KATZLIN'S blog

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死ぬまでに飲みたい30本のシャンパン(講談社+α新書)2008-10-09 00:38

ワインは好きでよく飲むが、シャンパンは高くてなかなか手が出せない。しかたないので、イタリアのスプマンテなどを楽しんでいた。スプマンテもシャンパン製法で作られたものは結構美味いのだが、でもやっぱり、シャンパンにはかなわないと思う。だからもうちょっと、シャンパンのことをちゃんと知っておきたいと思っていたところだった。
いったいシャンパンのどこが凄いのだろう。


まずシャンパンをめぐる最近の事情、次にメゾンの歴史や格付けの話などがきて、残りの1/3が本題の「死ぬまでに飲みたい30本」の紹介となっている。
レコルタン・マニピュラン(RM)という言葉も知ってはいたが、それがどうしてウリになるのかがいまいちピンときていなかったが、この本を読んでやっとわかったような気がした。近くのデパートの売り場にはこのRMがずらずら並んでいるので今度よく眺めてみよう。
ワインは飲み物なのだから、美味しく飲めればそれでいいという考えもあろうが、それが生み出された背景を知るとより一層深く味わえるようになると自分は思う。RMのこともそうだが、メゾンの歴史なんかも知ってみるとおもしろい。そのテの話は普段敬遠しがちなのだけど、興味深く読めた。
30本の紹介も、それぞれのメゾンの特徴が出ていて参考になった。

数えてみたら、30本のうち、意外にも10本くらいは飲んだことがあるものだった。でもこんなに深く味わいながら飲んだことなかったから、飲み直さないといけない。
それにしても、近所でリーデルのシャンパングラス(フルート型)の安売りを見つけて買ったばかりなのに、『脱フルートグラスのススメ』なのがちょっぴりショックだった・・・

(山本昭彦著・2008年)(2008年10月8日読了)

ムートン・ロスシルド ワインラベル原画展2008-03-24 21:30

パンフレット
ワイン好きにはたまらない企画展。年替わりでいろんな美術家がラベルを飾るムートンの、そのラベル原画が見られるという。そういえばラベルの原画って誰が持っているのかなんて考えもしなかった。全部ムートンが持ってたわけだ。ま、当然か。


日本ではドイツ語読みの「ロートシルト」の方が馴染み深く、「ロスシルド」という読み方は初めて聞いた。調べてみるとどうやらフランス語読みのようだが、フランス語では「ロッチルド」だとばかり思っていたので、どうも違和感がある。公式サイト Baron Philippe de Rothschild では当主のフィリピーヌの挨拶が聞けるが、「ロッチルド」とか「ロシルド」の方が近いような気がする。
で、会場内の写真パネルなんかには、思いっきり「ロートシルト」と書いてあったのが笑えた。

原画は、作者がすべて違ううえにサイズもまちまちなので、昆虫の標本箱に入れることで展示するうえでの統一感を演出している。
以下に、印象に残ったものを。なお、個々のラベルは公式サイトのほか、The Artist Labels でも見られる(英語サイト)。

1945: Philippe Jullian
フランス国旗と凱旋門をあしらった別バージョンが見られた。採用されたのは勝利のVマークのものだったが、この別バージョンもポップでよいと思う。
1952: Léonor Fini
この原画は思いっきりスケッチブックの切れ端だった。なんとなく、ルドンの連作版画にあるような顔に見えなくもない。
1958: Salvador Dali
え、これって羊だったのか・・・ たしかに、言われてみれば・・・ 別バージョンもあったが、他のものはちゃんと最初から羊に見える。
1959: Richard Lippold
幾何学的な構成が美しい。鉛筆による色指定が見えるのは原画ならでは。
1969: Joan Miró
いかにもミロっぽい1枚で好感を持ったが、日本語での作者名がいまどき「ホアン・ミロ」になっていたのがちょっぴり気になった。
1977: Tribute to the Queen Mother
この年にエリザベス王太后がシャトーに来訪したことを記念したラベルで、絵画ではなく、EとRの文字をあしらったエンブレムがついている。
注目すべきは箱の中に一緒に入れてある、来訪時の食事のメニューリストと思われる1枚のカード。今はシャトー・ダルマイヤックと名を変えた、ムートン・バロン・フィリップの絵柄のカードだ。食事3品にチーズ、デザートが供されたことが読み取れる。で、サーヴされたワインにおったまげた。Ch. Mouton Baron Phillipe 1960, Ch. Mouton Rothschild 1921(!!), Ch. Mouton Rothschild 1879(!!), Ch. d'Yquem 1916(!!)。
1985: Paul Delvaux
大好きなポール・デルヴォー。ぶどうと、お馴染みの瞳がでかい女性の図柄。ミステリアスで少しスリリングな雰囲気がたまらない。原画はさほど大きくないものだった。
1988: Keith Haring
ヘリングからムートンに宛てた手紙が標本箱の下地に直接書いてある。おそらく印刷なのだろうが、標本箱そのものが作品と言える。
1989: Georg Baselitz
タイトル「壁」で、逆さまになった羊が燃えているようなようす。世界史上に残るこの年の出来事、ベルリンの壁崩壊を表しているという。展示脇の説明の日本語は、主語が省略されまくっててわかりにくい。英語版と見比べてようやく理解するというお粗末。
1993: Balthus
幼児虐待が問題となっていたアメリカで輸入禁止となった、いわくつきの幼女のヌード画。作品保護ということで、ここだけ薄暗かった。
1994: Karel Appel
156×113cmで、展示中最大の作品だった。ちっさいラベルになるってわかってるくせに、なぜこんなに巨大に作ったのだろうか?
1996: Gu Gan(古干)
古干は中国人で、さまざまな字体の「心」字を5つ組み合わせたものなんだそうな。タイトル「heart to heart」ということで、5大陸の人々の心と心のつながりがテーマだとか。今まで単なる抽象画だと思っていたのだが、意味がわかっていちばんのお気に入りとなった。ワインも手に入れたいが、しかし1996なんてグレート・ヴィンテージはとてもじゃないけど・・・
2001: Robert Wilson
現当主のフィリピーヌの肖像をあしらったカラフルなデザイン。この年だけ、文字などラベル全体のデザインを画家が手がけている。そのため全体がポップでイイカンジ。

