KATZLIN'S blog

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時代の美 と 新春の国宝那智瀧図2013-02-12 23:55

時代の美 --五島美術館・大東急記念文庫の精華--

半年で全4部構成の展覧会のこれが第3部で、桃山・江戸編ということになっている。タダ券を入手したので行ってみた。
BSアニメ『へうげもの』を観て以来、茶道具、特に桃山時代のものに関心が高まっていて、ちょうどよい。


入館し、ジャンパーを脱いでロッカーに押し込んでいると、声のでっかい中年女性が2人やってきた。静かなロビーに声が響き渡る。大声というよりキンキンしたよく通る声という感じだ。彼女たちが展示室1に向かったのを見て、我々は展示室2に向かった。

古伊賀耳付花生
No.51。織部好み。へらの跡がわざとらしい、と思えてしまう自分はひねくれているだろうか。
古伊賀水指 銘「破袋」(重文)
No.52。『へうげもの名品名席』でも紹介された。全体にものすごいひびが入っていて、上から押しつぶしたようにひしゃげている。いや、これ、絶対失敗作でしょ、という一品。アニメでも、古田織部がテキトーな焼き物に箔をつけて高値で売って儲けるというストーリーがあるけど、これはそういうことだと思うのだ。
・・・なんだけど、何度となく見返すと、だんだんイイものに見えてくるのが不思議でしかたない。たぶん古織のマジックなのだろう。
瀬戸肩衝茶入 銘「月迫」
No.43。小堀遠州由来の茶入で、銘は「げっぱく」と読む。ツーっとしたなだれが美しい。仕覆が何種類もあった。
黒織部沓形茶碗 銘「わらや」
No.48。これまた『名品名席』で取り上げられた作品。イラスト風なデザインが今風なような。これが400年前のものだと思うとおもしろい。
千利休消息 「横雲の文」
No.28。茶壷「橋立」の保管を依頼する手紙。1591(天正19)年2月5日の手紙で、利休はこの8日後に蟄居を命じられ、28日後に切腹している。利休の使いの者が受け取りに行っても、はん(判子のことか?)がなければ渡すな、みたいなことが書いてある。添えられた歌は次のとおり。
よこ雲の かすミわたれる むらさきの ふミととろかす あまのはしたて

声のでっかい女性2人は相当な美術好きなのか、展示室1の作品をじーっくりと見ていた。予想通り声が気になったが、さすがにロッカー室よりはヴォリュームは小さかった。
次は近くの静嘉堂文庫に国宝の曜変天目を見にいこうと思っていたのだけど、館内のポスターを見ると根津美術館で相棒の好きな中世説話がメインの展覧会があることを知り、また国宝の『那智瀧図』が出ていることもあって、予定を変更して表参道へ行くことにした。
『破袋』の絵ハガキを買ってから、11:30に美術館を出た。


新春の国宝 那智瀧図 --仏教説話画の名品とともに--

上野毛駅近くの「季寄 武蔵屋」なる店でそばを食してからまた大井町線で二子玉川に戻り、新玉川線に乗り換えて表参道へ。
表参道を歩くのは何年ぶりだろう。プラダやら何やら、ヘッドセットを装着した店員が入り口で待ち構えているなんだか凄いブランドショップが並んでいる道を行く。前からこんなだったっけ?
根津美術館も久方ぶりだ。リニューアルしたのはテレビで見て知っていたが、入り口が変わって竹を並べた素敵なアプローチになっていた。

那智瀧図(国宝)
No.22。第2展示室がまるごと一部屋あてられ、絵の正面にソファが置いてあった。東博の国宝室のようだった。薄暗い中に滝が一本の白線が浮かび上がるさまは神々しい。単なる風景画ではなくて、御神体を描いた信仰の画と見るべきだろう。
天狗草紙絵巻(重文)
No.7。天狗たちの会議の場面がなんか笑っちゃう。天狗は京都の大寺の僧侶たちを皮肉った姿であり、無常を悟り修行をつんだ彼らは、最後には人間の姿で描かれるのだった。
高野大師行状図画
No.12。弘法大師空海の行跡を記した絵巻物なのであるが、『五筆和尚』がおもしろい。両手両足と口で5本の筆を使い、王羲之の書を5行同時に修復するという神業なのだが、この絵がおもしろすぎる。ほかにも、空海が説法を始めたらそのへんの神様たちがこぞってやってきて有り難がる話とか、もう、さすが、弘法大師なのである。
青銅器群
ここの青銅器コレクションは泉屋博古館についですばらしい。特に、『双羊尊』(重文)は大英博物館とココにしかないという代物で、美術館の入場券にもなっているほか、オリジナルグッズでも一押しとなっている。

五筆和尚がこの日一番の大ヒットだった。青銅器も相変わらず素晴らしく、濃厚な時間を過ごせた。新宿に場所を変えてぶらぶらしてから、前から行ってみたかった店「達 菊うら」で食事をして充実した一日を終えた。
(五島美術館と根津美術館・2013年2月9日観覧)

リヒテンシュタイン 華麗なる侯爵家の秘宝2012-12-02 09:30

もうここんとこ、美術展情報は『ぶらぶら美術・博物館』にすっかり頼り切っているわけで、これまた番組で知った展覧会。これでこの秋、3回連続でお世話になっている。
実はこの展覧会のことは前から知ってはいたのだけど、ほとんど行く気が起きなかったのだ。が、番組で宮殿風の「バロック・サロン」を見て、これなら行ってみる価値があるかな、と思ったのである。


乃木坂駅着は9:45。改札を出ると、目の前に臨時チケット売り場があったので、そこでチケットを購入。臨時売り場があるなんてどんだけ混んでんだよ、と一抹の不安が胸をよぎる。しかし特段人が多いということもなく、美術館の券売所もがらんとしていた。ちょっとほっとして屋内に入り、最初の角を曲がるとそれなりに行列ができていた。
開場は10時だが、その前から徐々に入場をさせていた。案内の係員は「入り口は混雑していますので、順次ご案内しています。空いているところからご覧ください」云々。で、入ってみると、すぐのところは人だかりも多いうえに、展示品もなんかぱっとしなくてスルー。そしてすぐ次の部屋が噂の「バロック・サロン」だった。

