KATZLIN'S blog

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日本国宝展2014-10-19 17:03

10何年ぶりだかで開催の日本国宝展。開催を知ってから楽しみにしていた。にもかかわらず、目玉が土偶とはイマイチだなあと半ばがっかりしていたら、開催の2ヶ月くらい前になって正倉院宝物が特別出品されるとのアナウンス。開催の10日くらい前になってようやくアップロードされた出展リストを検討し、前期と後期に1回ずつ行くことにした。
前期のお目当ては正倉院宝物(国宝じゃないけど)と、源氏物語絵巻だ。土偶が5体揃うのは実は後期になってからなのだった。
日本国宝展


博物館に着いたのは開場約10分前。かなりの行列になっていた。9:30になって門が開き、粛々と中庭を進む。平成館の前で待たされて、実際に展示室に入れたのは9:40くらいだった。
入ってすぐの仏足石と、居並ぶ挨拶板(そんなもの読んでないで早く展示を見ればいいのに)、それに玉虫厨子に群がる人が多くて早くも大混雑の様相だった。正倉院宝物はその同じ部屋に展示されていた。

鳥毛立女屏風(正倉院宝物)
No.S02。高校時代に志賀直哉の『暗夜行路』を読んでこの絵の存在を知り、いつか実物を見てみたいものだと思っていたが、それがようやく叶った。思っていたよりずいぶん色が薄かった。鳥の羽はほとんど欠落しているという。ほとんど、ってことはどっかに残ってるんだろうと思って探したが、とうとう分からなかった。
楓蘇芳染螺鈿槽琵琶(正倉院宝物)
No.S04。超有名なお宝。正倉院宝物と言えばコレという人も多いのだろう、みな口々に「あっ、教科書のやつだ!!」と言っていた。それにしてもこの螺鈿の細工は凄すぎる。でかい花の真ん中のこの飴みたいな固まりは、瑪瑙かなんかですか。で、有名なこの螺鈿は琵琶の裏側であり、表側には数人の人が楽器を演奏している絵が描かれている。で、やはりみな口々に「えー反対側ってこんなだったんだ!!」と言っていた。この表側の人が変な踊りを踊っているように見えるのが笑えた。
緑地彩絵箱(正倉院宝物)
No.S06。緑のあざやかなきれいな小箱。残念ながら、人の波が凄くて近寄るのを断念し、人垣の隙間から望遠鏡で見た。
一字蓮台法華経(大和文華館)
No.26。料紙が絢爛豪華。実に美しい。
当麻曼荼羅縁起絵巻(光明寺)
No.33。井戸掘りの場面で当時の大工仕事のようすが分かるとか。石仏を彫っているシーンもなかなか面白い。
土偶 縄文のビーナス(茅野市・尖石縄文考古館)
No.45。この展覧会の目玉のひとつ。頭の上までぐるぐる模様になっているのが帽子みたいでおもしろい。これ、そのまんま着ぐるみにするだけでゆるキャラになれそうだ。
土偶 合掌土偶(八戸市埋蔵文化財センター)
No.49。一目見た瞬間に、訳も分からず、なんとも言えない寂しい気分になった。第一印象は最悪だったのだ。しかし全展示を見終えて再びこいつの前に立ったとき、ふと、「ごめんなさい、許してください」と懇願している仕草のように見えた。そうか、それでマイナスイメージが先行しちゃったんだ。そうして理由が分かると、今度はこいつがとても愛らしくなってきたのだった。
こいつは何か重い罪を犯したのだろうか。合掌しているというのは現代の我々が勝手にそう見ているだけで、実はこれは両手を繋がれている表現なのではないのだろうか、などと勝手に考えたりした。
寝覚物語絵巻(大和文華館)
No.70。美しい料紙の絵巻だが、絵に比べて詞がずいぶん多いように感じた。
信貴山縁起絵巻(朝護孫子寺)
No.69。展示は尼公(あまぎみ)巻。大仏の前で尼公が寝たり祈ったりする有名な異時同図は、展示の上のパネルでよく分かるようになっていた。
源氏物語絵巻(徳川美術館)
No.67。前週に紫式部日記絵巻を見たばかりだが、それに優るとも劣らない精緻で優美な素晴らしい絵巻。この下膨れた顔の輪郭の曲線と、メーテルや森雪も顔負けの長い目の組み合わせはまったく官能的だ。詞の方の料紙も燦びやかなうえに字も美しく、まさに日本美術の極上のものを見た、という満足感でいっぱいになった。
展示ケースの位置が単独だったので(他作品と並んでいなかった)、いったん人だかりが出来るとそれがなかなか解消せず、正面の位置に入るのに苦労した。さらに、見終えて移動しようとすると人をかきわけねばならず、押し合い圧し合いでたいへんだった。
金銅能作生塔(長福寺)
No.93。細かい金工芸に感心。塔頂部が人の歩みでゆらゆら揺れていて、大丈夫かなとちょっと心配になった。
法然上人伝絵巻(知恩院)
No.95。前期の展示は巻第七。空から仏が下りてくるのを見るシーンでは、鳳凰のような架空の鳥と、オシドリのような実在の鳥が、まったく違和感なく混在しているのが面白かった。
琉球国王尚家関係資料(那覇市歴史博物館)
No.100。(6)の黒漆雲竜螺鈿東道盆(とぅんだーぶん)が凄かった。螺鈿というとベージュをイメージするが、この螺鈿は虹色なのだ。照明の加減なのか何なのか青味が強く輝いて、実に美しかった。
この琉球王家資料や土偶なんかは、これまで国宝のなかった地域のものだから無理矢理指定したんだろうな、と高をくくっていたのだが、ところがどっこい、やはりそれ相応のものだったのだ。
玳玻天目(相国寺)
No.109。美しい玳玻天目。5つある国宝の天目茶碗でも、玳玻はこれだけだ。単眼鏡を使ってどアップで見るとキラキラと輝くさまが見事だ。
薬師如来坐像(奈良国立博物館)
No.114。小さな像だが、なかなかの優品。一木造で、いかにも平安時代な大らかなところがイイ。

以前見たことのあるものとか東博所蔵のものとかはすっ飛ばして見たのだが、それでも1時間くらいかかった。でも1時間かかったとは思えないくらい、あっという間に感じた。それだけ充実した展示ということなのだろうと思った。
そのあとは、後期にはもう見られなくなってしまうものを中心に、もう1回まわった。