上に挙げたほかにも、ブラック、シャガール、カンディンスキー、ピカソ、ウォーホルなどのそうそうたるメンバーが名を連ねる。名前だけ見れば Bunkamura あたりでやってそうな20世紀美術の展覧会のように見えなくもない。が、作品はいずれも小品ばかりだし、美術的にも決してレベルが高いとは言えないと思う。絵そのものだけで考えると、美術展としては成立しないだろう。
しかしこれがワインのラベル画、それもムートンのものということで、美術展となりうるのだと思った。そういう意味ではこの展覧会は美術ファンというよりはワインファン向けなのだ。だからワインに興味のない人にはまったく不向きな展覧会だと思う。「ピカソやシャガールが見られる」と思って行ったりすると、肩透かしをくらうことになるのだ。

ひとつ非常に残念に思ったのは、展示脇の解説が、標本箱の中に貼ってあるフランス語解説の単なる翻訳だけだったこと。しかもこれ、公式サイト Baron Philippe de Rothschild でほとんど同じものが読める(さすがに日本語訳はないけれど)。
標本箱の中にはラベル原画以外にもスナップ写真やらが納められていたりするが、それがなんなのか、というのはそれぞれに付いているフランス語のキャプションだけが示している。前述の1977の食事メニューも、自分はたまたまワイン名に気付いたので注意深く見たが、たぶんほとんどの人はそれと知らずに通り過ぎてしまうに違いない。そういうところの解説が欲しいのだが、それがないのだ。
そういえば、美術の展覧会なら技法(「油彩」とか「グアッシュ」とか)が作品名に書き添えてあるのが普通だが、そういうのが見当たらなかった。あと、展示作品の目録もなかったと思う。
やはり、美術ファンではなくてワインファン向けの企画なのだろう。

そしてそして、なんと図録が税込み8,400円。こんな突拍子もない数字初めて見た。840円の間違いじゃないかと思ったが、どうやら本気のようだ。通常の美術展なら考えられない価格だが、もしかしたらムートンを飲みつけているようなセレブな方々には屁でもない値段なのかもしれない。モノも大したものじゃなくて、見開きの左頁に標本箱の写真、右には展示と同じ解説といういたって平凡な構成。装丁が豪華というわけでもなく、それどころか表紙なんか字しかない。
いっぽう、ラベルをあしらった絵はがきは157円だったので、自分はこちらを数枚購入した。

展示を観たあとはサルヴァトーレ・クォモでランチを楽しんだ。グラスワインには Jermann の Vinae があった。客にも外国人が結構いたりして、東京って凄いところだとあらためて思ったのだった。(森アーツセンターギャラリー・2008年3月21日観覧)

小布施めぐり2007-05-09 20:46

4月28日、小布施町の隣の信州高山村で桜めぐりハイキングをすることになったが、天気予報が雨になってしまったのでハイキングを一日延期してこの日を小布施観光にあてることにした。
お目当ては、北斎が描いた岩松院の天井絵「八方睨み鳳凰図」である。天井絵は常識的に考えて持ち出すことは不可能なので、現地に行かないと見られない。実は本題のハイキングよりもこっちのほうが楽しみなのである。


朝一番の新幹線あさまで長野へ。長野電鉄に乗り換えて小布施駅に降り立ったのは8:40ごろだった。午前中は曇りで午後から雨の予報だったが、もうすでに降っていて気分が萎える。
岩松院の拝観は朝9時に始まるので、今から歩いていけばちょうどいいだろう。観光地をつないだ循環バスもあるようだが、始発は9:57でまだ1時間以上先だ。駅に置いてあった「信州おぶせマップ」なる観光絵地図をゲットし、小降りになったのを見計らって歩きだした。
寺へは駅前を左に出て道なりに行くだけ。道中にはぽつりぽつりと案内板もあるが、曲がらないので迷いようがない。30分もかからずに岩松院に到着した。途中で雨もあがってしまった。門前には桜の木がたくさんあったがほとんど散っていた。
岩松院