バロック・サロン
侯爵家の夏の離宮のまま、という展示コンセプトになっていて、数々の調度品と絵画が壁面に整然と並べられている。そして天井絵をちゃんと天井に飾るという、ありそうでなかった本邦初の展示法。天井絵はともかく、壁面は解説板もなしで(そのため入り口に解説パンフが置いてある)、展覧会というよりは、まるでヨーロッパのどっかの宮殿を観光しているような気にさせられる。そのためか、全体の雰囲気を楽しむ部屋という感じで、何を展示してあったかという記憶とか印象がとても曖昧だ。だがそれがいい。ちょっと今まで味わったことのない感動を覚えた。
人々が最初の部屋でまごついていて人が少ない時間帯に入れたので、それも好印象につながったのだと思う。天井絵を見るために双眼鏡を持っていったのだが、見たらなんか妙にうねうねと波打っていた。
徴税吏たち(クエンティン・マセイス)
No.021。この唇の具合がなんともいえずよい。
狩りの後で休息するディアナとニンフたち(ハンス・フォン・アーヘン)
No.023。そんな薄着でケモノを担いだら、たぶん肩とかが毛でチクチクして痛いんじゃないだろうかとか余計な心配をしたのだった。
クララ・セレーナ・ルーベンスの肖像(ペーテル・パウル・ルーベンス)
No.038。チケットや看板にもあしらわれている展覧会の顔。一等地にソロで展示されていて、スポットもいい感じだった。
占いの結果を問うデキウス・ムス(ルーベンス)
No.042。いかにもルーベンスなドラマチックな大作。自分はルーベンスはあまり好きでないのだが(「フランダースの犬」のせいだ)、これは純粋にイイと思ってしまった。
銀装飾の水晶のゴブレット
No.072。水晶のゴブレットって・・・凄すぎる。
豪華なジョッキ(マティアス・ラウフミラー)
No.078。象牙のジョッキって・・・凄すぎる。
蔦のような細工のくるくる感がすばらしい。三脚の意匠は牙をむいた怪魚で、仏像の四天王に踏まれている邪鬼とか、ブリューゲルの絵画に描かれる怪物を思い起こさせる。
貴石象嵌のチェスト
No.076。大理石だかなんだか、とにかく様々な貴石を象嵌した櫃。象嵌じたいは日本にも螺鈿とかがあるし、ふうん、西洋にもそんな細工があるのか、くらいに思って通りすぎようとしたら、凄かった。嵌め込まれた石の模様がうまく絵柄に活かされていて、絵心満点なのだ。たとえば茶色と白のマーブルは岩山の部分に使われていたりとか。
男の肖像(フランス・ハルス)
No.056。どことなく、そこはかとなく、なんとなく笑顔の男の肖像。歯を出して笑っているわけではないのに、そんな微妙なニュアンスが表現されているのが凄い。
虹の女神イリスとしてのカロリーネ・リヒテンシュタイン侯爵夫人(旧姓マンデルシャイト女伯)(エリザベート・ヴィジェ=ルブラン)
No.064。美しい侯爵夫人が宙に舞い上がる。しかし、裸足であることでクレームがついたとかいう情報は、「ぶらぶら美術・博物館」で知ったものだ。昔は絵のすぐ下に靴を揃えて置いて展示していたとか。ここでもそうしてくれたら面白かったのに。
幼き日のオーストリア皇帝フランツ・ヨーゼフ1世、おもちゃの兵隊を従えた歩兵としての肖像(フェルディナント・ゲオルク・ヴァルトミュラー)
No.065。これはヨーゼフ1世がおもちゃのようだ。
復讐の誓い(フランチェスコ・アイエツ)
No.069。このヴェルヴェット感がたまらない。
夢に浸って(フリードリヒ・フォン・アメリング)
No.066。この黒レース感がたまらない。

意外にあっさりと見終わったので、もう一度最初から見た。なんだかんだと楽しめた1時間半だった。
「ぶらぶら美術・博物館」を見ていてブリューゲルの絵が映っていたので期待していたら、全部模作だった。だから番組でもスルーしたのだろうか。決定的な目玉作品がないので、何を見に行ったかという印象がちっと薄いのが残念といえば残念。でも全体的に質の高いよい展覧会だった。

絵ハガキを数枚買った。象牙のジョッキのものがなかったのが残念。また貴石象嵌のチェストも全体写しだった。これは部分アップならよかったのに。
あと「リヒテンシュタイン物語」のマンガを買った。これはあの「ベルばら」の池田理代子がこの展覧会のために描き下ろしたものだ。自分の場合リヒテンシュタインといえば、切手と、以前NHKスペシャルで見たヒトラーの美術品破壊命令から侯爵家の美術品を救い出す話の印象ぐらいしかないのだが、このマンガはその物語なのである。マンガだけでなく、侯爵家の歴史や展覧会出品作品の写真もあったりするので、図録よりよっぽど面白いと思って買ったのだ。もちろん、ベルばらテイスト満開の絵柄も味わい深い。

昼食は定番のポール・ボキューズでとり、六本木ヒルズやミッドタウンで買い物をして帰った。
(国立新美術館・2012年11月24日観覧)

ポール・デルヴォー 夢をめぐる旅2012-11-13 23:30

もうここんとこ、美術展情報は『ぶらぶら美術・博物館』にすっかり頼り切っているわけで、これまた番組で知った展覧会。
自分はシュールレアリスム絵画が好きなのだが、そのなかでもデルヴォーはマグリットと並んで好きな画家だ。その展覧会というのだから見に行かなくてはならない。とか言いつつ、デルヴォー展を見るのは1990年の横浜美術館以来だったり。10年前にも回顧展があったというが記憶にない。


京王線は井の頭線と高尾山くらいしか使ったことがなくて、本線沿線なんて未知の領域だ。途中調布駅で乗り換えたが、システマチックなホーム構成には感心した。
美術館へは、東府中駅から歩くことにした。事前に地図をちゃんと調べておかなかったので道順が少し不安だったが、それは杞憂だった。駅前からすぐ、でかい看板だとか道標だとかペナントだとか、とにかくあらゆる手段を講じた道案内が、お前たちを絶対に目的地まで辿り着かせてやるぞ、といわんばかりに絶え間なく続いていたのだ。