お土産コーナーには「国宝店」とかいう名前が付いていた。家に週刊朝日百科「日本の国宝」があるので、図録は買わなかった。その替わり絵ハガキをたくさん買おうと思ったら、なんとも残念なセレクションで、チケットやチラシにもあしらわれている新国宝・安倍文殊院のポロンちゃんと、今日見た2体の土偶の合計3枚だけ買った。レジはロープで制限するほどの混雑ぶりだった。レジ待ちのとき、自分の前にいた20代くらいの3人組の女性が、3人とも揃って縄文のビーナスのぬいぐるみを持って並んでいる光景はなんだかシュールな感じがした。
あと、土偶のガチャガチャをやった。3回やったら、うち2個が「ごめんなさいもうしません」土偶だった。
土偶

平成館を出たら、入場待ちの列がひどいことになってるだろうと思っていたら、誰もいなくてすんなり入れる状態だった(それでも展示室は混んでいたけど)。11:30だったので、東洋館のオークラで昼食をとった。少しだけ待たされたが、こちらはまだ大した混雑ではなかった。食後は、国宝展のためにほとんど国宝がない本館をひとまわりしてから、次の目的地である三井記念美術館へと向かった。
(東京国立博物館・2014年10月18日観覧)

チューリヒ美術館展 と 国宝・紫式部日記絵巻2014-10-13 23:46

チューリヒ美術館展 --印象派からシュルレアリスムまで

まあまあ興味のあった展覧会。タダ券が手に入ったので、ならば是非、ということで行ってみることにした。10月中なら同じ国立新美術館で開催中のオルセー美術館展も見られる。ついでだからこっちも見てみることにするか。
チューリヒ美術館展


開場は10時。メトロ乃木坂駅に着いたのは9:50くらいだった。改札を出ると、地下の臨時チケット売り場が大騒ぎ。えっ、そんなに混んでんの、と思ったら、オルセー展のチケットを買う人達だった。

そこらじゅうにオルセー展の案内が溢れていて、あれ、チューリヒ展ってやってんのかな、というくらいな感じだった。チューリヒ展の会場は美術館の1階で、オルセー展が2階。乃木坂駅改札から続く人の波は、美術館に入った最初の角を左に曲がったすぐのエスカレータで分かれ、そのほとんどが2階に上っていくのだった。
到着時は10時ちょっと前だったので、まだ入れないだろうと思っていたら、豈図らんや、すでに開場していた。まだ絵を見る気になっていないうちに流れのままに入場してしまったもんだから、なんだか入りこめずに変な気分のままの鑑賞開始となってしまった。

セガンティーニ
No.01、02。入場してすぐにセガンティーニの絵が2枚、どーんと飾ってある。印象派のように見えなくもないけど、だけどあんなにモヤっとしていない。自分は輪郭のキリっとした絵が好きなので、これは気に入った。F16まで絞って撮影した写真のような、背景の奥の方までカリカリな感じがイイ。
これまで完全に忘れていたのだが、大原美術館にセガンティーニの「アルプスの昼寝」という作品(有名なんだそうな)があって、それをBS日テレ『ぶらぶら美術・博物館』で1年ほど前にとりあげられていたことを、帰宅してから調べて思い出した。
ココシュカ
No.35〜39。wikiによるとクリムト、シーレと並び、近代オーストリアを代表する画家の一人なんだそうな。まったく知らなかったが、この展覧会で一番よかった。
それにしても、この、ものすごく、人を不安にさせる表現はいったいどういうことなんだろう。『恋人と猫』(No.37)なんかは、遠くから見ると、亡霊だか悪霊に襲われている女性の絵かと思った。解説を読むと、第一次大戦の従軍を経て精神を病んだとあった。この絵は1917年の作品だが、1947年の『モンタナの風景』(No.39)は絵のタッチこそ同じだが真逆の明るい作風。
クレー
No.47〜50。クレーは好きな画家だ。相変らずの安定感。どこがいいのか、と聞かれたら全く説明できないのだけど。
コンポジションのようなのもいいけど、抽象のようでいて抽象じゃない、落書きみたいな作品がどういうわけかツボにハマる。で、今回のそれは、『狩人の木のもとで』(No.50)なのだった。
アウグスト・ジャコメッティ『色彩のファンタジー』
No.53。抽象絵画の部屋で目を奪われたのがこの作品。タイトルどおりの色彩感覚もよかったが、なんといっても、色の着いたキクラゲを貼りつけたような画法がおもしろかった。この陰影は、絵ハガキや図録では分からないだろう。
アルベルト・ジャコメッティ
No.69〜74。名前は知っていたけど、(たぶん)実際に作品を見たことのない作家。しかしこれが素晴らしかった。魚のマンボウのように、にょーんと伸びた人物は、それでも正面から見るとちゃんと人間に見えるのが凄い。それになんてったって、おもしろすぎる。
ところでちなみに、上述のアウグストは親戚なんだそうな。

予想以上に楽しい展覧会だった。特にココシュカとジャコメッティは大収穫だった。
クレーのマウスパッドと、絵ハガキを10枚買った。絵ハガキは特典が付いていて、5枚買うと作品をあしらったシール、10枚だとブックマークをもらえる。というわけで、モンドリアンの『赤・青・黄のコンポジション』のブックマークをゲットしたのだった。

この時点で11時。オルセーを見たら昼ぐらいになるだろうか。
と、会場を出ると、たいへんな騒ぎだった。2階のオルセー展の行列が2階だけで収まりきらず、1階にも列ができていたのだ。こりゃもう美術鑑賞どころじゃないや、ということで、とりあえず地下のカフェに避難して早めの昼食をとったのだった。サーモンのサンドイッチが美味しかった。
すっかりあてが外れて時間があまってしまった。近くのサントリー美術館で開催中の高野山展は、前売券を買ってはいたが今日は持ってきていない。いろいろ考えた末、五島美術館でちょうど国宝の紫式部日記絵巻が展示されていることを思い出し、六本木から上野毛に行くことにした。


