急8階のイタリアン、「タント・タント」でランチを食べた。ここはいつも混んでいて、入れたのは5年ぶりくらいだ。メインの牛ほほ煮込みはかなり重い味の料理で、昼飯にはちとキツかった。グラスワインの種類が豊富だったので、思わずシャンパン(Veuve Cliquot)、サルジニアの白(Cubia)、赤(Tre、Tancredi)と飲んだ。周りを見ても昼からこんなに飲み食いしている人たちはいないようだった。

今回観覧するにあたって'97年展の図録を引っ張り出して復習したが、それで思ったのは、入場料の高騰。今回は一般1200円で、ネットの割引券を使って1100円。'97年展は900円だった。小田急美術館はカード会員は無料だったので、もしかしたらタダ見していたかもしれない。10年後はどうだろうか。
(Bunkamura ザ・ミュージアム、2005年6月5日)

『史記』の人間学(講談社現代新書)2005-06-07 23:44

史記は長く、全てを読むというのはなかなかたいへんだ。この本は登場する人物に焦点をあてているので、手軽にいいトコだけ拾えそうだなと思い、読んでみた。


なんとなくざーっと流し読みしてしまった。「人間学」といいつつも、人物像がなんだかはっきり浮かび上がっていないような気がしたのはそのせいかもしれない。中国古代史は大好きな分野なので、それでもまあまあ楽しめた。が、史学的な考察がなかったのはちょっぴり残念だった。

おそらくこれは筆者が歴史家ではないからだろう。しかし、文学作品の解説だと思えば悪くない。司馬遷の心情を推察したりなんかするあたりはまさしく文芸評論という感じがした。
そういえば、以前読んだ「山の社会学」の著者も報道出身だった。報道の人は題名になんでもかんでも「○○学」とつけるのが好きなのだろうか。

(雑喉潤著、2005年)(2005年6月7日読了 --関係ないけど、著者の名前が「ざこう」で一発変換されたのでびっくりした。思わずググってしまった)

ルーヴル美術館展2005-06-11 21:55

まったく観る気はなかったのだが、相棒が是非行きたいと言うのと、チケットが安く入手できたので、行くことにした。横浜美術館は随分ひさしぶりだ。
金曜日、相棒が出張で関内に来るというので、待ち合わせて仕事帰りに行った。台風4号の影響で天気も荒れ模様で、ランドマークタワーは半分より上は霧の中だった。この天気のせいか、週末の夜ではあったが美術館はがらがらだった。観客は20代くらいの女性が圧倒的多数だった。みんな仕事帰りなのかな。

新古典派からロマン派が中心の展覧会で、アングルなんかは上手いので結構好きなのだが、結論から言うと、自分にはおもしろくない展覧会だった。


初めは歴史画の部屋。最初にパンフの裏にも載っているアングルの「」が出迎えてくれるが、照明の角度が悪く、反射が激しくて見づらい。もともと乗り気でないうえにこの仕打ちで、すっかり萎えてしまった。
好きなはずのアングル・新古典派だが、なんだかピンとこない。この部屋では有名な「スフィンクスの謎を解くオイディプス」が心に残るくらいだった。やっぱり上手い。他のサロンちっくな絵はほとんど思い出せない。

続いてオリエンタリスムの部屋。ここにこの展覧会の目玉の「トルコ風呂」があった。画集などで見るよりもコントラストが強い。画面全体が薄暗い中で、手前にいる背中を向けている人の頭から肩のあたりが際立って明るく、自然と視点が向く。たしかに、言われてみれば覗き見しているような感じだ。でも、ふうん、まあこんなもんかな、という感想しか残らない。有名ではあるが自分の好みじゃない。
同じく有名な「マラーの死」は手元の中公新書「近代絵画史」ではベルギー王立美術館所蔵となっているので、ルーヴルが買ったのかなと思って調べたら公式サイトにブリュッセル王立美術館にあるオリジナルの工房によるほぼ忠実な摸作とあった。だから作者名に「(アトリエ)」がついているのか。ふうん。でも題名には「模作」とかはつかないのね。オリジナル工房だから?

時事的絵画、肖像画・・・と、つまらない部屋が続く。このままじゃこの展覧会は0点だ。と思っていたら、風景画の部屋でようやく大ヒット。「聖フルベルトゥスの祝日の鹿狩り、1818年、ムードンの森」だ。すげー数の人と犬と馬が鹿1頭を追いかけている。鹿は沼に逃げ込んでいるが、沼の周囲はすべて狩猟部隊が囲んでおり、狩られるのは時間の問題だろう。対岸には見物している高貴な女性の馬車がある。かと思うと手前には洗濯物を馬に踏んづけられて怒っている近所のおばさん。この対比もいいし、鹿1頭に必死の人々が可笑しすぎる。こういうのは好きだ。
細かく、かつデカくて見応えがある。周囲のバルビゾンちっくな風景画の中で異彩を放っていたように思う。

そんな調子で30分ほどで観終えてしまった。鹿狩り以外はつまらなかったが、まあそれも想定の範囲内だったのでがっかりはしなかった。相棒もさほど面白く感じなかったようで、ちょっぴり残念そうだった。
常設展もつまらなかった。丸い部屋は開館したての頃はシュルレアリスムの殿堂のようになっていてすごく好きな部屋だったが、いつの頃からか中途半端に印象派が中心となった陳腐な部屋と化している。ケッ。

ソファに座ってだべったりして時間を潰してから美術館を出て、予約してあったインターコンチネンタルホテルのフレンチ、アジュールで夕食をとった。ルーヴル展に合わせてフランスフェアと銘打っており、メニューはフランスの有名シェフの特別コースだ。フォアグラのテリーヌはフレッシュフォアグラの旨みがぎゅっと凝縮された感じで、ブイヤベース仕立てのスープはダシがよく出ていた。鯛のグリルの香ばしさは卒倒ものの強烈さで、牛フィレ肉のポワレはモリーユ茸のソースの香りと食感がすばらしかった。だけどデザートが甘すぎて重すぎて、それだけが残念だった。

というわけで、あんまり好きでないジャンルの展覧会に行くとこういうことになるという典型だった。絵はがき・図録とも買わなかった。鹿狩りの絵はがきがあったら買っていたのに。
(横浜美術館、2005年6月10日)

夕方の虹2005-06-11 23:53

虹118: 30頃。部屋のカーテンを閉めようと窓際に行くと、虹が出ていることに気付いた。完璧な弧を描いている。これほど見事な虹を見たことは今までにあっただろうか。

相棒とふたりでベランダから眺めていると、色がみるみる濃くなってきた。さらに二重になってきた。
これは凄いと思い写真を撮ったが高圧線が邪魔で仕方ない。川に行けば高圧線が入らなくてすむと思い、デジカメを持ってサンダルをつっかけて走った。

川沿いの遊歩道に着いた頃には二重の外側の虹はほぼ消えかかっていた。人々は足をとめて見入ったり、ケイタイで写真を撮ったりしていた。一眼レフを構えている人もいた。
数枚写真を撮ると虹は徐々に薄くなっていった。18:45。カメラをしまって、家に帰った。


虹2 虹3 虹4 虹5

※写真は、トリミングして色補正をかけてあります。