ポール・デルヴォー展
美術館に着いたのは10:40くらいだった。
順路はだいたい時系列になっていて、最初の方は自分の作風が確立していなかったころの印象派的なものとかでまるで興味なしですっ飛ばした。

夜明け
No.24。入り口からすぐに、チラシやチケットにあしらわれている作品がある。横を向いた女性。動きがありつつも静謐だ。
訪問IV
No.23。(珍しく)赤い服の女性。TVでは目線があってないとか言われてたが、それより自分は家のドアが内開きなのが気になった。
会話
No.51。裸婦と骸骨の絵。壁に映る影は骸骨のシルエットだ。骸骨はデルヴォー作品によく登場するモチーフ。
行列
No.55。おんなじよーな顔した無表情の女たちがなんだか知らないが大勢で丘を歩いていて、傍らに路面電車が走っている。ひっっじょうにデルヴォー的だ。
トンネル
No.30。横は2.5mくらいありそうな大作。トンネルと駅の風景で、左上の階段にたくさんの人がいる。鏡の中の少女が人形みたいでちょっと怖い。
夜の使者
No.41。今展で一番気に入った作品。遠く海までのびる広い道は、函館あたりの坂道を思わせる。透視図法なのに、平衡感がハチャメチャなのがデルヴォーらしくてイイ。
エペソスの集いII
No.40。エペソスは古代ギリシャの植民地とか。夜、神殿、4人の女。そのうち一人は横たわっている。ソファに横たわった裸婦というのもよく登場するモチーフだが、いつも目をぱっちりと開いている人ばかりな気がする。

上記はいずれも油絵で、これらの作品はいずれもデルヴォーらしくてよかった。他の作品はだいたいはペンなどによる習作だった。最晩年、目が悪くなってからの作品もあったが、もうそうなると見るに耐えない感じだった。そういえば、デルヴォー作品ではお馴染みのリーデンブロック教授が登場する絵がほとんどなかった。

作品数がそう多くないので鑑賞に時間はかからなかった。会場の作りのせいで動線が交錯しているのがちょっとイマイチだったが、もちろんそれは作品の質を貶めるものではない。それよりも、公立の小さな美術館の独自企画展ということで客も多くはなく(宣伝費も限られているのだろう)、またそれらの客もほんとうに美術が好きな人たちに違いなく、そのため都心の大美術展にありがちなざわざわした感じもなくて、静かに落ち着いて鑑賞できたのがよかった。

デルヴォーのあとで常設展を見たが、見るべきものはなかった。しかしそのあとに見た牛島憲之はよかった。メキシコ・ルネサンスのリヴェラのような不安げなトーンと、独特の無機的なデフォルメに感心した。「かま場」なんか素晴らしい。好みだ。

よかったものは全て絵ハガキになっていたので買い込んだ。もちろん、牛島憲之のも買った。この日の収穫は、正直言ってデルヴォーよりも牛島の方だった。

会場を出たのは昼ちょっと過ぎで、東府中駅までの途中で見かけた「アキチ」という店でランチを食べた。醤油ベースなのに洋風の味付けのサワラは、身が厚くておいしかった。でたらめに入った店が美味いとなんだか凄くトクした気分になる。もっと近くにあれば贔屓にしたいところだが、府中なんてこの先また行くことがあるかどうか。そのあとは新宿に出て買い物をしてから帰った。
(府中市美術館・2012年11月3日観覧)

お伽草子 この国は物語にあふれている2012-11-11 23:25

もうここんとこ、美術展情報は『ぶらぶら美術・博物館』にすっかり頼り切っているわけで、これも番組で知った展覧会。


ちょっと寝坊したりして、ミッドタウンに着いたのは10時半近くになっていた。凄いギョーレツだったらどうしよう、と思ったが、やはりテーマが一般受けしにくいのだろうか、会場へ向かうエレベータもチケット売り場も閑散としていた。
しかし入り口に看板が出ており、見ると「10:30から11:10まで団体の入場があります」とのこと。係員に聞くと、中学生の見学が入っているという。え゛ーそりゃ運が悪い、と思ったら彼等は静かで逆に驚いた。周りがあまりにも静かすぎて釣られたのか、それとも元々が品行方正な子たちなのか。つうか、他のジジババの方がよっぽどうるさくて、結局 iPod で耳栓をするはめとなった。