秋の優品展 絵画・書跡と陶芸

六本木からは乗り換えだなんだで1時間近くかかった。それでもまだ時間は14時過ぎだった。
五島美術館の国宝・紫式部日記絵巻の展示期間は10/11-19のわずか9日間。どうせゲロ混みだろうが、オルセーに比べりゃたかが知れてるだろう。この機会を逃がしてたまるか、くらいついてでも見てやる、と思って行ったら、そんなことはなくて、ゆっくりとかぶりつきで鑑賞できた。

この絵巻は実に素晴らしかった。第三段の貴人たちの衣装は、2種類の黒を使い分けていて、黒の中に黒で模様が描いてある。女房の服も、蝶やらの紋様が艶やかだ。貴人が女房をつかまえて扇子でうりうりしているのが、テレビ時代劇の悪代官が女中をからかっているのとダブって見えて、笑えた。
他には第一段での高欄の釘隠しの描写がよかったし、第二段では赤ん坊(のちの後一条天皇)がどう見ても眠っている坊さんにしか見えなかったりとかいう笑い要素もあった。同じ部屋には江戸時代に描かれた大江山絵巻も展示されていたが、それと比べると紫式部の精緻さがより感じられた。

紫式部の3枚組絵ハガキセットを買ってから、またまた電車で今度は新宿に行き、伊勢丹をぶらぶらしたあと食事をして帰った。
(国立新美術館と五島美術館・2014年10月12日観覧)

開山・栄西禅師 800年遠忌 特別展「栄西と建仁寺」2014-04-14 21:52

栄西と建仁寺展看板
俵屋宗達の国宝風神雷神図屏風が5年ぶり「見参」とか。でもそれだけではどうもなあと思っていたら、たぶん見たことのない誓願寺盂蘭盆一品経縁起(国宝)が出典されるという。これは4/6までのわずか2週間の展示だ。この時期なら本館裏庭の桜もきれいだろうし、法隆寺のお面の部屋も開いているだろうし、ちょうどいいか。
で、よくよく見たら、なんと開会後1週間限定の超割引チケットなるものが発売されていた。これ、ドンピシャじゃん。え、発売は1/13まで? ・・・ というわけで、普通の前売券を購入しての観覧となった。


9:20に着いたらまあまあの混み具合。時間になり、4列に並んで入場。しかし今日はダッシュや速足の人がいない。それでどうにも歩みがのろい。しびれを切らして(でも顰蹙を買わないように)じわじわと追い抜いていった。平成館脇の枝垂れ桜がきれいに咲いていた。
枝垂れ桜

清拙正澄墨跡 遺偈(常盤山文庫・国宝)
No.61。第1室から順に進み、栄西自筆という誓願寺の盂蘭盆一品経縁起はふうんという感じで過ぎ、第2室へ進もうとすると、ノーマークだった国宝の「棺割の墨蹟」があった。力強い書で、エピソードが面白い。遺偈なんで、つまりは遺言なのだが、入滅後に、つまりは死んだ後に、また起き上がって弟子に戒を授けたという話で、この別名があるとか。
海北友松筆 雲龍図(建仁寺・重文)
No.109。第3室は、大画面のオンパレードだった。しかも全て海北友松である。
海北友松というと、名前は知っているものの、では代表作は何か、と言われると思い出せない人だ。等伯などと違って国宝指定がないせいかもしれない。自分の場合、絵よりも真っ先に思い浮かぶのは大河ドラマ「春日局」の吉幾三、というくらいなのだ。
しかし、この空間は良かった。特に雲龍図はすばらしく、ボストン展で目玉だった曾我蕭白なんか霞んでしまうほどだった。蕭白は友松のパロディにしか思えない。
長谷川等伯筆 竹林七賢図屏風(両足院)
No.142。友松の部屋を後にすると、等伯があった。これは友松の竹林七賢図(No.105・重文)そのまんまという感じ。解説を見れば、友松の影響を受けて云々とある。
院達作 小野篁・冥官・獄卒立像(六道珍皇寺)
No.179。さらに進むとなんともユニークな仏像が。どうやら獄卒のようだ。指差して「やーいやーい」と言っている。2010W杯のマラドーナを連想した。とっても面白くて気に入ったが、仏像としての出来は大したものではない。
焰口餓鬼図(六道珍皇寺)
No.181。なんとも不気味で奇妙な絵。60年代のレコード・ジャケットにありそうなサイケデリックな感じで、画面中央にでっかく陣取るロボットのような巨大餓鬼の周りを、いろんなミニ餓鬼がうごめいている。左下には坊さんが受付みたいなことをしている。
解説に絵の謂れがあったが、お前もあと3日でこんな姿になっちゃうぞ、と脅された阿南が、陀羅尼を使って餓鬼に飲食を施してその難を逃れた、ということだった。主語がなくて読解が難しい解説だったが、帰宅後に調べたところ、どうやら「佛説救抜焔口餓鬼陀羅尼経」なる経典の一節であるということらしい。
俵屋宗達筆 風神雷神図屏風(建仁寺・国宝)
No.183。いよいよ宗達風神雷神図屏風の前まで来た。やはり、展示の一番しんがりだった。屏風の前はさほど混んではおらず、ガラスにくっつくように間近で鑑賞することができた。
我々は二人とも初見のはずだが、何しろいろんなメディアで見過ぎていて、既視感たっぷり。なもんで、感動という点ではそれほど大したことはなかったが、ずっと眺めているとジワジワと湧いてきた。
つるりとした絵という印象があったが、実物は、表面が結構ゴツゴツしていて、腕の体毛っぽい感じとかは、やはり現物でないと味わえないだろう。
また、相棒は、思ったよりも余白が少ないと言う。本の解説などで余白の美がどうのこうのということが多く、そのために頭の中で強調されてしまったようだ。

もう一度会場を一周したあと、絵ハガキを3枚買った。そのあと最後にもう一度、海北友松の雲龍図と、風神雷神図を見てから会場を出た。それでも10:30だった。

裏庭で桜を見たあと、本館で「博物館でお花見を」なるスタンプラリーをした。本館の展示で桜に関係した作品の近くにあるスタンプを集めるとカンバッヂがもらえるというものだ。バッヂには桜と観音の柄があったが、2人とも観音にした。