まだ朝早いためか境内は閑散としていた。拝観料を払いどきどきしながら本堂内へ進む。見上げると、凄まじい迫力で睨み付ける鳳凰がいた。極彩色といっていいのだろうが、赤が少なめなのと、青が深いせいか、決して派手ではなく不思議な落ち着きを感じる。150年前に描かれたまま、補色などはしていないという。トサカのあたりのごつごつが、油絵で特殊なマチエルを使ったときのようにちゃんと3Dになっている。寺のサイトの説明では「独特の技法で仕上げた」とあるが、どんな技法なんだろう?
30分も見上げていたらすっかり首が痛くなってしまった。

続いては隣の浄光寺へ。岩松院からは歩いて5分程度で、その道は遊歩道として整備されている。花桃が満開だった。
花桃
ここに寄ったのは駅前の観光案内を見て、薬師堂が国の重要文化財に指定されているというのを知ったから。門からお堂までは雰囲気のある緩やかな石段が続いていたが、市民サークルなのか教室なのか、ビデオカメラをかついだ人たちが跋扈していてちょっと興醒め。ちょうど日が差してきて、先ほどまでの雨を吸ったちょっと朽ちかけた茅葺の屋根からは水蒸気がもうもうとあがっていた。

1/25000地図を見ながら小布施ワイナリーへ。ここも北斎の天井絵とともに楽しみにしていたところ。浄光寺からは30分くらいかかった。
小布施ワイナリー
小布施ワイナリーは最近メディアで取り上げられることが多い。が、実物にはあまりお目にかかったことがない。ドメーヌ・ソガシリーズのシャルドネを一度飲んだことがあるだけだ。
一般の観光客向けのワイナリーではないし、観光地図にも載っていない。が、ワイン好きなら楽しめると思う。試飲アイテムが少なかったのがちょっと残念だったが、有料試飲では1杯300円で結構たっぷりと飲ませてくれ、チーズもいただいた。ヴィオニエやサンジョヴェーゼといった、国産では非常に珍しいセパージュのワインがあったりした(開いてなかったけど)。我々がブルゴーニュが好きだということを言うと「ではぜひブルゴーニュと比べてみてほしい」と、在庫僅少となったピノノワールを出してきてくれた。

じっくりワイン選びなどしていたら昼近くになってしまった。買ったワインは配送(合計12,000円以上だと配送無料)にしてもらってワイナリーを出た。
駅の方に行けばなにか食べるところがあるだろうと駅に向かった。歩きだしたら天気が急変し、大粒の雨が降ってきた。遠くに雷鳴まで聞こえる。蕎麦屋にでも逃げ込もうかとも思ったが、結局、事前にチェックしていたフランス食堂ヴァンヴェールという店に入った。
ギャレット
ランチのメニューから、自分は紅鱒とアボカドのギャレット、相棒は鶏のコンフィとモツァレラのギャレットを注文した。料理が運ばれてきて、意外にもヴォリュームがあったのでちょっと驚いた。紅鱒とアボカドのギャレットは、ソースがチーズ系の不思議な味で、ピンクペッパーがぴりりと効いていた。なかなか美味しくて、ランチでこれならディナーも期待できるところだが、残念ながら今宵は高山村に宿をとってある。
デザートまで食べ終わったところでちょうど小降りになったので、店を出た。

北斎館へと向かう道でようやく知ったのだが、小布施は、ベタな観光地だった。町の観光政策が実ったということのようだが、自分はこういうワザとらしく作られた街並みがどうも好きになれない。衝撃を受けつつ、作り物のチャラい演出のオシャレでステキな栗の小径から高井鴻山記念館に入った。
栗の小径 ゆう然楼から からくり
高井鴻山については、北斎を小布施に招いた豪商、という程度の知識しかなかったが、実は本人も絵を描いたりなどの多芸多才な人であるということを知った。また、「ゆう然楼」には幕末の志士たちが集まるなど、相当顔の広い人物だったようだ。そんなわけで、ゆう然楼には彼らのために抜け穴があったりするのだった。その隣に「碧軒」という茶室があって、これが北斎のアトリエとして使われていたということだった。わざわざ北斎のために鴻山が建てたというものだ。

次に北斎館へ。この周辺が一大観光基地となっており、土産物屋が軒を連ね、大型観光バスがひっきりなしに出入りしている。建物はどれもオシャレでステキだ。
北斎館
ここは北斎の肉筆画が多く展示されているのが売り。改築して版画の部屋も作ったということだが、それらの展示品は、まだ若いときに勝川春章の門下にいたころの美人画などが多く、北斎らしさを感じるものは少なくてちょっとがっかり。富獄三十六景くらいしか知らないような普通の観光客は、こんなの見てもおもしろくないだろうに。なぜこんなに人が集まるのかわからない。
また、映像ルームでドキュメンタリーが放映されていたがこれもイマイチだった。北斎の生涯や業績が紹介されるのかと思いきや、「北斎はこの絵を描いたとき、何を思ったのだろうか」みたいな抽象的なことばかり言っていて退屈だった。そんなわけで、映像は2編あったがもうひとつは見なかった。
見るべきものは屋台の天井絵だった。ひとつは鳳凰で、朝方見た岩松院の天井絵を小さくした感じだ。だが大きさの違いもあり、迫力ではかなわない。男浪は町の下水のマンホールにもデザインされていた。富獄三十六景の神奈川沖浪裏を連想する。