ひょっとして、物語の筋が分からず音声ガイドのお世話になるのでは、とも思ったが、TV での予習の甲斐もあり、まあ理解はできた。

大江山絵詞(重文)
No.8。酒呑童子の話なわけだが、周りの会話を聞くとはなしに聞いていると、「あ、この『しゅてんどうじ』って方が鬼なんだあ」とか言う人が結構多かった。こういう展覧会に来るくらいだから数寄者なのかと思ったら、意外にそうでもないような。
掃墨はいずみ物語絵巻(重文)
No.4。ある女が、白粉と眉墨を間違えて化粧しちゃって、そのことにあとで気がついてビックリ。(白粉と眉墨なんて間違えないでしょ、フツー。とかいうツッコミをしてはいけない。)と、まあここまではともかく、次はそれがきっかけでなんと出家しちゃって、今度は我々がビックリ。化粧に失敗して出家とか、現代に生きる我々にはちょっとピンと来ない。
娘の黒い顔にビックリしているシーンの、母親の顔がなんともユーモラスなのがよかった。これにしたって、娘が鬼に食べられたと勘違いしたってんだから、面白すぎる。色が黒いだけでどう見てもアンタの娘でしょ、とかいうツッコミをしてはいけない。
福富草紙(重文)
No.5。福富の放屁芸を羨んだ隣人の物語。羨んで福富に芸を教わった隣人が、この薬を飲むようにと言われて臨んだが、それはなんと下剤で、晴れの舞台で実を出してしまった隣人は散々な目に遭い、それを恨んだ隣人の妻が福富に復讐するというのが大筋。
別系統の本では騙される方の人物名が福富となっていて、その2系統が並んで展示されているのでちょっと混乱した。
鶴の草紙
No.18。鶴の恩返しの元ネタなのだろうか。鶴を助けた心優しき主人公はその後結婚。それを羨んだ地頭に「わざはひ」という獣を連れてこいと無理難題を仰せつかり、困って妻に相談すると、妻の実家の援助で「わざはひ」を入手。「わざはひ」は地頭邸でさんざん暴れ、困った地頭は主人公に褒美を与えた。実は妻はかつて助けたあの鶴で、身の上を明かして東の空に飛び去って行った・・・
「わざはひ」って名前見りゃどうなるかわかるでしょ、とか、せっかくうまくいったんだから夫婦でそのまま暮らしてりゃいいじゃん、とかいうツッコミをしてはいけないのだろう。鶴の恩返しは「見るなよ、見るなよ」というフリに応じて見るなという言いつけを破って姿を見てしまったために鶴の妻は去っていくのだが、これは別に禁を破ったりしたわけじゃないのに逃げられちゃうのがチト悲しい。
鼠草子絵巻・鼠の草子
No.41・74。いつだか思い出せないが、前に東博で見たことがある絵巻。ただ東博のものとは別の様々な伝本があるようだ。この日の展示巻は主人公の鼠の名前が『そほん』となっていた。会場の解説や東博でも見た『こんのかみ』とは違う。あれ、でもこの日展示されていたのは東博本だ。
物語は、清水寺の導きで人間の姫様と結婚した鼠が、鼠であることがバレて姫に逃げられ悲しみ、(これもまたまた)出家するという話。
どう見ても顔が鼠じゃん気付くでしょ、とかいうツッコミをしてはいけない。東博で見たやつなんかは、従者も『ちゅう太郎』な感じの名前だった気が。
雀の発心草子絵巻
No.72。出家シーンが展示されていた。雀の剃髪なんて、そうそうお目にかかれるもんじゃない。
付喪神絵巻
No.77と78。掃除で捨てられた古道具類が、化けて人間に恨みを晴らそうとするも、護法童子に降伏させられ反省して(これまた)出家するという話。No.78の数珠の一連上人が最高のキャラ。これを絵ハガキとかフィギュアにしてほしかった。

ほかに『地蔵堂草紙絵巻』(やらかしちゃった僧の話)や『小おとこのそうし』、『藤袋草子絵巻』なんかも面白かった。
詞書を読んでやろうと思ったが、大江山縁起だけで疲れてしまった。こういう展覧会だから、読み下し文が作品の近くに書いてあるといいのになあと思った。酒呑童子の手足の色とかちゃんと書いてあるのに、知らずに通り過ぎた人がほとんどだろう。鼠草子だって、猫僧正に出くわしてパニクってすっころんだ、という場面だったが、絵だけ見てると、あまりにユーモラスなんで、道で普通にすれ違ったように見えちゃう。もしかしたら音声ガイドで解説してるのか? ま、いずれにしても「なんて書いてあるかわかんないね」なんて言いながら見ている人は少なくなかった。

会場を出たのは12時ちょっと前くらいだった。絵ハガキを数点と、図録を買った。絵ハガキは、展示替えで実物は見てないけど「雀の小藤太絵巻」のも買った。清水寺の前で、橋にたたずむ雀のなんとも侘びた風情がイイ。

地下の DEAN & DELUCA で昼食をとり、ワインなど買い物をしてから新宿に出て、夕食を食べて帰った。新宿での夕食は実に10ン年ぶりだった。
(サントリー美術館・2012年10月27日観覧)

東洋絵画の精華 ―名品でたどる美の軌跡―2012-04-30 23:12

静嘉堂文庫が所蔵する平治物語絵巻「信西巻」が公開されている。東博で開催中のボストン美術館展とタイアップしていて、東博展のチケット半券で、入館料も割引となる。この信西巻を見て、現存3巻がようやくコンプとなるのだ。これはもう、見ないわけにはいかないのだ。


二子玉川駅からバスに乗り、静嘉堂文庫バス停で降りた。バス通りは車も多かったが、静嘉堂文庫の敷地に入るととたんに静かになった。
静嘉堂文庫
美術館に着いたのは開館時間の10時をだいぶ過ぎた頃だった。美術館は静嘉堂文庫本館の斜向かいにある。本館は関東大震災直後の1924年に建てられたものだが、美術館は1992年とまだ新しい。

受付で入館料を支払い展示室に入ろうとすると、いきなり目の前にお目当ての平治物語絵巻信西巻があった。人は少なくてかぶり付きで見られた。期間中に2回の巻替えがあり、この日は中間の第二段から第三段が展示されていた。場面は、信西が自害するところから、遺体を掘り起こされて首実検にかけられるまでだ。
この信西巻は重文指定だが、精緻な筆致はボストンの三条殿夜討巻や東博の六波羅行幸巻(国宝)に通ずるものだ。三条殿・六波羅行幸と違うのは山野の景色が多いことだろう。

信西巻をじっくりと鑑賞してから改めて展示室に入ると、重文絵画が目白押しだった。平治物語だけが目的だったのだが、この高品質にはいい意味で予想を裏切られて嬉しかった。仏画では、鎌倉時代の普賢菩薩像が良かった。細かくて繊細な小品だ。
住吉物語絵巻駒競行幸絵巻の2つの絵巻物が展示されていたが、これらを見ると、平治物語絵巻の質の高さがよくわかる。
あと、展覧会の本題は『東洋絵画の精華』なのに、特別出品とかで国宝倭漢朗詠抄太田切が展示してあった。

1周まわったあとでまた信西巻を見た。今度は詞書もじっくり読んだ。そうこうしていると段々と人が増えてきて、11時過ぎには横4mほどの展示ケースの前は人でいっぱいになった。

帰りは二子玉川駅まで歩いて行った。野川沿いは菜の花がとてもきれいだった。
野川
駅に着くとちょうど昼だったので、高島屋の9階にある『金澤の寿司 華爛』という店で昼食をとった。ほたるいかと穴子が出色だった。ほたるいかをこんなに旨いと思ったのは初めてだ。酒は菊姫の『先一杯』というのを勧められるままにいただいたが、これがどんぴしゃだった。旨味があって、軽やかで、昼に飲むにはいい。調子に乗ってそのあと能登飲み比べセット(遊穂・池月・千枚田)とかを飲んだら、すっかりできあがってしまった。
(静嘉堂文庫美術館・2012年4月30日観覧)