平成館に戻ってラウンジの鶴屋吉信の菓子で食いつないでから、法隆寺館に行って久しぶりにお面を堪能した。
伎楽面
独特の、息詰まるほど静かな雰囲気がいいところだが、この日はやけに人が多くてわさわさしていたのが残念だった。そう言えば本館も人が多く、いやに外国人率が高かった。
そろそろ疲れたので東博を去ることにしたが、その前に、iPhone アプリの「トーハクなび」のスタンプラリーをコンプしたので景品を引きかえにまた本館まで行った。景品はなんと風神のカンバッヂだった。公式英語サイトを見ると、雷神のカンバッヂもあるみたいだ。

東博のあとは芸大美術館の「観音の里の祈りとくらし」展を見に行くことにした。
観音の里の祈りとくらし展看板
入ったらちょうどトークショーだかなんだかをやっていて、凄い人だかりだった。仕方なく、隣の展示室の芸大コレクションとかを見て時間をつぶすことにしたが、芸大の所有する国宝の絵因果経が出ていたのはラッキーだった。他には曾我蕭白もあった。やはり自分はこの人のマンガちっくな絵が好きになれない。

肝心の観音の里展では、チケットにもあしらわれている重文の千手観音のなかなかシックなクリアファイルが配られて、もうそれだけでトクした気分になってしまった。
狭い会場に18体の観音像が押し込められていた。ほとんどが平安時代の仏像で、うち重文は18体。クリアファイルの日吉神社の千手観音もよかったが、文化財指定のないものにも良いものが多かった。ただ、人が多いし、雑然とした雰囲気だったのだけが残念だった。

観音展のあとに芸大美術館のカフェで滋賀から取り寄せたとかいう大福を食べて休憩し、花見客でごった返す上野公園をそぞろ歩きしたあと新宿に出て、夕食にすっぽん鍋を食べた。えんぺらが超美味だった。
(東京国立博物館・2014年4月5日観覧)

特別展 井戸茶碗2013-12-18 18:14

根津美術館に、孤篷庵所有の大名物にして国宝の井戸茶碗「喜左衛門」が来るので見に行くことにした。もしかしたら過去に見たことがあるかも知れないが、少なくとも、茶道具に興味を持ち始めたここ2年ほどの間には見ていない。
この冬、三井・五島・根津の3つの美術館がタイアップして『茶陶三昧』というキャンペーンを打っており、いずれかの入場半券を提示すれば他館の入場料が割引となる。10/14に三井美術館の「国宝卯花墻と桃山の名陶」を観に行ったので(この展覧会じたいは印象が薄く、そのあとに寄った貨幣博物館の方が面白かった)、その半券を使って、根津を割引きしてもらおうという算段だ。ちなみに五島は国宝がなかったのでパスした。


美術館に到着したのは開館直後。どうせ空いてるだろうと思ったらなかなかの賑わいだった。お茶会があるらしくて、そのついでの人が多いようなようす。

展示室に入ってすぐの単独ケースにお目当ての国宝喜左衛門を見つけ、ひとしきり眺めたが、なんだかよくわからん。とりあえず国宝を見るだけは見て、ほかのものを見ようと周りを見渡して、ぎょっとした。
展示されている茶碗はすべて井戸茶碗なのだ。どれもこれも、全部が全部、おんなじ茶碗にしか見えない・・・ こっ、これはレベルが高い。

しかたないので展示室の解説に頼った。てか、最初からこれ見れば良かったのだけれど。
曰く、大井戸茶碗の見どころは、轆轤目、竹節状の高台、高台内の兜巾(とは言っても鏡の上にでも展示しないと見えないし、この展覧会はそうではなかったのだけど)、枇杷色の釉、総釉、高台の梅花皮かいらぎ、見込みの目跡。
対して小井戸は、大井戸に比べて浅めの碗形、わずかに口径が小さく、高台も小さく低い。あとは大井戸と同じ。
いっぽう、青井戸茶碗というのもある。だが色は青とは限らず、むしろ共通するのは、高台から口径までがほぼ直線、高台が低い、轆轤が強いという点。また、釉薬のかからない火間が見られる。火間は釉薬を柄杓で掛けるとできる。大井戸も柄杓がけをすることはするが、丁寧に作るので、火間は見られない。

そんなこんなで、一回りして二回りめに入ると、おぼろげながらも味が分かったような気がしてきた。特に梅花皮はそれぞれの茶碗の違いが大きく出ていて面白かった。

大井戸茶碗 銘細川(畠山記念館・重文)
No.39。解説の見どころを踏まえて見てみると、梅花皮が高台を越えてかなり高い位置にまでついている。
大井戸茶碗 銘上林(三井記念美術館)
No.24。白い釉がだらりとかかって、なかなか派手めな景色。結構気に入った。
小井戸茶碗 銘老僧(藤田美術館)
No.45。古田織部ゆかりの器。形は小井戸のようだが、ずいぶんと大きい。なんというか、奇っ怪な器。
小井戸茶碗 銘六地蔵(泉屋博古館分館)
No.55。六地蔵とは、6つの目跡に由来するものか。どういうわけか、なんか妙に惹かれた器。
青井戸茶碗 銘藤屋(個人蔵)
No.58。展示の青井戸の中でも特に青みがかった美しい色。
青井戸茶碗 銘柴田(根津美術館・重文)
No.57。柴田勝家に由来するとか。形が良いとの相棒の感想。
大井戸茶碗 銘喜左衛門/本多(孤篷庵・国宝)
No.1。で、一回りしてこの国宝を見ると、どーしてこれが国宝なのか、と思ってしまうのである。素人目には細川の方がはるかに面白くて、喜左衛門は、あまりにも変哲がない。

というわけで、やっぱし茶碗は奥が深いのだということを改めて思い知ったのだった。とりあえず、我々ふたりは細川が一番よかったということで意見が一致した。
このほかの見ものとしては、展示室6の国宝「鶉図」があった。また、根津は青銅器もよい。

庭園の一角にある NEZUCAFE で数量限定のハンバーグとニース風サラダを食べ、新宿で買い物をしてから帰った。
(根津美術館・2013年12月7日観覧)