北斎館を出て駅に向かうが、まだちょっと時間があるのでお茶をしようということになった。
お茶
小布施といえば栗菓子だが、有名なのは和菓子ばかり。ここでは洋菓子を食べたいという相棒の要望により、とおり沿いのオシャレでステキな栗の木テラスという店にはいった。有名な桜井甘精堂の洋菓子部門で(建物もすぐ隣)、結構混んでいたがタイミングよく待たずに入れた。モンブランと栗のロールケーキとマロンシュークリームを注文した。栗はいかにも和栗な優しい味と香りがして美味しかった。それに、なんといってもマロンクリームが自分の好みにどんぴしゃだった。

駅に着いたのは16時過ぎ。長野方面への次の電車は特急列車。電車が来るまでの間、ホームの反対側にある「ながでん電車の広場」で退役した 保存車両を見学したりしてすごした。
小布施駅 展望車
やがてやってきた特急「湯けむり」はなんと小田急ロマンスカーのお古だった(そういえば、往きに乗った各駅停車は東急のお古だった)。特急料金は100円で、自由席。4両編成だけどがらっがらで、小田急では相当運が良くないと座れない展望車両に座ることができた。さすがに最前列は無理だったけど。

特急には1駅だけ乗って須坂で降り、バスに乗り換えて一路高山村へ。翌日の桜めぐりの記録はメインサイトの「信州高山村桜ハイキング」へ。

自分の中では小布施といえば、北斎・ワイン・栗なのだが、その全てを味わうことができた楽しい1日だった。が、あまりに観光地化していたのにはちょっとびっくりした。岩松院はとても静かだったが、これは朝一番に行ったためだろう。偶然だが運が良かった。
今回訪れた施設など(リンク先はそのウェブサイト)
岩松院
浄光寺
小布施ワイナリー
フランス食堂ヴァンヴェール
小布施堂
北斎館
栗の木テラス(桜井甘精堂
小布施町

神田の大糸桜と清春芸術村の桜2006-04-23 17:34

2週間前の甲州高尾山ハイキングに引き続き、山梨県に桜を楽しみに行った。今度は北西部で、最近の市町村合併で北杜市となったところ。


まずは小淵沢の、神田(しんでん)の大糸桜。ウチからは、小淵沢着は一番早くて8時ちょうど。長坂を過ぎると車窓からも大糸桜が見える。
大糸桜と八ケ岳
思った以上の人だかり。これは急がねば。駅から歩いて行く予定だったがいきなりタクシー利用に変更。

到着は8:20頃。タクシー料金は1,210円だった。周辺は交通規制がしかれていて、車両侵入禁止ゾーンの手前で車を降ろされた。といっても桜の近くで、すぐにたどりつける。そして大糸桜は思ったよりも広い畑の中に立っていた。
大糸桜と富士山 大糸桜と甲斐駒を並べて眺める 大糸桜と甲斐駒と水仙
まず目に入ったのは富士山で、桜と並んで見えたが、逆光で撮影には向かないようだ。あたりは、富士山だけでなく、八ケ岳、甲斐駒ケ岳、北岳、鳳凰三山などの名峰に囲まれるという山好きにはこたえられないロケーション。
いったん近づいて間近から枝を観察。包帯が痛々しい。満開だが、葉が出始めている枝も一部にはあった。
比較的近い場所から桜と甲斐駒を並べて眺めると、桜が山に向かって手をさしのべているようで面白かった。人がいなくなったら写真を撮ろうと構えていると、例によって、どこに行っても湧いて出てくる近○リの団体が登場。撮影は10分以上延期せざるをえなかった。
引き続いてカメラマンが大勢陣取っている水仙畑の奥へ。バックに甲斐駒・手前に水仙とロケーションは最高で、さらに桜じたいがちょうどこちらに向かって枝垂れているためひときわ美しい。ひとまわりしたが、結局この角度からが一番きれいだった。空が青ければ言うことはなかったのだが、この朝はずっと高曇りのままだった。

1時間以上もたっぷり楽しんでから、大糸桜を後に南へ。清春芸術村へ向かう。後ろを振り返ると大糸桜が八ケ岳と並んで見え、これまたいい眺めだ。
大糸桜と八ケ岳を振り返り見る
中央線の踏み切りを渡り、農道のような道を南へ。広い道路に突き当たり、左(東)に向かう。甲斐駒や鳳凰三山などの南アルプスや富士山をちらほらと眺めながら歩く。HOYAの工場があって、敷地内のソメイヨシノらしき桜が満開だったほか、道の周囲にも小さいながらも満開の桜がいくつかあった。