特別展 ボストン美術館 日本美術の至宝2012-04-23 22:00


「ボストン美術館展」って、なんか前にも行ったことあるなあと思っていたら、西洋画の展覧会だったり、浮世絵の展覧会だったりしたのだった。名古屋にはボストン美術館の分館があって(今回の展覧会も巡回するらしい)、旅行途中に北宋徽宗皇帝の『五色鸚鵡図』を見に寄ったこともあった。
そんなボストン美術館が『日本美術の至宝』っていうんだけど、どんなもんなんだろう。


門前到着は9:20。このテの有名展覧会は混雑しがちで、そうなると時間前に門内に客を入れて中庭で待たせることもあるが、この日はそこまでひどくなかった。まだ会期の前半だからなのかもしれない。
事前のリサーチでは、展示室が混雑すると絵巻物が見にくくなるというので、まずは速攻で2つの絵巻を見に行った。

吉備大臣入唐絵巻
No.26。全4巻を全場面展開しているといのが今展の売り物のひとつだ。そこはかとなくユーモラスな絵。鼻を押さえながらウンコを調べる場面なんかがあったり。傾斜が80度くらいある階段が笑える。こんなの絶対上れない。
大雑把なストーリーが壁面に掲示されているのだが、どこかで聞いたことある話だなと思ったら、12年前の日本国宝展に第3巻が出品されていたのを見たのだった。そういやそのときも、柱の影から唐の役人の様子を窺う吉備真備と阿部仲麻呂の鬼が面白すぎて笑ったのを思い出した。
平治物語絵巻 三条殿夜討巻
No.27。吉備大臣に対して、この平治物語は精緻で見事だ。炎の表現だとか、馬や牛車の疾走感だとかが一々素晴らしい。炎は、赤い絵の具だけでなく黒も散らしてあるのがリアルだ。首を切っている兵士や、縁の下まで覗いて捜索する兵士など、細かい描写に目が釘付けになった。それらの人物の顔は、ヒゲまで細かく描かれていた。
巻物全体の統一的な流れるような動きは、全場面を展開しているからこそ感じとれるのだろう。展覧会でこれだけ感動したのは久しぶりだ。見に行った甲斐があった。

平治物語を食い入るように見ていると、後ろから「会場内混雑してまいりましたので先頭の方は止まらずに少しずつお進みください」と係員の声。ふと気づくと自分の右にすんごい列ができていた。知らず知らずのうちに渋滞を引き起こしていたらしい。まだ9:55でこの人だかりは凄い。おそらくもうこれより後の時間は、立ち止まっての絵巻鑑賞は不可能だろう。

法華堂根本曼荼羅図
No.5。東大寺法華堂とはつまり三月堂のことだが、そこからの伝来品なんだとか。8世紀の曼荼羅図は稀少なんだとか。状態がよい。
四天王像 重命筆
No.16。天理の石上神宮の近くにあるあの内山永久寺の障壁画。劣化具合がかえって厳かな感じでいい。自分はあまり仏画では感心しないのだが、これは顔がとてもよかった。
十一面観音菩薩来迎図
No.17。優美な小品。よぅく見ると装飾は切金っぽい。
太刀 銘 備州長船住兼光
No.79。刀剣類はあまりぱっとしない直刃系のものばかりだった。その中で、これだけが美しい互の目模様だった。刀はバリエーションがないと飽きてしまう。刀剣と仏像は、このあとで寄った本館常設展の方がはるかにおもしろかった。
松島図屏風 尾形光琳筆
No.55。根津の国宝『燕子花図』に通じるような、超デフォルメの非常にデザイン的な絵画。
雲龍図 曽我蕭白筆
No.62。呼び物のひとつ。事前に関連テレビ番組をいくつか見たら、ショーハクが凄いショーハクが凄いの連呼でなんかもううんざりしちゃって生来アマノジャクな自分はショーハクが嫌いになりかけていたのだが、これは大きくてさすがに見応えがあった。でもやっぱりマンガ的すぎて好かない。マンガ的と言えば、『鷹図』の鷹の脚も超マンガだった。
近世で1コーナー設けるんだったら、蕭白なんかよりも浮世絵の方がよかったのに、と思った。

全部見終わってからもう2周した。第1室の絵画と、その次の絵巻はとにかく混んでいた。そこいくと、後半の屏風絵なんかはモノが大きいせいもあるのか、客も適度にばらけていた。
お土産コーナーでは吉備大臣と平治物語の絵葉書を買った。図柄は、吉備は冒頭の楼閣に閉じ込められる部分、平治は牛車が押し合いへし合いしている部分で、平治はともかく、吉備は場面選定がイケてない。
さらに、ミニチュアアートのガチャガチャを3回もやってしまった。1回300円もする。出てきたのは、平治物語絵巻と、等伯の龍虎図と、光琳の松島図だった。こちらの平治は、絵葉書と違ってちゃんと御殿炎上の部分がフィーチャーされていた。


平成館を出たのは11時すぎだった。このあと常設展を見たいが、見終わると昼になってレストランが混んでしまう。そこでちょっと早いが先に昼食をとることにした。東洋館の「ゆりの木」に行った。
ボストン展とタイアップした限定特別メニューの穴子丼とフォアグラ丼を注文し、ボストンビールセットでちびちびやった。料理を待つ間に先ほどのガチャガチャのミニチュアアートを開けてみると、あんまりな品質に泣きたくなった。これを3つも買ってしまったオレは・・・
ボストンビールセット 穴子丼 フォアグラ丼
穴子丼というと、甘くてべちゃべちゃのタレが天ぷらを台無しにしたりする店があるが、これはほのかに甘いくらいで良かった。もうちょっと油切れがよいともっと旨かっただろう。フォアグラ丼のフォアグラは西京漬になっていて、これがよく合う。まわりにはソテーしたズッキーニなどの西洋野菜が添えられていて彩りもよかった。
限定に釣られて注文したが、どっちの料理も結構重くて、食べ終わったら眠くなってしまった。

食後に本館へ向かった。
2階の国宝室には、東博が所蔵している平治物語絵巻『六波羅行幸巻』がボストン展に合わせて出品されている。ボストンの三条殿夜討を見た後では、そもそもそんなに激しいシーンじゃないということもあるのだけど、ちょっと迫力に欠ける。また絵の状態もボストンの方が良さそうに思えた。それでも精密な人物描写はなかなか良い。
六波羅行幸巻
いつもは特別展の会期中でも国宝室なんてがらがらなのに、これはボストン展のついでに寄る人が多いのだろう、なかなかの行列ができていた。