知られざるミュシャ展2013-12-11 23:39

自分はミュシャにはそれほど興味がない。テレ東の『美の巨人たち』の放送も観たけど、なんかあんまり入り込めなかった。が、運良く招待券をゲットしたので、まあ、観に行ってもいいかな、と思った。
なかなか土日の都合がつかないうちに、会期末が近づいてきた。そこで金曜の仕事上がりに相棒と待ち合わせて行くことにした。美術展はちゃちゃっと切り上げて、そのあとにどっか旨いメシでも食いに行くとしよう。


終業と同時にダッシュしたら、横浜そごうには18時前には着いた。ディナーの予約は19時半なので、時間はたっぷりだ。会場は、空いてるかと思ったら、まあまあの込み具合。やはり仕事上がりっぽい人が多かった。

入ってすぐは、ぽくない絵ばかり。まだ自己のスタイルを確立する前の作品みたいだ。
しかし進むとやがて、いかにもミュシャなキレイキレイ系の絵が登場してきた。ふうん、と思いつつ眺めていると、コーナーを曲がったところで大ポスターが並んでいた。
それは「ジスモンダ」をはじめとする、サラ・ベルナールをフィーチャーした等身大くらいのポスターだった。これらはさすがに見応えがあった。
自分が感心したのは、画よりも総体的なデザインというか、フォントと全体との調和だ。レンガ調だったりポップ調だったりの文字が、背景に見事に溶け込んでいる。「第6回ソコル祭」などは、1862とか1912とかの数字が字としてではなく、完全な装飾デザインと化して配置されていた。

最後に会場をもう1周した。今まで食わず嫌いだったが、初めてミュシャをイイと思った。期待していなかった分、尚更よかった。
絵ハガキはどれも人物部分を大写しにしたものばかりで、自分にとって一番興味深い字の部分が見事にカットされていてガッカリ。そこでいっそのこと、と思い切って図録を買った。図録に掲載された図版は褪色が復原してあって、展示作品よりもキレイなので逆によかったかも。そのほか、数枚の絵ハガキと、ダロワイヨとのコラボ商品のチョコを買った。これはパッケージが「椿姫」のデザインの缶なのだ(これも文字部分がカットされているのがとても残念だ)。

さて、楽しみにしていたディナーはひっさびさのオ・プレチェネッラ。メインにいただいたドンブ産うずらのフォアグラリゾット詰めは濃厚で、どっしりと食べごたえがあった。満足な花金だった。
(そごう美術館・2013年11月29日観覧)

国宝 興福寺仏頭展2013-12-08 21:19

仏頭展看板
タイトルからして仏頭推しのこの出開帳、実は東金堂の十二神将が揃って間近で拝めるというのも魅力的。いつもは東金堂で横一列に並んでいて、距離も遠いし薄暗いしでなかなかじっくりと見ることができない。


上野駅構内の美術展チケット売り場でチケットを買ってから芸大美術館に向かう。芸大美術館は2004年の興福寺国宝展以来だから9年ぶりだが、その時の印象がとても強くて、今でも館内のようすは結構記憶している。おそらく仏頭は3階の展示室におわしますに違いない。
到着は10時ちょい過ぎ。チケットを買い求める列を尻目にさっさと入場し、「順路は地下からでーす」という案内をものともせずにエレベータで3階に向かった。

3階の展示室にはすでに10人ほどの観覧客がいた。そしてそこは予想どおり、仏頭と十二神将だけのスペースとなっていた。いや、厳密には、仏頭の裏側に特別陳列の深大寺の釈迦如来があったが、そこはいかにも世界が違っていて、仲間外れの釈迦如来は居心地が悪そうだった。

銅造仏頭(国宝)
No.51。メインゲストの仏頭は正面奥に鎮座ましましていた。興福寺国宝館では目線ほどの高さにあったように記憶しているが、ここでは少し見上げるよう。そのせいか、なんだかちょっと素っ気ないような気がした。
十二神将立像(国宝)
No.52~63。仏頭に向かって左右に6体ずつ立っていた。6対6で向かい合っていたが、それぞれの列は横一列ではなく、ジグザグになっていた。
いろんな表情や仕草がおもしろい。頭の上の十二支を探して見ている人が多かった。真達羅しんだら大将の寅が虎に見えないと笑う人多数。相棒は、履物を比べるとおもしろいという。なるほど、アイーンしている招杜羅しょうとら大将は脛当ての模様が凝っていたり。剣で突き刺す伐折羅ばさら大将は一番激しい動きなのに草履だった。頞儞羅あにら大将なんかは UGG みたいな、今時の女の子が履いてそうなやつだった。
さんざんぐるぐるまわってから地下の展示室へ。
板彫十二神将(国宝)
No.39~50。それぞれの体の向きからして、本来はでかい本尊の台座に貼り付けられていたのではないかということで、今回はそれを再現する展示方法となっていた。台座を模した四角い箱が建てられ、その四面に3体ずつが展示されていた。
板彫りだからか、姿勢がユーモラスだ。摩虎羅まこら大将の格好は「いや~ん」しているということで相棒と意見が一致した。
あと、3階の十二神将と比べておもしろかったというか、ふうんと思ったのは、同じポーズを別人がしているということ。特に○○大将はこのポーズ、というのが決まっていないようなのだ。例えば立像で矢をすがめているのは宮毘羅くびらだが、板彫で同じポーズなのは頞儞羅あにらなのだ。

ほかにも扉絵とかもあったけど、なんといっても3階の濃密空間が良かった。満足、満足。
絵ハガキを4枚買ってから、ミュージアムカフェに移動。地ビールセット(曽爾高原ビールと、柿の奈良漬・きびなごのつまみセット)を飲んでから、相棒は大和豚のグリル、自分は大和鶏の照り焼き丼を食べて満腹になってから家に帰った。
(東京藝術大学大学美術館・2013年11月2日観覧)

レオ・レオニ 絵本のしごと2013-07-15 11:28

東博は本館と平成館との連絡廊下に、他の展覧会のポスターが貼りまくられているのだが、4月に大神社展を見に行ったときにそこで何となく目についたのがこのレオ・レオニ展だった。『フレデリック』の栞型の割引券があった。すっとぼけた顔が何とも言えず、イイ。
小学校の国語の教科書でお馴染み、ということらしいのだが、自分はまったく知らない。単純に、絵そのものに興味を持ったので行くことにして、前売券を買っておいた。