柿平の集落で右(南)へ。道が2本あるが、どちらからでも清春には行ける。なんとなく東側の道を選択した。新宿区の温泉施設「グリーンヒル八ケ岳」の周辺は桜並木になっていたが、ちょっと散り始めていた。この道を進んで正解だと思ったのは、甲斐駒がきれいに見えたときだった。小さな谷をはさんで西側の道が見えたが、あちらはその向こうに林があって甲斐駒の展望はなかったのではないか。畑と花と山という、里の春を満喫しながらのぶらぶら歩きは楽しかった。
里の春

清春芸術村に着いたのは10:15頃。大糸桜から30分ちょっとだった。
入館料900円をケチったのか、中に入らず塀の外から覗きこむようにして写真を撮っている人もかなりいたが、ここの良さは中に入らないとわからないだろう。ただし、ラ・リューシュの建物と桜とを合わせて見るには外からの方がいいかもしれない。
清春芸術村 空中茶室 裏手に回ると甲斐駒が
芸術村の敷地内は芝生(もちろんこの季節は枯れていたが)の広場で、彫刻やオブジェが点在しており、全体が展示場のようになっている。門のすぐ前に建つラ・リューシュの裏側に回ると、敷地を囲むように並んだ桜越しに鳳凰三山が見渡せて美しかった。
広場の最奥にあって目をひいたのが空中茶室「徹」だった。ムーミンの物語なんかに登場しそうな感じがする。桜に埋もれていると絵になるが、夏なんかはどうなんだろう。その桜は満開をちょっと過ぎてしまっていたようだ。が、風が吹くとはらはらと散る花びらがまた美しく、違う楽しみ方ができてよかった。

続いて美術館に入った。建物の設計は谷口吉生で、葛西の水族館や東博の法隆寺館でお馴染みの人だ。
入って左側が本館にあたるのだろうか。展示のほとんどがジョルジュ・ルオーで、さながらルオー美術館といったところだ。ルオーの絵は、見ているとなんだか厳かな気分になってしまう。宗教画ばかりなのだから当たり前といえば当たり前だが、無宗教を自認する自分は、他の画家の宗教画や日本の仏像なんかを見てもこれほど厳粛になることはまずない。なにかしら不思議なオーラが出ているのだ。ほとんど動揺に近い不思議な高揚感を味わった。
館内は、順路がらせん状に進み、会津若松のさざえ堂を思わせる。展示方法も、壁かけだけでなく階段にケースを置いたりなどしていて、おもしろかった。

右側の棟は、自然光が入って明るかった。
企画展示は梅原龍三郎。落書きみたいであまり好きではない画家だが、ここでは良かった。梅原というと富士山のどぎつい赤のイメージを持っているのだが、「浅間山噴煙」の淡い色使いは気に入った。「雉」は、撃たれたのだろうか、ぐったりと横たわっている雉の絵。通り過ぎようとしたが何かがひっかかる。しげしげと見ると、羽の部分に金色の絵具が使われていた。金は、どちらかというと絵の具ではなくマチエル的な使い方をするしかないと自分は思っていたのだが、これほど効果的に使われているのは素晴らしいと感じ。

芸術村で桜と絵を堪能してから、ごく近くにある超有名そば店のへと向かった。11時開店で、到着は11:10過ぎだったが、すでに待ちの人が大勢いた。これは覚悟していたことなので驚かない。まずは順番待ちリストに名前を書き、のんびり待つことにした。
順番が回ってきたのは11:40ごろだろうか。30分待たずにすんだ。メニューはざるそばと田舎そばの2品しかない。相棒とふたりで2種類のそばを1枚ずつとエビスビールを1本注文した。
翁のざるそば 翁の田舎そば
まずはざるそばが運ばれてきた。つゆは鰹節の風味が強く、繊細な香り。そばも美味い。のど越しもよく、つるつると一気喰い。
続いて田舎そば。太い。太いそばはボソボソになりがちだが、これはそうではない。ただ、太くて短いため、つるつる・ずーっ、というわけにはいかない。そばの香りはざるよりも強く、そのくせ、うどんのようなもちもち感がしておもしろい。普段は細めの都会派そばが好きな自分だが、この2種類では田舎の方が好みだ。2枚では少し足りない気がしたので、自分だけ田舎そばを追加注文した。
そばはどちらも美味かったが、ビールがその風味を消してしまうのがもったいなかった。日本酒が何種類かおいてあるので、もし次の機会があったら絶対日本酒にしようと思った。なお、店内は全席禁煙。

翁を出て、長坂駅まで歩いて帰った。道は斜面の中腹についていて、雄大な南アルプスを眺めながら歩けるのがいい。
駅までは、大深沢川の深い谷を下りきったあと再び登る。この登りが満腹の腹ごなしにちょうどよかった。翁からたっぷり40分くらいかかってようやく長坂駅に着いたのは12:40頃。長坂は電車の本数が少なく、日中は1時間に1本または2本。電車が来るまで40分くらい待たされたが、駅前に図書館があったので、のんびりと過ごせたのはよかった。
(2006年4月22日)