本館をぐるりとまわったあと、今度は1回400円もする東博公式考古学ミニチュアのガチャガチャをついやってしまった。『踊る埴輪』が欲しかったが、出てきたのは『人面付壺形土器』だった。製作はあの海洋堂で、ボストン展のしょぼいミニチュアと違って質感も良く、手にとると重量感がある。同じ Made in China なのに、この違いはなんなんだろう。100円だけの差なら、こっちの方が断然イイ。
あとは法隆寺館へ寄って、仏像の写真を撮りまくってから、博物館を後にした。
おみやげ
(東京国立博物館・2012年4月21日観覧)

NHK大河ドラマ50年 特別展『平清盛』2012-01-24 00:20

「平家納経」がやってくるというので、雨予報の土曜日、江戸東京博物館へ出かけた。


前日には東京・横浜が初雪を記録し、この日もその余波でむちゃくちゃ寒かった。両国駅に着いた頃、ちょっとの間だけ、雨は雪に変わったりした。会場には10分前の9:20に着いた。江戸東京博物館はロビーが広くて、早く着いてもゆったりと待てるのはいいところだ。
まだ朝早いせいか、はたまたこの寒さと悪天のせいか、それとも王子駅付近の火災で京浜東北線が止まっているせいか、なんだかわからないがとにかく空いていた。

それでも会場入口周辺は例によって人が多かったので、とにかく奥へと突き進んだ。なにしろ、この展覧会では、平家納経にしか興味がないのだ。

平家納経 清盛願文
No.103。他の巻の見返し絵とちょっと趣きが違うと思ったら、これは俵屋宗達の修復によるものなんだとか。結構な違和感を覚えるけど、料紙はやっぱりきれいだ。
平家納経 法華経信解品第四
No.106。見返し絵は蓮の花。見返しは全体に銀で、本文部分の料紙が金がかっている。美しい。
平家納経 法華経法師功徳品第十九
No.112。展示品の上に拡大写真があるのだが、それでようやく見返し絵に仏が描かれているのがわかった。金がふんだんに使われていて豪華だ。
平家納経 法華経陀羅尼品第二十六
No.115。発装金具のこまっかい細工が凄い。本紙部分にも金ででっかく朝日だか夕日だかが描いてある。今回出品されている3巻の中では一番素晴らしいと思った。
古神宝類 檜扇
No.140。うっすい檜の皮でできた扇。すげーなあと思って単眼鏡でしげしげと見ていたら、小さい人物にもちゃんと目が描いてあるのがわかった。梅かなんかのような花のニュアンスがリアルだ。
そのへんに置いてあった図録を見たら、どうやらこの扇は何種類かあるらしく、巡回展の他の会場では他のが出品されそうな感じだった。
法華経(久能寺経)(鉄舟寺蔵)
No.169。平家納経と同様・同時代の装飾経で、こちらは鳥羽院を中心とした宮廷の人々によるもの。金泥の草が、何とも言えない優美さだった。意外な良品に出会えて嬉しかった。

他の展示物はほとんど見ないで、平家納経だけを見て過ごした。1時間くらいするとだんだん混んできたので退散することにした。
江戸東京博物館は何度か来ているが、ここはいつも東京見物の団体客が多くて、フツーの美術展とはまったく雰囲気が違う。うるさいし、タバコ臭かったり酒臭かったりするし、なにしろ団体客は美術になんか関心ないのだ。そんなわけではっきり言って鑑賞環境は悪い。さらに今回はそれに加えて、歴史解説らしきイメージ映像が会場でエンドレスで流れていて、しかもそれが寄りによって平家納経コーナーだったので、もう最悪。カナル型イヤホンを耳の奥の方に突っ込んで音楽を聴き、それらの騒音をなんとか掻き消した。iPodからランダムで再生されたのはコルトレーンのバラードで、優しいサックスの響きが平家納経によくマッチした。
「平氏ニュース」とかなんとかいう、新聞体の解説なんかあったりするところからして、やはり美術品の展示館というよりはエンタメ系博物館のような施設なんだろう。まあそう思えば納得できなくもないんだけど、でもなにもこれほどの佳品をそんなへんてこなところで見せなくたっていいのに、とかいう気もしたのだった。だって、こんなんじゃ、落ち着いてじっくり味わえないじゃない。

気に入った陀羅尼品は絵葉書になかった。檜扇のはあったが恐ろしくセンスのない写真だった(扇子だけに)。しかたないので願文と法師功徳品の絵葉書を買って会場を出た。
腹が減ったので、最上階の7階にある桜茶寮という店に入って早めの昼食をとった。平清盛展とタイアップの広島産牡蠣めしはなかなかだったが、その前に飲んだごぼうビールがとてもよかった。ごぼうの香りがする不思議なビールは、飲むとその成分のせいかほんのりと甘みを感じる。
ごぼうビール
いい気分になって博物館を出て、新宿で買い物をしてから帰った。
(江戸東京博物館・2012年1月21日観覧)

茶人 畠山即翁の美の世界2011-12-01 00:17

茶碗のような焼物には前から興味はあったのだが、BSアニメ『へうげもの』を見始めてから茶道具全般に興味がわいてきた。畠山記念館に、関連番組の『へうげもの名品名席』で紹介された楽茶碗「早船」が出ているので、散歩がてら、見に行ってきた。


畠山記念館は、荏原製作所の創業者である畠山即翁が生前蒐集した日本美術を展示している。年に4回展示替えをしているようだ。この日は秋季展の期間だった。題して「茶人 畠山即翁の美の世界」。
最寄り駅は都営地下鉄の高輪台だが、五反田駅から歩いて行った。駅前の広い坂は相生坂といい、この下を地下鉄が通っている。歩きやすかったが、元々は急峻な坂道だったそうな。高輪台駅から先はちょっと道が分かりにくかったが、ある程度目星をつけておけば、あとは電信柱に付いている案内が頼りになるだろう。
入館はスリッパ履き替えなので、脱ぎにくい靴を履いていくとほんのちょっと面倒かもしれない。
畠山記念館