どうせ空いてるだろ、と思っていたら、日曜の開館ちょっと後に行ったのに親子連れで結構な混雑だった、というブログ記事を見たので、とりあえず開館10分前に着くように出かけてみた。
朝から強烈に暑くて猛暑日確定の様相だった。駅からなるべく地下道を通って行くことにする。東急本店へは109横の出口が一番近い。地上に出ると、道の向きと太陽の差し込む向きが完璧にシンクロしていて灼熱地獄だった。
道を歩いていて渋谷にしては親子連れが多いなと気になったが、やはりみんなライバルで、Bunkamura へと吸い込まれていく。ざっと数えてみると、我々はだいたい60~70番目くらい。Bunkamura は開館前の行列ができても屋根の下に入れるので安心だ。

小さい子も多くて、さだめし中は阿鼻叫喚の・・・と思ったら、美術館的な雰囲気を察知したのか、小声で話している子供ばかりで、無闇に走り回ったり、泣き喚くような子はいなかった。逆に、美術館的な場所に慣れていない大人の方に声高に話す人がいてうるさいくらい。
作品の展示位置が普通の美術展と同じだったので、子供にはちょっと高すぎると思ったが、手の届くところだとガンガン触られてしまうだろうし、よほど小さい子は抱っこしてあげればいいのだろう。

作品は、彫刻なんかもあったが、ほとんどが絵本の原画。原画はインクとかで塗られてるものと勝手に想像していたが、意外なことに、水彩や貼り絵が多く、色鉛筆や油彩もあったりして、実にバラエティに富んでいた。
みどりのしっぽのねずみは油彩で、仮面を焼くラストシーンでは、焚き火の前のねずみの顔が、火に当たっているようにほんのりとベージュのグラデーションが施してあり、絵本とはいえ中々こまかいなあと感心した。

シオドアとものいうきのこは、きのこで埋め尽くされたシーンがよかった。「Quirp」の吹き出し(このフォントがまたなかなかイイ)のついた一面の青いきのこがポップでおもしろかった。この「Quirp」の意味というか語感が自分にはわからなかったのがちょっと残念だった。訳絵本でも「クイルプ」とそのままになっているようだ。

教科書で有名だというスイミーは、原画はなかったが、なかなか楽しい仕掛けがされていた。一番奥の一角の壁に、小さな魚をたくさん映す映像コーナーになっていたのだ。アクアリウム同様ゆらゆら泳いでいるのを見ているだけでも飽きないのだが、その魚に近づくと魚たちが逃げ出すという仕掛けになっている。それが時折、ちゃんとみんなで大魚の形になったりする。もちろんスイミーはちゃんと目の役をしていた。
親子連れは最初から律儀に順序よく見ているので、開館してもしばらくはこのコーナーまで到達していない。魚を追いかけたりして遊んでみたら、案の定楽しかった。

30分くらいで一通り見終えてショップコーナーに行ってみると、レジの前に行列整理のガイドテープが張り巡らされていた。銀行のATMコーナーにあるようなやつだ。どうやら混雑時には活躍するようだが、幸いまだ行列はできていなかった。絵ハガキ7枚と、フレデリックの携帯ストラップと、(随分早いけど)来年のカレンダーを買った。
最後にもう一周しようとスタート地点に戻ると、人だかりが凄かった。もうじっくり観るのは難しいような状態。まだ10:45だ。スイミー映像コーナーには子供がたくさんいた。みんな遊び方を知らないらしく、大人しく座って眺めていた。親が手本を見せてやらないとだめなのかもしれない。

会場を出ると、入口には相当な列が出来ていた。Bunkamura でここまで凄いのは初めて見た(が、それは自分が印象派展みたいなのに来たことがないからかもしれない)。行列は、子供やベビーカーで雑然とした感じだった。
展覧会の半券提示でスパークリングワイン(又はオレンジジュース)のサービスがある本館8階のレストラン「タント・タント」で食事をしたあと(ここのパスタは絶品だ)、半券提示でイタリアワインが10%割引になる地下のワイン売り場でワインを買い込んでから、帰宅の途についた。田園都市線から見た多摩川のBBQ広場は猛烈な人出で凄まじいことになっていた。朝から暑い一日だったが、結局東京は34.6℃止まりだった。
(Bunkamura ザ・ミュージアム・2013年7月14日観覧)

牧野邦夫―写実の精髄2013-05-23 23:12

テレ東系『美の巨人たち』の放送を見て興味を持った展覧会。牧野邦夫という名はこれまで全く知らなかった。作品は個人蔵が多く、これほどの数が集まることは珍しいというので見逃せないと思った。
さらに、4月に行ったばかりの大神社展のチケットがなんと懸賞で当たってしまったので、その後期展示のチェックと合わせて東京へ出かけることとなった。


混雑は大神社展の方が凄いだろうという予想から、まずは上野へ向かった。上野公園に入ると、西洋美術館のラファエロ展の行列が凄いことになっていた。列は角を曲がってさらに続いていた。数百人はいると思われた。
9:25に東博の門前に着くと、並んでいるのは50人くらいだった。しかもこのうち半分は、国際美術館の日に合わせて無料開放の常設展を見にきた人たちで、列が分かれると大神社展はたかだか30人くらいになってしまった。会期中盤を過ぎて残り2週間でのこの有様からすると、たぶん大コケなのだろう。

後期の展示で見たかったのは北野天満宮所蔵の『北野天神縁起絵巻』と、青森の櫛引八幡宮の鎧である。『北野天神縁起絵巻』といえば、雷神と化した天神様が怒ってる巻五の印象が強いが、展示は巻八で、なんだかとてつもなく地味で、かなりがっかりした。青森の鎧は美しかったが、なんだか訴求してくるものがなかった。例えて言うなら、美人なんだけど、なぜか顔を覚えられないファッションモデルとでもいうか。兜から何から一式揃っているのが最大の価値で、美術的にはそれほどのものでないのかもしれない。

というわけで、10時過ぎには平成館を出た。本館でやっていた『古地図と地誌』の展示を見てから(地図好きにとってはこれはなかなか面白かった)、池の端薮で昼食に蕎麦を食べたあと、山手線・西武線と乗り継いで中村橋の練馬区立美術館に着いたのは12:30を少し過ぎたくらいだった。
館内はさほど混んではいなかったが、かと言ってがらがらでもなく、ほどほどの入りだった。会場は1階と2階に分かれていて、順路としては1階から回るのが正解だったが、(我々はそんなことを知らなかったので)2階から見て回った。
かなりの数の作品に千穂夫人のコメントが寄せられていた。