カレーミュージアムでハシゴカレー2006-04-20 23:54

本日は相棒が飲み会で不在。ひとりでカレーミュージアムに行った。4軒ハシゴした。


琉球カリー 沖縄角煮(ラフテー)カリー
お試しサイズを注文。食べてから気づいたのだが、これは以前食べたことのある「古酒カレー」ではないか。どうやら名前を変えたようだ(そういえば店の名前も違う)。知らないカレーを期待していたのでそういう点ではがっかりしたが、味はうまい。この爽快感はクセになる。
木多郎 チキンカリー
お試しサイズ。トマトベースというが、最初にココナツの風味を感じた。具の鶏肉が、ダシが出きってしまっているのか、美味しくなかった。スープもなんというか、平凡に感じた。もうちょっと辛い方が好みだ。ごはんがべちょべちょだったのが一番のマイナス点だが、これは屋台コーナーだったからかもしれない。
湘南カレー紅 湘南黒カレー豚トロ
豚トロのカレーはお試しサイズがなかったので、ノーマルを食べた。本日一番のヒットだった。
どろっとしていて濃厚なシチューのよう。まるでカレーじゃないみたいだけど、確かにカレーだ。マヨネーズで和えたレタスが乗っていたが、マイルドになりすぎるのでなくてもいいと思った(実際、先にレタスだけ食べてしまった)。豚トロはカレーに合うような合わないような。ルーが美味しかったので、もっとオーソドックスな具で食べてみたいと思った。
ハヌマーン マトンカリー
もう腹がキツかったが、最後にスパイシーなカレーでしめたくて入った。マトンの極辛をお試しで注文。ここは久々に入ったが、味はこんなだったっけ? という感想。なんだかぱっとしなかった。もう4軒目で感覚がマヒしていたのかも知れない。ごはんがインディカ米のようだったが、長細くなかった。

にしても、平日夕方のカレミューは相変わらず客が少ないなあ。

シトラスセント甲州2005とカツオの刺身のマリアージュ2006-04-07 00:38

本日の夕食、鯛のソテー(バジルのソース)に合わせてこの甲州を飲んでみた。能書によるとシトラス セント(柑橘系の香り)が豊かに表現された甲州種のワインということで、この名前のようだ。

1,500円なら気軽に飲める。で、限定4,992本(この限定という言葉に弱い...)。千野家契約園のブドウを使っているとか。千野といえば、以前ソレイユワインの「千野甲州」なるワインを飲んだことがあるが、関係があるのだろうか?


軽く冷やして抜栓。直後はとくに強い香りはなく、控えめ。グラスにそそいで見ると、無色に近いのがいかにも甲州だ。しかし一口飲んでみて、その色からは想像もできないくらいの強い香りに驚いた。名前どおりの柑橘系で、同じ柑橘でもみかんではなく、明らかにレモンの感じだ。爽やかだが、ただ爽やかなだけでなくコクもある。これで1,500円なら充分と思う。

鯛にも合ったが、それよりも副菜のカツオの刺身によく合った。いつも、カツオ(に限らず刺身全般そうだが)を食べるときにワインを飲むと、魚が生臭く感じられて相性が良くないなあと感じていた。特にシャルドネなんかはひどいと思う。が、このワインと合わせるとカツオの臭みが完璧に消え、魚肉本来の味がでてきた。カツオにレモンをたっぷり掛けたからかもしれない。淡泊になりすぎて逆におもしろくないと感じる人もいるかもしれないが、自分にはこの方が好みだ。脂ののった部位も、ぎとぎとしたこってり感が消えて食べやすい。

醸造元のソウリューワイナリーのサイトを見ると、シトラスセント甲州辛口のヌーボーというのは載っているが、このノーマルの甲州は見当たらない(ラベルがそっくりだから姉妹品?)。ググってもわずかにヒットするのはそのヌーボーの方ばかり。ひょっとして超新商品なのだろうか。

名古屋コーチン料理 つかさ(名古屋)2006-03-29 23:44

「つかさ」という店の名古屋コーチンは純系ということで、生粋の名古屋コーチンが味わえると思って行ってみた。時間は13:30で昼のピークは過ぎており、ちらほらと空席があった。


ふたりとも「つかさ膳」を注文し、単品料理の串焼き5本盛りと名古屋コーチンソーセージを追加した。
つかさ膳 ソーセージ

膳は、煮物などはごく普通。名古屋コーチンを使っているのは串焼き2本と、ささみの霜降りくらいだ。まず膳だけが運ばれ、あとから串焼き2本がやってきた。串焼きはやはり歯ごたえがある。でも焼きすぎたときの固さではなくて、ちゃんと旨みがある固さだ。噛みしめるとじゅうっと肉汁が出てくる。ささみは焼いたものと違って柔らかい。