赤楽茶碗 銘「早船」
実物は、『名品名席』で見るより美しい。思っていたより小ぶりだった。なんと言っても山にかかる稲妻がよい。この補修の跡があるとないとでは大違いだろう。この茶碗を蒲生氏郷と細川忠興が争って求めたという話だが、その時代にはこの稲妻はあっただろうか。
利休直筆の添え書きも展示されていた。「古織」の字も見える。『名品名席』では氏郷と忠興の争いで、織部は関係なさそうな感じだったが・・・ 帰宅後、ネットの海をさまよってみると、興味深い論文があった。宮本武蔵に関する研究だが、添え書きの画像があるうえ、書き下し文に現代語訳まである。これを見ると、『名品名席』の解説は言葉足らずであることがわかる。まあ、放送時間も短いし、しょうがないとは思うけど。
伊賀花入 銘「からたち」
重文。パンフレットの表にあしらわれるなど、美術館の一推しアイテム。この花入は加賀では有名なものだったらしく、即翁に買われると加賀を離れることになるので批判を浴びたとか。それを即翁が金沢出身だからO.K.という強引な理由で決着。いざ移送という日も、金沢駅に見送りの人が詰め掛け、上野では畠山家の人が正装で「お出迎え」したとか。とかくエピソードには欠かない。
古瀬戸肩衝茶入 銘「円乗坊」
本能寺の変をくぐり抜けた名器とな。なんとも言えない美しい形だ。

記念館を出てから品川方面へ散歩。『タモリのTOKYO坂道美学入門』で知った高輪消防署二本榎分署が見えてきた。
消防署全景
レトロでいい。しげしげと眺めていると、入口の張り紙の下の方に「見学希望者は受付に・・・」の文字が。えっ、中を見せてくれるの。恐る恐る入るとすぐ受付があった。受付氏はすでに我々を察知していたらしく、「見学ですよね」と向こうから声をかけてもらえた。

内部見学は署員の案内つき。現役の公署でもあるし、へたなところに入られたり、怪我でもされたりするとマズイのだろう。しかも記念絵ハガキ付きである。それでももちろん、タダなのだ。
2階の踊り場を眺めてから3階へ。階段の手すりのシックながらも冷徹な印象の素材は、赤大理石とコンクリを混ぜ合わせたもので、それをピカピカに磨き出したものとのこと。円筒型の3階はかつての講堂で、現在はささやかな資料室となっており、古い消防用具などが置いてあった。それからバルコニーに出て望楼を見上げた。いい雰囲気だ。完成した頃は周囲に高い建物はなく、東京湾まで見渡せたとか。
手すり 3階の中 望楼
最後は駐車場に降りて、消防署のイメージのあのすべり棒を見たり、停めてある消防車両を見たり。東京消防庁にも9台しかないというキッチン車両は中も見せてもらえた。なかなかない、よい体験だった。
すべり棒

桂坂を下りたあと、特に行くあてもないので、今度は高輪プリンスまでまた坂を登って旧宮家の邸宅だった貴賓館を眺めてからラウンジでケーキを食べたりしてのんびりしたあと、品川駅へ。途中ウィング高輪に秋田県のアンテナショップがあったので寄ってみると、「アンテナショップスイーツNo.1決定戦 ASS-1グランプリ」で1位をとったという「まち子姉さんのごま餅」なるものがあったので買って帰った。
貴賓館
(畠山記念館・2011年11月26日観覧)

法然と親鸞 ゆかりの名宝2011-11-07 00:05

展覧会看板
早来迎が来るというので早割チケットを購入しておいた。早来迎は11月13日までの展示なので、いなくなってしまう前に見に行った。
早来迎の入れ替わりは山越阿弥陀だが、これは以前見たことがある。早来迎じたいも京博でたまに展示されることがあるらしいが、自分は未見だ。


開場10分前の9:20頃に会場に着いた。列は100人程度で大したことはなかった。e-チケットもちゃんと印刷してきたので、バーコード読み取りもスムーズだった。
それでも第1会場の入口は列ができていた。展示リストを見ると第4章に早来迎があるらしいので、第2会場から入ることにした。こちらは人がほとんどいなかった。この日は順番どおりにまわる人ばかりだったようだ。うっしゃ、ラッキー。

阿弥陀三尊坐像(浄光明寺)
No.149。脇侍の顔がよい。本尊には土紋装飾が施されている。土紋装飾とは、花などの模様を型抜きした粘土を貼り付けた装飾法で、鎌倉独特なんだとか。仏像好きを自認していた自分だったが、初めて知ったのだった。まったく修行が足りぬ。
当麻曼荼羅縁起(光明寺)
No.144。中将姫の物語。前期展示は前半部分だ。蓮の糸を染める場面までなのだが、巻物は以外に短かった。
本願寺本三十六人家集(素性集)(西本願寺)
No.186。字や料紙が美しいのはもちろんだが、保存の良さにも驚いた。写真集なんかを見ると、素性集の料紙がどうも一番地味っぽい気がした。一番きらびやかなのは重之集だろうか。
阿弥陀二十五菩薩来迎図(早来迎)(知恩院)
No.157。これはよい。展示がちょっと暗めなので、明るいレンズの単眼鏡でのぞくと素晴らしかった。阿弥陀如来の截金風の模様も素晴らしいが、自分が感心したのは周囲の菩薩だ。ほっそい糸にビーズが連なっているアクセサリーといい、透明感のある羽衣といい、得も言われぬ美しさだ。
余談だが、自分は「早来迎」という愛称(?)を、まだ死んでいないうちから早く迎えに来るからそう言うのかと思っていたのだが、解説板によると、左上から右下へと流れるような構図が生み出すスピード感が由来だというようなことが書いてあった。

で、第2会場を出て、第1会場からまわりなおした。第1会場の方は典籍や絵が中心。

観無量寿経註(西本願寺)
No.29。修行中の親鸞のおっそろしく細かい書き込み。
西方指南抄(専修寺)
No.36。84歳の親鸞のおっそろしくクセのある字で書かれた、法然の言行録である。