複製のある部屋
No.24。第9回安井賞候補新人選入選。
男児
No.87。男「児」というよりは青年ぽい男性がたくさん描かれていて、全員がピラミッド状となっている。で、その頂点あたりに画家の自画像があるのだ。
花帽子
No.106。千穂夫人のコメントによると、制作中の花の絵を見た出入りの画商がこれは美しくて売れるだろうと思っていたら、次に見たときに帽子の下に画家の顔が描いてあって、自画像じゃ売れないよなあとがっかりしたとか。
顔も目から上だけ描かれていて、明らかに帽子がメインなのだが、まあ、確かにこれじゃあ大ファン以外でなければ手が出ないよなあ。
画家R氏の肖像
No.224。R氏とはつまり牧野が尊敬したというレンブラントのことだ。しかし顔はどう見ても牧野本人だ。
死んだ雀
No.251。レコードジャケットを台紙にして描かれている。ピアノの前に男性が2人いるというジャケットの絵がそのまま生かされている。ちなみにレコードはリストのピアノコンチェルトで、奏者はジョルジュ・シフラ親子である。
シャンデリアのある部屋
No.347。シャンデリアは絵の具の厚塗りで表現されている。
旅人
No.348。今回一番気に入った作品。狩人のような格好の牧野夫妻が森の中を歩いている。まわりは怪物みたいなのがいっぱいで、自分はすぐに大好きなブリューゲルを連想した。
セロ弾きゴーシェ(宮沢賢治作品より)
No.378。ゴーシュじゃなくてゴーシェなんだとか。チェロの半分が怪物の顔になってて怖い。
不思議な国に住む絵描きとモデル
No.447。最晩年の作品で、リストには未完成とある。主題の絵描きとモデルよりも、左側にいる女に目がいってしまった。悪魔が自分の髪の毛を引っ張って地中から出てくるところなんだとか。なんか怖い。
ここまでは2階の展示会場の作品。
未完成の塔
No.452。『美の巨人たち』でとりあげられていた作品で、1階展示場の入り口にある。つまり展覧会の最初の作品というわけだ。が、自分にはなんだかピンとこなかった。やはり未完成は未完成なのだと思った。
ビー玉の自画像
No.n-25。チケットやちらしに使われている作品。実物は長辺が33.5cmと、さほど大きくはない。これは1963年の作品だが、1階に展示してある初期の作品は総じてタッチが荒く、若々しい印象を受けた。それにまだ署名の花文字が未完成な感じでもある。

TVでは自画像の多い画家という解説だったが、実際にそのとおりだった。しかもそのクオリティが高いのがいい。展覧会じたいのサブタイトルが「写実の精髄」なのだが、フツーの自画像だけならそう言えなくもないが、現実にはあり得ない光景の中の自画像だったりして、そうすると果たして「写実」と言っていいのかどうか、自分にはちと疑問に思えた。

絵ハガキはセレクションがビミョーで、図録代わりの画集は3,300円もしたので、悩んだ挙句に結局どちらも買わなかった。だが観覧料は500円とイマドキにしては安く、その割には充実した展示で、よい展覧会を見たあとの快い気分を味わえた。
池袋のデパートをぶらぶらしてから新宿に出て、「達 菊うら」で食事をして帰った。
(練馬区立美術館・2013年5月18日観覧)

国宝 大神社展2013-04-24 19:58

なかなか公開しない神社のお宝がわんさか出るという噂の展覧会。国宝・重文160件という。が、出品リストを見ると、例によって「○○出土品」とかが多く、正直ビミョー。だが見たことのない国宝もいくつかあるので、一度は行っておいた方がよいだろう。
展示は前期・後期に分かれるが、リストから前期を選択。前期の雰囲気で、後期にも行くかどうか考えることにした。

大神社展


開場時間ちょっと前に門前に着いたが、入場待ちの列は、列というほどのものでもなかった。まだ会期初めだからか、それとも内容が地味過ぎるのか。
9:30になり、ゆりの木の枝にとまったカワラヒワが鈴のような美しい声で鳴く広場を、平成館へ向けてしずしずと進んで行った。庭の芝で和んでいたツグミが、急に押し寄せた人たちに驚いて飛び去った。

金銅製雛機(宗像大社・国宝)
No.72。なかなか精巧なミニチュアの機織り。
海部氏系図(個人蔵・国宝)
No.83。天橋立にある籠神社の宮司家の系図。なかなかお目にかかれない品で、国宝ウォッチャーとしては見ておかねばならないものだ。
しかし、歴史資料としては一級品なのだろうが、美術品としては、まさに「見た」という、それ以上でも以下でもない品であった。
沃懸地螺鈿金銅装神輿(鞆淵八幡神社・国宝)
No.116。10年前に滋賀県の日吉大社で室町時代の神輿をいくつか見たが、これは平安のもの。しかも螺鈿の装飾とあって優美で豪華だ。幡の細工も繊細で素晴らしい。
これまた祭礼の日にしか見られないものとのことで、海部氏系図とともに今回の目当てのひとつなのだが、どうやら自分は2000年に開催された日本国宝展で見ているっぽい。
人物画像鏡(隅田八幡神社・国宝)
No.143。一言で言うとヘタウマ。このすぐ近くに海獣葡萄鏡(No.144)が展示されていて、その精緻さのあとで見るもんだから、余計に下手さ加減が目につくが、しかしこれはハイレベルなデフォルメという気がしてしかたない。非常にデザイン的で、こういう模様のTシャツとかあってもおかしくないくらいだ。少なくとも自分は、海獣葡萄鏡よりもこちらの方が断然好みだ。
七支刀(石上神宮・国宝)
No.146。展示ケースの前には結構な人数がたかっていた。係員に「七支刀はどこにありますか」と聞いている人も何人か見かけたし、これ目当ての人はかなりいそうだ。
奇抜な形状がおもしろいが、それにしても自分はこれを見ると「六支刀」なんじゃないかといつも思ってしまう。文字の象嵌もきれいだ。
海松円文螺鈿鞍(手向山八幡宮・重文)
No.165。形が古代で装飾が中世ということで、その過渡期にある鞍なんだとか。模様がとても美しい。
武装神坐像(大将軍八神社・重文)
No.207。なんと四天王のような神像。でも、四天王ではあり得ない坐像であるのが異様といえば異様。また、金色の神像は珍しいとか。そう言われれば、神像って木地がそのままだったり、服の色だったりするような印象だ。
神像は服の衣紋を彫らないので、どれもこれものっぺりしていて、それが居並ぶさまはちょっと不気味な感じがした。でも好きな人はパワースポットとか言ってよろこびそうな気もする。
女神坐像(八坂神社)
No.220。なんと十一面観音のような神像。でも、足の組み方やらなんやらが仏像とは確実に違う。
本地垂迹的な発想で、この像は白山神で、その本地仏が十一面観音という。ちなみに所蔵している八坂神社は福井県の神社だ。