串焼き5本盛りは、つくねなんかはやっぱり固くて、名古屋コーチンなんだなあと思った。手羽先は、さらにジューシーさが加わってよかった。
ソーセージは注文時にボイルするか焼くかを指定できる。焼きをお勧めされたので焼いてもらった。プリプリを超越した感じの食感。メニューに「幻の」と書いてあったので注文してしまったのだが、それにしてもこれ4本で1,500円は高いっす。
なんだか固い固いとばかり書いてしまったが、ほんとうにそんな印象なのだ。でも、もちろんイヤな固さではない。

おおむね満足だったが、残念だったのは酒の揃えがイマイチだったこと。といってもビールしか見ていないのだが、生がドライで、瓶もドライの他はよりによってクラシックラガ ーというのは酒好きには悲しいかぎりだった。(2006年3月21日)

フレンチ創作料理・なり多(犬山)2006-03-26 23:21

フレンチ創作料理・なり多(犬山)

愛知県への旅行で犬山に泊まり、フレンチ創作料理・なり多で夕食をいただいた。

建物は江戸末期に建てられた旧奥村邸で、4年前までは郷土資料館だったという元呉服商の立派なもの。到着はまだ明るい17:30で、一番乗りだった。席は、インターネットの写真では掘りごたつになっているが、この日はいすとテーブルだった。庭に一番近い席にしてもらえた。内装も和のテイストで(あたりまえか)、仕切戸のステンドグラスなど、なかなか素敵だ。席も全席禁煙。
料理は、電話で予約したときにコースを選んでおいた。何種類かのコースがあるようだったが、中身を聞くのは面倒だったので、値段だけ聞いて一番高い8,000円のにしておいた(帰宅後ネットで見たらさらに高いコースもあるようだ)。3泊で出かける予定が1泊になってしまったので、その分の予算を食事につぎ込むことにしたのだ。


食前酒にシャンパーニュをグラスで注文。その場で抜栓してくれたのはいいが、いきなり暴発させてちょっと先行きが不安になった。
続いてワインの吟味に入る。名古屋から電車で30分とはいえ、地方都市なのでワインは期待していなかった。が、リストを見るとなかなかの品揃え。3,000円から8,000円くらいのものが中心だったが、高いものは40,000円台まであった。そんな中で、サッシカイアが18,000円('00年)とあったので、ちょっと迷ったが思い切って注文した。最近ショップで見かけるときは安くても15,000円はしていたので、レストランでのこの値段はびっくりするほど安く感じたのだ。

前菜が運ばれてきた。
前菜
きれいな盛り付けでちょっと嬉しくなる。これを見て、シャンパーニュが暴発したときの不安はどこかに吹き飛んだ。シャンパーニュも、しっかりとして美味かった(銘柄失念)。これがまたこの前菜群によくマッチして美味さアップ。上段中央は、カツオのたたきかと思ったらマグロの炙りだ。

前菜を楽しんでいるとサッシカイアが登場。こちらはブドウのバッジをつけた本物のソムリエ氏がやってきてサーブしてくれたのでほっとした。
サッシカイア
味は、まあこの値段ならハズレはない。濃厚でいて華やか。文句なく美味い。久々に上等のカベルネを飲んだ。温度も冷たすぎず温すぎず、グラスもリーデルで満足。このエクストリームというシリーズは初めてだけど、香りが楽しめるグラスだと思った。
サーブしながらソムリエ氏は我々にどこから来たのかと尋ねてきた。地元の客にはこういうワインを注文する人はまずいないそうだ。それからこの建物の由来などを話してくれた。また、前菜の途中で赤ワインに移るか、もう1杯シャンパンを頼むか迷っていたら、見透かしたように白のハウスワインを「サービスです」とグラスで持ってきてくれた。これが絶妙のタイミングでまた気分が浮かれ出す。ハウスワインだけれども樽がしっかりしていて美味しい。よいハウスワインの店はよい店だ。

前菜盛り合わせの次はエスカルゴ料理。
エスカルゴ料理
この時点でサッシカイアをグラスに注いでもらい、ワインは赤白両方になった。エスカルゴと赤を合わせると、お互いを引き立てあう。白と合わせると、エスカルゴの臭みを消してすっきりと味わえる。ワインを変えるだけでまったく違う味わいになるのがおもしろい。

クラムチャウダースープ 鯛の白ワイン蒸しクリームソース
スープのクラムチャウダーはパイ包みだが、なんだか膨らみがイマイチだった。味は、まあ普通のクラムチャウダーで、なんだかぱっとしなかった。
魚料理は鯛。緑色のクリームソースで食べていたらイマイチだったが、トマトソースも一緒に混ぜたら塩味がプラスされて美味しくなった。ハマグリの潮の香りがが白ワインとよく合った(まだグラスワインを残していたのだ)。

肉料理はフィレ肉のステーキだ。
ステーキ
焼き方はレアを指定したが、ソースが濃厚なのでもっと生っぽくてもよかったかも。と、そう思えるくらい濃いソースだった。しょうゆとタマネギがベースになっているが、どろっとしているので最初大根かと思った。肉もよくサシが入っていて、甘くて柔らかかった。
なお、付け合せは、写真では光の加減でドライカレーみたいに見えるが、赤米だ。