結局第1会場は流し見して、ふたたび第2会場へ。じっくり見てから平成館を出た。東博の特別展にしては空いていて、気持ちよく鑑賞できた。早来迎の絵ハガキを買おうと思ったが、印刷があんまりにもあんまりだったので止めた。図録はそもそも買う気がなかったので、今回はお土産なしという結果になった。
あとは法隆寺館、本館とまわった。法隆寺館は大好きなお面の部屋は閉まっていたが、聖徳太子絵伝が出ていた。これは随分久しぶりな気がする。本館には、毎週観ているBSアニメ『へうげもの』の主人公・古田織部の作品などがあった。茶杓はテレビのまんまだし、無礼極まりない(らしい)手紙なんかは、あの番組のあの古織様のイメージにぴったりだと思った。長次郎の茶碗なんかも面白い。どうもあの番組(と、合わせて放送される『へうげもの名品名席』)を見始めてから、自分は茶道具の見方が変わった気がする。
裏の庭園の公開時期だったが、もちろん紅葉はまだまだで、鳥もカラスとカルガモしかいなくて特に収穫なし。

最近は昼食は博物館内で済ませることが多かったので、今回はちょっと考えて、上野名物の豚カツを食べに行くことにした。御三家のうち博物館に一番近い双葉は行列ができていたので、次に蓬莱屋に行ったら入れた。いやに黒い衣のカツを見たときは、これ失敗作だろ、と一瞬思ったが、ちゃんと柔らかくて旨かった。衣もサクサクだった。不思議だ。生ビールを2杯飲んだら気持ちよくなった。
ヒレカツ定食
(東京国立博物館・2011年11月5日観覧)

空海と密教美術展2011-09-05 23:39

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西洋美術のピカソや印象派と同様に、空海関連の展覧会は食傷気味だ。企画を知ったとき「また空海かよ」と思った。しかし「国宝・重要文化財98.9%」を謳っているので、しかたなく早割チケットを購入しておいた。夏は山登りをするのでなかなか観に行けなかったが、9月に入ってようやく時間ができた。

正直言ってまったく期待していなくて、東寺の仏像を間近に見られるという一点だけが興味の元だった。なわけで、いつもは美術系のブログなどで情報収集してから出かけるのだが、今回はまったくそんなこともせず、PDFの作品目録も事前にダウンロードしたのだが、あまりの見難さに読みもせず。
電車の時間も調べずにテキトーに出かけたら上野駅に着いたのは9時半を少し過ぎたころだった。台風接近の最中という影響もあるのか、電車は結構すいていた。


電車もそうだが、博物館もさほど混んでいなかった。平成館の入場口も人は少なかった。今回はペアチケットの紙はファインモードで印刷してきたので、バーコード読み取りもスムーズだった。
どうやら聾瞽指帰やら風信帖やらが出ているらしいが、典籍は今更感がたっぷりで、優先順位は低い。第一会場の終わりの方に仏像があるっぽかったので、とりあえずそちらから入ってみた。

女神坐像(東寺)
No.50。神像にはあんまり興味がないのだが、その最古の遺例と言われると、印象も違ってくる。女神は2体あって、手の形とかが微妙に違う。今回はそのうち1体が出展されている。過去にも1体見たことがあるのだが、果たしてどっちがどっちだったやら。
薬師如来坐像(獅子窟寺)
No.88。今回見たなかで一番感銘を受けた。こんなにいい仏像があったなんて。今まで完全ノーチェックだった。
正面から見ると違和感を感じるのは、おそらく下から見上げるように造られているからだろうと思った。そこで、少しかがんで見てみると、実に慈悲深いいい顔になった。また、向かって斜め左から見ると、おっそろしく切れ長の眼が引き立って美しかった。唇から頬にかけては観心寺の如意輪観音と似ているというが、一緒に見た相棒は、吉本新喜劇の烏川耕一の唇に似ていると言っていた。
とにかく、この像を見たとき、この展覧会を見にきてよかったと思った。帰宅してから早速図鑑類を見てみたが、本物のあの雰囲気は感じられなかった。そういえば、お土産コーナーの絵はがきも、あの素晴らしさは微塵もなかった。きっと、カメラの前ではオーラを消し去る術を身につけているのだろう。
法界虚空蔵菩薩・蓮華虚空蔵菩薩坐像(観智院)
No.94,95。唐から将来したもの、らしい。他に居並ぶ像と顔がまったく違う不思議な雰囲気の像だ。
降三世明王立像(東寺)
No.61。明王よりも踏みつけられているシヴァ神とその妻に目がいった。シヴァの方は、明王の持った錫杖で頭をカッコンされている。
増長天立像(東寺)
No.66。これまた踏みつけられている邪鬼に目がいった。2体の邪鬼のうち、向かって右のやつは後ろ向きなので、このような360度から見回せる機会がないと見ることができない。で、この後ろ向きのやつの顔がもうとんでもなくブサイクなのだった。
帝釈天騎象像(東寺)
No.64。東博内の看板にも使われている。すげースカしているが、憎いほどのイケメン像だ。胸板が異様に厚いだけの梵天よりは、現代風でよっぽどいい男だと思うのだがどうだろう。
象の耳がおもしろい。きっと、象なんて見たこともない人が、絵とかを参考にして作ったからだろう。それでもそこそこのずっしり感があるのは、表現力があるからなのだろうか?
兜跋毘沙門天立像(東寺)
No.24。東寺の像の中でも好きなもののひとつだ。関根勤に似ていると思っている。服装の模様がかなり変わっている。これまた唐からの将来品らしい。

帰り際に第1章の部屋にも入ったが、人が多くてやはり典籍類はよく見られなかった。聾瞽指帰が1巻まるまる全部を展示してあったのには驚いた。
仏像の展示は、へんな立体曼荼羅がどうとかよりも、ライティングがよかったと思った。陰影もあまりくどくなく、双眼鏡で見ると立体感がいや増す。

法隆寺館のオークラで早めのランチを食べて、法隆寺館・本館をのんびり見てまわった。
法隆寺館のお面の部屋は開いていた。本館は2階の貴賓室が特別に開いていて、中を見ることができた。相変わらず刀のコレクションが良かった。ちょっと意外だったのは、数年前オークションで巨額で落札されて有名になった運慶作の大日如来像が展示してあったこと。どうやら東博に寄託されているようだ。
(東京国立博物館・2011年9月3日観覧)