地味に面白かったが、コレといった目玉がない感じは否めない。強いて言えば七支刀がそうなのかも知れないが、それにしてはPRが今ひとつ。『空前絶後の神道美術展』を謳うのならば、三井寺展の黄不動クラスのような、生きている間に一度お目にかかれるかどうかという超レアものが見てみたかった。たとえば吉野水分神社の玉依姫命坐像だとか。
後期でも見たいのは北野天神縁起と、青森の櫛引八幡の鎧くらい。どっちもその気になれば現地に行って見ることができるわけで、そう考えると自分にとってはもう一押し足りない気がして、後期は行かないことにした。
なわけで、11時前には平成館を出た。自分たちにしては早い。絵ハガキもなんだかピンとくるものがなくて買わなかった。カタログは見る気も起きなかった。でも、繰り返すが、地味に面白かった。

本館2階で新指定の国宝・重文展示を見てから、東洋館のレストランゆりの木でかつりんは雉子丼、相棒は伊勢うどんを食した。いずれも、神社展にちなんで伊勢の食材を使ったものだった。ついでに神都ビールという地ビールを飲んだ。
雉子丼
午後は、本館・新装なった東洋館・法隆寺館など、フルコースでじっくり見て回った。博物館を出たのは閉館近い16時半過ぎだった。年に何度かは訪れる東博だが、そこまで長時間いたのは記憶にはない。夕食に新宿ですっぽん料理を食べてから帰宅した。
(東京国立博物館・2013年4月20日観覧)

曜変・油滴天目 -茶道具名品展-2013-03-18 22:49

静嘉堂文庫美術館の所蔵する国宝・曜変天目茶碗が展示中とのことなので、見に行ってきた。


静嘉堂文庫は二子玉川駅から歩いて行ける距離だが、1年ぶりで道がうろ覚えだったので、バスを利用した。美術館に着いたのは10時を10分くらい過ぎていた。思ったより人が多かった。

唐物茄子茶入 銘「付藻茄子」
No.49。展示室に入ってすぐ右に置いてある。岩崎弥之助が最初に買った茶道具なんだとか。
大坂夏の陣で破損したのをつなぎあわせたというが、そのX線写真を見ると、よくこの器の欠片だってわかったねとツッコミたくなるほどの細かさ。釉薬のとろり感が素晴らしい、と思っていたら、修復時の漆の塗りだと知ってびっくりした。『へうげもの名品名席』でもそんなところまでは触れてなかったような。とにかく、これほど聞こえた名物でも文化財指定がなされない理由はそのあたりなのだろうか、などと思ったりした。
曜変天目(稲葉天目)(国宝)
No.69。世界に3つしか現存しないという曜変天目茶碗のひとつ。実に美しい。キャプションにも一碗の中に宇宙を見るかのような神秘的な茶碗とある。自分は万華鏡を連想した。
製作者は、果たして意図的にこの斑紋を出せたのだろうか。NHKスペシャルで、再現に取り組む陶芸家たちのドキュメンタリーを観たが、それは現代でもなかなか難しいことだった。
油滴天目(重文)
No.70。まず、意外と大ぶりなのに驚いた。油滴の名のとおり、水面に薄い油膜が張ったような色・形の斑紋。
展示ケースの底面からも照明があたっていて、器の外側も鑑賞できる。釉薬が今にも垂れ落ちそうなところで止まり鍾乳石のようになっていて、そのとろりとした中に流れ込むように斑紋が続いているのがとても美しかった。
野々村仁清作 数茶入 十八口揃
No.63。18種類のちっちゃな茶入。実用品というよりは見本品なのだろうか。
瀬戸芋子茶入(古瀬戸) 銘「雨宿」
No.56。自分は、形はこの芋子の方が肩衡よりも、なんとなく好きだ。釉薬の流れもなんとも言えずよい。

曜変天目や油滴天目、仁清の吉野山茶壷などの照明には有機ELが使われているとのことで、言われてみれば自然な色だったような。ただ、そのせいかどうかわからないが、壁面の展示ケース内の作品は逆に暗く見えた。付藻茄子などは現物よりも絵ハガキの方がよく見えるほどだったのだ。ガラスの反射も見難さを増している。そういえば、新装なった根津美術館のガラスは反射がなく、まるでガラスなんかないように錯覚するほどで、凄かったのを思い出した。

帰りは二子玉川駅まで歩いて行った。
前年にも静嘉堂の帰りに寄った、高島屋にある『金澤の寿司 華爛』という店で昼食をとった。やっぱり穴子は美味かった。酒は白穂乃香ビールを飲んでから、能登飲み比べセット(遊穂・池月・千枚田)に移った。ランチセットにほたるいかがなかったので追加し、調子に乗って、なめらという魚の薄造りと、のど黒の蒸し握りというのも追加した。そして池月を追加で飲むことにした。やっぱりほたるいかは美味かった。なめらはもっちりとした食感と甘味がこれまた美味だった。少し待たされてから出てきたのど黒は、握りというよりは蒸し物の範疇だろう。これまた繊細な味わいがよかった。そしてこの店は、寿司屋なのにプリンが激しく美味い。
大満足で店を出たのだが、懐がシベリア並みに寒くなった。
(静嘉堂文庫美術館・2013年3月16日観覧)