えっ・・・
チーズ
メインを食べ終わってさてデザートはなんだろうと思っていると、チーズが運ばれてきた。そういえば今日のコースの内容をちゃんと聞いてなかった。チーズが出るなんて知らなかったから、サッシカイアはメインに合わせて全部飲んじゃった。はてどうしよう、と思っていたら今度はソムリエ氏から赤ワインのサービスが。高いワインの後に安いワインを飲むのは反則だが背に腹はかえられない。しかしそれでもしっかりとしたワインで、ちゃんとチーズに負けないものだった。チーズはちゃんと確かめなかったが、ブリーとロックフォールのようだった。

デザート コーヒー
デザートは、アイスクリームの上にフルーツとカスタードクリームかなんかを乗せて焼いたもの。アツアツと冷え冷えのコントラストがおもしろい。
コーヒーには泡が乗っていた。マイルドエスプレッソというのだろうか、あまり苦くはなかった。砂糖などの器も楽しい。

会計を済ませたところでソムリエ氏がやってきて、邸内をひととおり案内してくれた。豪商の家だけあって、広かった。
オープン4周年記念ということでバラの花をもらった。満足して店を後にし、ホテルに帰った。(2006年3月20日)

ボンベイ(カレー店・名古屋)2006-03-25 13:56

愛知県への1泊2日の小旅行、初日の昼食はあらかじめチェックを入れていたカレー店の「ボンベイ」。
名古屋到着は11:30ごろだったが、ちゃんと場所をチェックしてこなかったので、迷った末に12時過ぎになってようやくたどりついた。名古屋の地下街は広くてワケわからん。凄い。


ボンベイのカレー
メニューはカレーのみで、したがってオーダーは「大盛り」「普通盛り」といったふうにいたってシンプル。そんなわけで注文してからすぐにカレーがやってくる。我々はふたりとも普通盛りをオーダーした。器もシンプル、盛り付けもシンプル。女性の分は、ごはんを気持ち少なくしてくれる。足りなかったら言ってください、とのこと。
カレーをごはんにかけて一口ほおばると、かなり酸っぱくて驚いた。そして後から辛さがやってくる。よく煮込んであるため具はほとんど形がなく、鶏肉は繊維のようになっていた。野菜からの水分だけで、水はまったく使っていないそうだ。たまに歯にコリコリするのはキャラウェイだろうか。
「やめられないとまらない」系の味で、空腹だったこともあって、ばくばく一気食いしてしまった。美味い。酸っぱさは今までに食べたカレーの中では一番だ。福神漬けならぬ沢庵が添えてあったが、これは果たしてカレーに合ったのだろうか、よくわからなかった。(2006年3月20日)

モンドールチーズと日本酒のマリアージュ2006-03-12 00:07

とろりとしたモンドールチーズ 津月とモンドールチーズ
冬季にだけ製造されるモンドールというフランスのチーズが大好きだ。いわゆるウォッシュタイプのチーズで、以前は本でしかお目にかかれなかったが、ワインブームが起きた'90年代の中ごろから高級スーパーで見かけるようになった。


最近では賞味期限ぎりぎりまで待って、割引になってから買うようにしている。いちど、若いうちに買って冷蔵庫にしまっておいたことがあるのだが、もう冷蔵庫中が臭くて臭くてたまらなかった。並み居るウォッシュチーズの中でも匂いのキツさはトップクラスだ。ビニール袋に二重三重に入れても、どうしても匂いは漏れてしまう。

表面のカビが少なくなって赤みを帯びてきたら食べごろだ。表皮を切り取って、スプーンですくって食べる。中はとろとろになっている。蜂蜜くらいのとろり加減。スプーンは湯であたためて使う。そうすればスプーンからチーズが離れやすくなる。
ジャガイモに塗って食べても美味しいけど、ウチはそのままぺろりとやることが多い。味はこってり・まったり・まろやかクリーミーで、あの強烈な匂いからは想像もつかない。

ウチでは毎冬、最低でも1回はモンドールを食べる。今シーズンの1回目は2月の末のことだった。
食事のあとに2000年のコート・デュ・ローヌの赤と一緒に食べていた。赤ワインにとてもよく合う。そのうち、チーズの香りが日本酒の香りと似ていることに気付いた。で、試しに1杯飲んでみたらこれがどんぴしゃだった。酒は秋田県の「津月」という銘柄の純米吟醸、山田錦100%のきもと造りで芳醇系。

日本酒の香りの中には、雑巾のようなニュアンスのあまり好きではない香りがあるが、その匂いをこのチーズのカビ臭が上手く消してくれている。ん、てことはこの酒、悪くなっちゃってるのかな。これが老ね香っていうやつなんだろうか。でも2口3口と飲むとイヤじゃなくなってくる香り。
日本酒の香りの説明って、ワインみたいにストレートに「ライチの香り」とか「洋梨の香り」とか言わないから、検索してもよくわからない。
でもとにかく、意外な組み合わせが楽しめた。もうすぐモンドールの季節も終わりとなるが、機会があったらまた試してみたい。